プロローグ
処女作です。
これから少しずつ腕を上げていけたらな~と思っています。
読みにくい小説と思いますが、暇な方はどうぞ読んでやってください。
ユスターヌ大陸から少しばかり離れた孤島、そこには一つの民族が暮らしていた。
他の国とは親交を持たない、謎の民族。
大陸の国々ではその存在すら確認されることのない幻の存在。
だからこそ、その民族は侵略されることなど今までになく、平和な生活を堪能していた。
しかし、永遠の平穏など世界のどこにも存在しない。
それはこの民族とて例外ではなかった。
いつかはその平穏は崩れ去る。
……この民族の最後の日もまさにその時期が訪れていたというだけだった。
★★★
その民族は木造建築の家が多く立ち並んでいた。
農業、工業は村の皆で共同作業で行われ、分け合っていた。
他国との交流が全くない為に文化の水準は大きく衰えていたが、問題はない。
戦争の相手となるものがなく、人の心が歪むような巨大な力のようなものもない。
村の者たちも温厚な者が多く、さらに村の村長は代々有能な者が付いていたので争いの火種も少なくて済んでいた。
……だからこそ今の今まで村は平和だった。
「“例の鍵”を探せ。ここにある筈だ」
黒いローブを身にまとい、長い白髪を垂らして禍々しい赤い眼光を光らせる男の命令によってその襲撃は幕を開けた。
今までの平和が嘘のように侵される。
襲撃してきたのは全身を黒ローブで覆った謎の集団だった。
人が切られ殴られ倒れ伏していく。
「なんだよ……これ……」
その光景を見ていた少年は思わず声が漏れてしまった。
野菜を分けてくれた老人、一緒に遊んだ同年代の子供、村の事を親切に教えてくれた女性。
皆が謎の集団によって命を刈り取られていく。
木造建築の家は燃やされ、田畑は荒れる。
それが視界に入った瞬間、様々な感情が少年に襲ってきた。
「ヤマト!」
「――父さん……!」
自らの名を呼ぶのは屈強な体つきをした反れて曲がった剣――刀を持つ男。
黒髪に黒目を携え、その顔には頼もしさを感じる。
その言葉から少年の父親だということが分かる。
少年の父親は急ぎ息子の下へ向かう。
その際に襲撃者の数名を切り捨てるところを見るにかなりの実力が分かる。
「父さん……どうすれば……」
「お前はまず奥の神殿に避難するんだ。そこには母さんも向かわせている」
「――父さんは?」
その少年の不安な表情を浮かべながらの問いに少年の父は苦笑を浮かべる。
「まだ残っている人の避難を手助けする。他の戦える者も来ているぞ」
笑みを浮かべながら少年の頭を撫でる。
その行為を受けてか、少年は涙を流した。
そんな少年に父は力強くこういった。
「なぁーに、俺は今まで一度も死んだことはない! そうだろ?」
その言葉に当然じゃないかと少年は涙を流しながらもクスッと笑みを零す。
少年のその表情に満足した父は、向かってくるローブの襲撃者数人を振り向きざまに一閃して地に伏せた。
「ヤマト、行け!」
その言葉と共に少年は駆けだす。
倒れる者、血を流す者、逃げ出す者。
それらを視界に止めながらも少年は足を止めることはない。
ふと少年は未だ戦う父が気になり、後ろを振り返る。
……少年の目には父の背中は大きくたくましい、それでいて輝いているように映った。
★★★
しばらく走れば少年は父の言っていた神殿に着いていた。
手入れはあまりされていなく、苔や木のツタが巻き付いている。
石造りのその建物は作りが相当古いのか、ひどく傷がついているようだった。
しかし何の素材を使っているのか、その素材はひどく頑丈で何百年と崩れることはなかったと少年は聞いている。
少年はその神殿に素早く駆け込んだ。
中には負傷者や避難民が多く佇んでいる。
そのほとんどはこの小さな村の中では当たり前だが見知った人物達である。
そんな中、少年の姿を捕らえては一目散に走り寄ってくる女性が居た。
長く綺麗な黒髪を持ち、その大きな黒い瞳は見る者を吸い寄せるような魅力が感じられる。
「ヤマト! 無事だったのね!?」
「母さん!」
少年の下に駆け寄りその豊満な胸に少年の顔を埋めるのは少年の母親だった。
その目からは涙がいくつも零れ落ちる。
その母の温かさに少年はギュッと抱き返した。
そしてそのまま少年は母の背中をたたき、離れる。
「母さん、状況は?」
「私も良くわからないわ。――もしかしたら……」
「もしかしたら?」
母の思わずといった言葉の先端に少年はそれの内容を聞き返す。
その問いに少年の母は口を開きかけ――おもむろにその口を閉じる。
