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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
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8話 遅れて到着する者

少し遅れました。

 フィーリア王国の王都にあるギルドにたどり着いたヤマトは急いで扉を開けて中を確認する。

 他の冒険者がヤマトに驚いたような視線を向ける中ヤマトは一人の人物を目に捕らえた。



「カーラさん!」


「ヤマトか! すまないな、少し遅れてしまった」



 どうやら修理に出していたレイピアが戻ったようで腰には彼女の愛用のレイピアの姿があった。

 ともかくカーラがここに来た事にヤマトは歓喜した。


 やはりSSランクホルダーというのもあるし、カーラと手分けすれば情報が集まらない今の状況も改善されるのではないかとの期待もあったからだ。

 ヤマトはすぐにカーラに駆け寄り付いてくるように頼む。


 カーラはそれに快く頷き、そのまま二人でギルドの外に向かった。



「それで、中々情報が集まらないと?」


「そうなんだ……。正直厳しいな」



 ギルドを出た後はヤマトは聞き耳を立てながらカーラに今持っている自分の情報や城の雰囲気などを一つ一つ詳しく話していく。

 ヤマトにとってカーラは先輩に当たるので今の状況において頼れる数少ない人物の一人であるのだ。



「そうか……。そういえばもう時期に国王も帰還してくると思うぞ」


「ああ。多分会談が終わったんだろ? 明日くらいには帰ってくるかな?」


「いや、早ければ今日にでもここに着くと思うぞ」



 もうじきに会談が終わる事は予想していたヤマトは差して驚きはしない。

 とりあえず、今の現状を報告し、次に対策やこれからの動向について相談しようかなとヤマトは考える。



「ああそうだ。私は国に関わる気はないから、協力はするが城には行かないからな?」


「分かってるさ。SSランクホルダーのカーラが国に仕える事になったら影響がいろいろと凄そうだしな」


「そういうわけだ。国の将はガランの“剣聖”だけで十分だ」



 そもそもガラン帝国は大陸上でおそらく最も軍事力がある。

 それはスクムト王国すら上回るほどに。

 だが、ガランは昔からの大陸の国々の祖であるからそれは当たり前で、また安易に戦争を仕掛けたりしない。


 ガランはどちらかといえばどの国とも中立の立場である。

 今はスクムトが支配の手を伸ばしているからこそフィーリアに協力するだけで、逆ならば容赦はしないだろう。


 ともかくもそのようなガラン帝国は当然どの国にも負けない強い軍事力が必要である。

 だからこそSSランクホルダーの“剣聖”が将として仕えていても他の国から敵対心を抱かれることは少ない。



「まあ、ヤマトが将軍になっているのは仮であるし、まだ・・SSランクホルダーにもなっていないしな。其処までの影響はないだろう」


「まあな~。カーラが国に付いたら偉い事になりそうだ」



 ヤマトは今だ自分よりもカーラの方が実力は上だと思っている。

 武道大会では勝利こそしたが、それは超感覚能力マストを使用したためであり、それが無ければ圧倒的にカーラのほうが格上である。


 カーラからしてみれば謙遜のなにものでもないが、ヤマトとしてはカーラが上だという意識は変わっていないのである。



「ともかく、ヤマトと私は手分けして情報を集めてみよう。五日後に王都の中心にある宿に来てくれ。そこで情報を照らし合わせるぞ」


「オッケー。分かったよ。カーラも頑張って」



ヤマトとカーラは二手に分かれて侵入者について探る事にし、そこで別れる。

ヤマトはその後は城に戻る為に帰路に着くのであった。





     ★★★





 そうして王宮に戻り、侍女や兵、騎士達と会話や手合わせをしているとあっという間に時間が経ち、既に夕方になっていた。

 するとなにやら王都で何かが騒がれているようでかすかに声が聞こえてくる。



「何かあったのか?」



 騎士の一人が騒ぎに気付いたようだ。

 すると何人かの兵が慌てた様子で城中を駆け巡ってはこう叫んだ。



「国王様のお帰りだーーーーッ!」



 ……どうやらフィーリア国王バーンが帰還を果たしたらしい。

 周りの者が出迎えの為か、急いで入り口に向かった。



(これで少しは好転するといいんだけどな)



