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義勇の紋章  作者: 愛自 好吾


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第23話 ミーナを迎えにいこう ③



 「がははははっ! 飲め飲め! 踊れ踊れ! 女共、今日は俺の奢りだあー!」


 「いや~ん、もう、おっぱいに金貨を挟まないで~。」


 「げへへへへへっ! いいじゃねえか! 減るもんじゃねえしよ!」


 「ダンさ~ん、わたしにもお酒奢って~。」


 「おおう、いいぜ! じゃんじゃん飲め! うはははははははっ!」


 「ダンさ~ん、おしりを撫でまわしながら飲まないで~。零れるわ~。」


 「げはははははっ! いいケツしてんな~! ほれ! こうか! これがいいんだろう! ひゃははははははははははははははははははっ!」


 何だこれは?


 テックさんに案内され、やって来たのは歓楽街の一角にある酒場。


 いわゆる、ガールズバーってやつだ。


 店に入るやいなや、お酒の匂いがプンプンしてきて、女が半裸で踊っている。


 客はダン一人、どうやら貸し切ったみたいだな。他の男性客は見当たらない。


 絵にかいたような豪遊っぷり、良いご身分だな、あいつ。


 まさに、酒池肉林の宴。ダンは良い感じに酔っ払っている、結構な事だ。


 「呆れましたね、ここまで分かりやすい豪遊も珍しい。」


 「女を何だと思っているんでしょうか? あの人。」


 テックさんが呆れ、スピナが落胆の表情で感想を述べた。


 「ま、まあこれで、目的の半分は果たしたも同然ですから。良いじゃないですか。」


 俺はここへ来た目的を優先し、目の前の光景を見てチャンスだと思う事にした。


 ダンはべろんべろんに酔っ払っている様子だし、腰の財布を狙うなら今だろう。


 「これ見よがしに金貨をバラまいていますね、早めに行動して正解でした。」


 「金貨が少なくなる前に、何とかあの人から金貨を巻き上げましょう。」


 「しかし、どうやって? 酔っているとはいえ、さすがに財布に関してはしっかりしていそうですが。」


 三人で意見を出したが、ダンがこちらを無視している様子から見て、警戒は薄そうだ。


 何かきっかけがあれば、一気に成功できそうだが、さて。


 「ならば、これを使いましょう。」


 そう言って、テックさんが取り出したのは、例の煙幕の筒だった。


 「煙幕ですか、煙を出して何をするんですか?」


 「何、ちょっとしたアクシデントを演出するのですよ。」


 スピナが質問し、テックさんが答えた。テックさんのメガネは光ったままだ。


 何か嫌な予感がするんだが、アクシデントとは一体?


 「煙が出たところで、火事だー! と叫ぶんですよ。」


 「そんな事したら一気に店の中がパニックですよ、大丈夫ですか?」


 「この店の出入り口は一か所、今私達がいる所です。」


 「はい、パニックになったらみんな一目散にここへ駆け込みますね。」


 「そうです、お金より命の方が大事ですから、みな我先にと押し寄せます。」


 「大混乱ですね、私達も危ないんじゃ?」


 「いいえ、スピナとタナカさんで出入口の左右に配置して、逃げる人を見送ります。」


 「この段階ではまだ何もしない、という事ですね。」


 「はい、ダンも当然逃げるでしょう。その時、他の女性に揉みくちゃにされながらですよ。」


 「なるほど、ダンの周りの女性が密集していますから、腰の財布が無くなっていても気付かない訳ですか。」


 「その通りです、私はダンに嫌われていますので、顔を見たら直ぐに何か仕掛けたなと思われるでしょう。ですので、ここはタナカさんとスピナのお二人に任せて、私は隠れて待機しています。」


 「うん、良い作戦だと思います。タナカさんはどう思われますか?」


 うーん、そう上手くいくかなあ。ちょっと心配だが、他に妙案も浮かばないし。


 「はい、これでいけるかもしれませんね。」


 「それでは、早速行動開始ですよ。スピナ、おしっこを。」


 「え!?」


 「忘れたのですか、この煙幕筒は火を使わない代わりにおしっこを引っかけるんですよ。」


 「いえ、覚えています。それくらい、そうではなく、なぜ私がおしっこを?」


 「ここはガールズバーです、女性が店内でおしっこをしても何の問題にもなりませんよ。」


 「お断りします。」


 「なぜですか?」


 「嫌なものは嫌です。」


 「我が儘言わないでください、さあ、早くおしっこを。」


 「ですから、お断りします。」


 「女性じゃないと怪しまれます、男がここでおしっこして、もし通報されたらどうしますか。」


 「絶対に、嫌です。」


 「我等は後ろを向いていますから、さあ、早く。」


 「そんな急におしっこが出る訳がないじゃないですか!」


 「しー、声が大きい。もっと小声で。」


 「急におしっこなんて出ません。」


 「恥ずかしいのは分かります、ですが今はそんな事に拘っている場合ではありません。」


 「じゃあテックさんがおしっこすればいいじゃないですか。」


 「ですから、男が店内でおしっこしたら怪しまれますよ。ここは女性が。」


 「嫌です。」


 「周りを御覧なさい、他の女性はみな、半裸で踊っています。ここは女性でないと怪しまれてしまうんです。」


 「嫌です。」


 「お願いします、ほんのちょっとでいいんです。」


 「嫌です。」


 なんかもう、どうでもよくなってきた。俺がおしっこしようかな?