「――聞かない方がいいなら聞かないよ」
「……あなたは本当に昔から聡いものね」
少年の母はそれをどこか誇らしく感じていた。
自らの息子は昔から何かと知恵が回っていた。
時折、自分たちも理解できなくなる時でさえある。
そんな息子の稀有の才能にはいつも微笑ましく見守ったものだ。
「母さん、ヤマト! 無事か!?」
「父さん!」
そんな時、少年の父親が帰ってきた。
所々に傷が見られ、手に持った刀は血でべっとりと汚れている。
おそらく何回も戦闘を繰り返してきたのだろう。
「母さん、最早迷っている時間はない。すぐに転送の準備を!」
「――わかったわ」
父の言葉を聞いた母が息子の手を握る。
そして奥にある通路に向かい歩こうとしたときに一人の村人の男性から呼び止められた。
「村長……あなたの息子はまだ12歳です。そんな状態では……」
「確かに心配だな。だが、“あの刀”を持ったまま転送で送ることが出来るのは俺の息子以外に誰も居らんぞ?」
「そうですが……」
男は何かを言おうとして、それを止めた。
最早少年の父の決意は固い。
それを赤の他人である自分がズケズケと踏み込んでいい者でもないと思ったのだ。
だから少年に向かい、一言だけ、優しい表情でこう言った。
「……ヤマト君。辛いことが何度もあるだろうが、負けてはだめだよ?」
「――どういうこと?」
男の言葉と共に状況を今一理解できないまま少年は周りの者からの視線の中で親二人に連れ去られる。
その時の周りの人々の表情はなぜか寂しそうな笑みだった。
まるで死地の戦場に出発する兵を見送るような表情。
その中で父と母に手を引っ張られながら、少年は長い石造りの廊下を進んでいく。
手を引っ張られて連れてこられたその先には一つの部屋があった。
少年の父が扉を開いて中に入る。
それに続くように少年とその母も部屋に赴いた。
その部屋は一言でいうならとても神秘的だった。
外観からは想像もできない、とても神聖さを思わせる場所。
青く光る石で出来た壁や床、天井には何かの絵が描かれている。
そしてその奥には段差があり、一つのいわゆる祭壇が存在していた。
祭壇の中央から描かれた丸い紋章。
複雑な絡みで書かれた紋章の形にすぐそばまで近寄らされた少年は息をのむ。
「ヤマト、これを持て」
「――これは……刀?」
少年が手渡された物は黒い鞘に収まった刀。
それを渡されても使う用途がわからない少年は困惑する。
「これをどうするの?」
「何、今からお前を魔法でユスターヌ大陸のどこかに転送する。お前はただそれを持ったまま逃げればいいだけだ」
「え……」
少年は絶句した。
自らの父親が言った自分だけを転送させて逃がすという事実に目を見開く。
そんな中、準備は着実に進んでいった。
「あなた、準備はいいわ」
「わかった。ほら、真ん中に立つんだ」
「い、嫌だ!」
喚く息子を担いで無理やりにでも紋章のような陣の中央に立たせる。
そして母が少年に手を向けて何かを唱えた瞬間、少年の身体は硬直した。
身体が動かないそんな状況で、少年はただ涙を流すしかなかった。
「ごめんね、ヤマト。――でもね」
少年の母は何を言えばいいのかをしばらく考える。
言いたいことは山ほどある。
おそらく今からの言葉が生きているうちに言い残す最後の言葉となるだろう。
だからこそ伝えたい言葉が溢れてくる。
「これは他の人にはできない、あなただけの役目。いつか必ずこの意味が分かる時がくるわ」」
「今からお前はいろいろな体験をする。その中には辛い事も多いだろう。だがな? いつか守りたい大切なものが出来る筈だ。頼ってもいいような仲間もできるかもしれない」
母の言葉に続き、父も言葉を繋いできた。
しかし、そんな言葉は少年は聞きたくなかった。
頭の良い少年にはその言葉の真意がわかってしまうから。
「大丈夫だ。自分の道を信じて進め」
「あなたは私たちに……“黒の民”みんなに見守られているわ」
その言葉が少年の耳に入った時、後ろの通路の方からいくつもの足跡が聞こえてきた。
瞬間、少年が中央に立つその陣の線から赤色の光が発せられた。
その光は次第に強くなっていき、少年の視界をどんどんと奪っていく。
少年が最後に見たのは黒ローブをその身に纏った死神のような風貌の集団。
そして、光となって消えていく自分の両親の姿。
「父さァァァァーーーーん!! 母さァァァァーーーー!!」
そこから少年の意識は途絶えてしまった。
プロローグではかなり暗くなってしまいました。
本編はできるだけ明るくいきたいと思います。
物語上どうしてもシリアスになってしまいますが……。