第21話 ミーナを迎えにいこう ①
ここまでの話で、俺達は一旦区切りを付けて水を飲みだす。
人心地付き、ホッとした様子でお互いの顔を見やり、頷き合う。
「要するに、タナカさんの紋章がバレない様にするべきと言いたいのよ。」
シルビアさんが言い、テックさんが頷きながら後に続く。
「義勇の紋章に限らず、紋章持ちは闇の勢力に狙われ易いですからね。用心に越した事はないですよ。」
なるほど、それで得心がいった。つまり、隠しておいた方が無難という事だな。
「お話は分かりました、俺の額を隠す理由も理解出来ます。寧ろ、俺の事を案じてこのように世話を焼いてくださり、ありがとうございます。」
「いえいえ、お礼を言われる程では。」
さてと、ハチマキを巻いた事で俺の不安材料は何とかなった。あとは。
「これからどう動きますか?」
俺が尋ねると、シルビアさんが何かを思いついたように話し出した。
「そう言えば、奴隷少女の件で何か変化があるのではなくて?」
「ああ、そういえば。ミーナの事ですね。テックさん、奴隷商に話が付いていると聞きましたが。」
「ええ、そうです。あの若い商人を信用するのならばですが。早速向かいましょうか?」
そうだな、ミーナが心配だ。あれ以来会ってないし、ごたごたで別れた訳だから寂しくしているかもしれないし。様子を見に行くくらいは問題無さそうだと思う。
「私とのお話はまたいつか出来るから、今はそちらを優先した方が良くって?」
シルビアさんの言葉に甘えて、俺達は席を立つ。
「では、奴隷商へ向かいますか。」
「分かりました、私とスピナも是非同行させてください。」
「それは構いませんが、シルビアさんはどうされますか?」
「私は他に用事があるから、今回は見送るわ。」
「分かりました、では、俺達三人で向かいましょう。」
と、言う事で、俺達はテックさんの案内で、ミーナを引き取った奴隷商の下へ向かった。
「まず最初に言っておきますが、私とスピナはこの国の人間ではありません。ですので、もし何かトラブルが起きた場合、我等にはその対処が難しいとお考えください。」
店に向かう途中、テックさんがそんな事を言ってきた。
俺も勿論この国の人間ではないのだが、テックさん達はセレニア公国の人なので、何か負い目があるのだろうか?
「分かりました、ですが、自分もまた、この国の国民では無いので、あまり大っぴらに活動しませんし、出来ないでしょう、まあ、言いたい事は理解出来ます。」
「助かります、タナカさん。」
つまり、あまり目立つなという事だな。紋章持ちとしても。
「結局セレニアの人間って、あまり歓迎されていないんですよね。戦に負けて。」
スピナが寂しそうに言い、テックさんも下を向いている。
ふーむ、二人共中々に肩身の狭い思いをしながら、生活していたのかもしれないな。
そうこうしている内に、目的地の奴隷商に到着した。
「中々立派な建物ですな。」
「ほんとですね、テックさん、奴隷商って儲かるのでしょうか?」
「いつの時代も、女性を扱うというのは商売になるみたいですね。」
「私にとっては、あまり良い感情は抱かないですけどね。」
そりゃそうだろう、スピナは女性だし。思うところがあるのだろう。
「早速店の中へ入りましょう、店主とはあの若い商人が話を付けていると思いますし。」
「そうですね、行きましょう。」
奴隷を扱う商会という事で、建物の外も中も、綺麗に掃除が行き届いていた。
ふむ、中々清潔感のあるところのようだ。気分が良い。空気も淀んでいないし。
「昨日紹介があったと思うのですが、テックと申します。」
受付ロビーも広く、すぐ近くに受付カウンターがある。やはり掃除が行き届いている感じだ。
受付の男性もピシッとした服装で俺達を出迎え、一礼を執って対応している。
どうやら客として扱ってくれるみたいだ、高級そうな店なのに感心だな。
「はい、お話は伺っております、どうぞこちらへ。」
そう言って、受付が他の人を呼び、案内人に連れられ部屋に案内される。
ここは待合室だろうか? 調度品も程よく置かれていて、テーブルにソファー。
チェストの上には水差しが置かれ、自由に水が飲めるみたいだ。
「こちらでお待ちください、すぐに手配いたしますので。」
「分かりました、待たせて貰います。」
テックさんが対応し、俺達はソファーへ腰かける。フカフカだ。腰を痛めないのは良い。
「私、奴隷商って初めて来ましたが、こういう風になっているんですね。」
「私も来たのは初めてですが、客を相手にする以上、店としての最低限は守られているみたいですね。」
「こういった店だから、お客の秘密を守る為の注意事項とか、徹底してそうですね。」
「それは、言えてますね。」