 勿論、国王が帰ったところで何か状況が良くなる事はないであろう。

 それでも何か重要な話が聞けるかもしれない。

 ともかくも五日後にカーラと情報を照らし合わせた時点で侵入者についておおよその見当を付けたいとヤマトは思っていた。


 とにかく、ヤマトも遅れながらに皆の後をゆっくりと追っていると、どうやら兵が言った通りバーンが自らを守る最強の騎士、ザクロを従え戻ってきたようである。

 そのままバーンは自らの玉座の間に戻るように進んでいる。


 その時、ふとバーンはヤマトと目を合わせた。

 そしてふっと笑ってはすぐさま前を向いて歩き出す。


 ヤマトは今は国王の下に行くのはいけないだろうと悟り、自分が国王の下を訪れてもいい時間になるまで皆と同じように王の帰還に騒ぐようにしていた。





     ★★★





「そうか……。進展はあまりないか」



 今は会議室のような場所でヤマトはバーンとセリーナの三人で今まで集めた情報を話していた。

 情報と言っても有力なものは得られていなく、手に入れた情報は侵入者がおそらく男であろうことや城の地下水路から侵入したらしい事ぐらいである。



「相手も中々用心深そうね」



 全くだとヤマトは溜め息をつきそうになった。



「とりあえず地下水路に兵を送って調べさせる事は出来ないか?」


「そうだな……。今はそれぐらいしか出来ないだろう」



 ヤマトの言葉に頷くバーンは明日から実行する事を口に出す。

 だが、ヤマトはそれだけでいいのか不安が多少ばかり残った。



「なあ、明日からセリーナを借りてもいいか?」


「どういうことだい?」



 突然のヤマトの言葉にバーンは驚いてみせる。

 それは当のセリーナも同様であった。



「俺も明日から地下水路に潜るつもりなんだけど、セリーナの魔力感知が欲しいところなんだ。だから同行してもらえると助かる」



 ヤマトの言葉は確かにと思わせるものだ。

 普通に広い地下水路を探しているのでは時間が掛かりすぎる。

 しかし、魔力感知の長けたセリーナと聴力強化+感知魔法を使えるヤマトならば何か分かるかもしれない。


 しかし、自らの娘をそのような危険な場所に行かせる事はバーンは心から反対を言いたかった。

 バーンは一国の王であり、またセリーナの父でもあるのだ。



「……悪いのだがそれを承諾する事は――」


「私でよければ構いませんよ?」



 バーンがヤマトの提案に拒否しようとした瞬間にセリーナはそれを了承した。

 これにはバーンも焦りをみせる。



「セリーナ。これは遊びではないんだぞ?」



 そう、これは一国の王女が気軽に首を突っ込んでいいものではない。

 この件についてはヤマトや兵に任せておいて大丈夫なはずである。

 セリーナの魔力感知によりヤマトに協力させることよりもバーンは城でおとなしくしているように言った。



「いえ、私も協力したいのです」



 しかし、セリーナは頑固として協力を申しでる。

 その勢いは凄まじいもので、とうとう国王たるバーンも屈服してしまった。



「はあ…。わかった。もうお前を止めはしないから、無事に帰ってきなさい」


「わかっています」



 父の了承をもらえた事が嬉しいらしく、セリーナは微笑んでいる。

 そんなセリーナを見て再度溜め息をついたバーンは恨めしそうな表情で言いだしっぺのヤマトに目を向けて「頼むから怪我をさせないでくれ」とだけ告げた。



「ああ、分かってるさ」


「大丈夫よお父様。ヤマトは物凄く強いから」



 セリーナは王都に付くまでに数回ヤマトの戦闘を見ている。

 そのたびにセリーナが感心するほどヤマトの実力は高かったのである。



「娘を連れて行くんだ。手柄無しでは許さんぞ?」



 これが娘を送り出す父親か~と面白くなってきたヤマトは含み笑いをしてしまう。

 それにさらにバーンは不機嫌になるが、元々この件を依頼したのは此方であるからあまり文句は言えずに居た。



 そうして、ヤマトは明日から地下水路に潜る事になり、進展がある事を切に願うのであった。






読了ありがとうございました。

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