 そう思っていたら、ここへ来てダンに動きがあった。


 「おっ! 酒の飲みすぎで小便したくなってきた、便所に行くのも面倒だ、ここでしてしまえ!」


 「きゃあー、いやあー、ダンさん、ここはトイレじゃないわよ。」


 「いいじゃねえか、どうせ他の客はいねえし、お前等だって見慣れているだろう。」


 なんと、ダンはその場でズボンを降ろし、おしっこを店内でするらしい。


 「チャンスですよ、煙幕筒をダンの足元へ投げるのです。」


 俺が二人に言うと、先程まで熱を持っていた会話が冷め、テックさんが慌てて煙幕筒を投げた。


 ころころと転がり、ピタリとダンの足元へ煙幕筒が置かれた。


 テックさんのコントロールはばっちりだ、スピナも心なしかほっとしていた。


 ダンの足元に煙幕筒が止まり、それを見たダンが不思議そうに首を傾げながら言った。


 「なんだあ? この棒っきれは? 俺の棒か? なんつって、ぎゃはははっ!」


 最低だな、あいつ。


 「最低ですね、あの人。」


 スピナもジト目でダンを見ている、だがチャンスだ。ダンが煙幕筒におしっこを引っかければ煙幕が発動する。


 男という生き物は、おしっこをする時、目標があるとそこに向かって出すのだ。


 その心理を逆手に取った上手い作戦に切り替わった、まあ、上手いかどうかはさておき。


 とにかく、良い感じに作戦が作用した。ダンは何も知らずにおしっこを筒に引っかけている。


 すると何と、あっと言う間に煙幕が辺りを包み、火事に見せかける事に成功した。


 「うおっ!? な、なんだあ?」


 ダンは驚きの表情で言い、煙が辺りに充満しはじめる。


 「火事だー!!!」


 と、ここでテックさんが叫び、その途端に現場は大混乱に包まれた。


 女性はみな一目散に出入口へと雪崩れ込み、ダンも揉みくちゃにされながらも逃げ出した。


 ふーむ、まさかここまで上手く事が運ぶとは、あとはダンからこのどさくさに紛れて腰の財布を頂戴するだけだ。


 店の出入り口の左右に俺とスピナがそれぞれ配置して、ダンを待ち構える。


 お! 来た来た! どうやら俺の近くに来そうだぞ。よし、タイミングを間違えない様にしなくては。


 ダンが俺の横を素通りした瞬間を狙って、手を伸ばし、財布を掴む。


 よし! やった! 上手くやれた、ひやひやしたが、ずっしりと重い巾着の感触を確かめ、すぐに自分の懐へと忍ばせる。


 そうして、しばらくした後、店から堂々と出ていく俺達。俺の懐は重い。


 ついニヤニヤが止まらなくなるが、気を引き締めて帰る。


 俺達は無言で裏通りを進み、誰も居ない事を確認して、俺は懐から巾着を出す。


 「上手く、いきましたね。」


 「ええ、お疲れ様でした。タナカさん。」


 「何か、悪い事してるみたいで、ドキドキしちゃいましたよ、私。」


 「実際悪い事ですので、あまり大っぴらに出来ませんし、こんな事は二度と駄目ですからね。」


 「勿論です、分かっていますよ。ただ、今回はダンが悪いと思いますけどね。」


 「ああ、それは言えてますね。フフフ。」


 「フフフ。」


 「ハハハ。」


 こうして、俺達は無事に目的を果たし、金貨を手に入れる事に成功したのだった。


 ダンがそれに気づいたのは、すぐ後だった。


 「そういやあ、あの時の声、テックの野郎の声だったような。ああああああああああああああああっ!!?? さ、財布!? 俺の財布がねえええ!?」


 そうして、ダンの肩に手を置く者が一人。


 「お客さん、お勘定。」


 「へ?」


 「お勘定。」


 強面の店員に首根っこを掴まれ、ダンの顔色がサーっと青ざめていくのだった。


 「あの野郎! あの時何か仕掛けやがったなあ! 絶対に許さねえからなあああああああああああああああ!!」


 歓楽街の一角に、ダンの叫びがこだました。




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