みんなは苦笑し、待っていると、扉がガチャリと開いて誰かが部屋へ入って来たみたいだ。
「タナカ~~。」
ミーナだ、小奇麗な服を着ていてトテトテとこちらへと小走りに向かって来た。
「おお~、ミーナ。しばらく見ない内に大きくなったな~。この分じゃ俺の身長を越えるのも時間の問題か?」
「何言ってるの?」
「はっはっは、冗談だ。」
ミーナはポフッと俺の腰にしがみつき、グリグリと頭を胸に押し付けてくる。
可愛いなあミーナは。おっといかん、ロリコン認定されてしまう。違うからね。
「お待たせ致しました、わたくしめが、この商会の責任者、ドリスでございます。」
ミーナと同じく部屋へ入室してきたのは、初老の男性だ。物腰が柔らかそうな御人だな。
「ドリスさん、まずはミーナの件、助かりました。お礼を言わせて下さい。」
俺が立ち上がり、一礼を執ると、ドリスさんも同じように礼を執った。
「こちらこそ、ありがとうございます。当奴隷商会の商品を丁重に扱って頂き、まことに感謝します。」
おや、それではあの盗賊はここでこの娘を購入したのか? 誰でも売る様な店ではなさそうだが。
「実を申しますと、このミーナはある貴族に買われた奴隷でしたが、その途中、行方を晦まされたみたいなのです。ですので、こうしてここに戻って来た事は僥倖でした。」
「そうだったんですか、おそらく、あの盗賊が貴族を襲って、奴隷を手に入れたのでしょうね。」
「そう言う事でしょうな、ともかく、こうして無事にこちらへ戻って来たのは大きいですよ。奴隷が逃げ出したりしたら大問題ですし、こちらとしても信用問題でしたので。」
なるほど、そういうからくりがあったのか。道理でこの店主の態度が温厚な訳だ。
ミーナは俺の膝の上に乗っかってゴロゴロしている、やっぱり懐かれてしまったな。
それを微笑ましそうに眺めるみなさん、愛されている様で何より。
「それで、ここからが本題なのですが、こちらのミーナ嬢。自由身分には出来ませんか?」
テックさんが単刀直入に聞き、ドリスさんが考え込んでいる。何か問題がある、という事だろう。
「それは、難しいですな。実は昨日、奴隷の紋章を上書きしようと試みたのですが、上手くいきませんでした。」
「と、言うと?」
俺が聞き、ドリスさんがこちらを向いて溜息を一つ、その後ゆっくりと話し出した。
「ここだけの話にして欲しいのですが、この娘はやんごとなき事情の方でして、彼女の過去を知っているのはわたくしめだけでございます。」
まあ、奴隷を仕入れるところからだから、当然素性も把握しているだろうな。
「確か、忘却のポーションで過去を忘れているんでしたよね。」
「その通りでございます、また、その方がミーナの為なのです。」
ふーむ、やんごとなき素性の人物か。
「つまり、今の段階ではミーナを自由身分には出来ないと?」
「はい。」
そうか、さて、それじゃあどうするか。
「主人、この娘を買いたいのだが。」
ここでテックさんが前のめりになり、ミーナを買うと言い出した。
「テックさん?」
スピナが不思議そうにテックさんを見て、次に俺の顔を見て眉を下げた。
「スピナ、この娘、いや、この方は我々が保護しなければなりません。絶対にです。」
いつになく真剣な表情で言い放つテックさん、スピナは少々戸惑っている様だ。
「一体どうしたのですか? テックさんが奴隷を欲しがるなんて。」
「この方は奴隷などではありませんよ、このお方は。」
ここまで言って、テックさんが我に返ったように顔を戻した。
「失礼、柄にもなく取り乱しました。」
「いえ、テックさんもそういう事があるんですね。」
テックさんとスピナがお互いに言い、気分を落ち付かせる。
「では、俺がミーナを購入しましょうか?」
「「 え!? 」」
ん? 何かおかしな事を言っただろうか?
「お金は時間が掛かっても用意しますので、ミーナを他の誰にも売らないで欲しいのです。お願い出来ますか? ドリスさん。」
俺の言葉に、ドリスさんは少し思案し、そして答えを出す。
「良いでしょう、貴方に譲る為に、ミーナを取っておきます。しかし、ミーナは高いですよ?」
ドリスさんが二ヤリと笑みを零し、俺はタハハと苦笑い。だが、約束は交わした。
「これでよろしかったんですよね? テックさん。」
「はい、ありがとうございます。タナカさん。私からもいくらかお金を出しますので、ミーナを、ミーナの事を。」
「分かっていますよ、絶対に何とかしましょう。」
こうして、俺とテックさんは握手を交わし、ミーナの事を考えて動く事にした。
さて、これからが大変だぞ。資金調達に、情報収集。やる事が増えたからね。
異世界での生活も、中々に面白い事になってきたじゃないか。




