第14話 ウインドヘルムの町 ②
騎士団支部の石造りの受付ロビーには、夕暮れの光が斜めに差し込んでいた。
木製の机の上に、金貨の詰まった袋が静かに置かれる。
「…確かに。盗賊団「黒牙」の首領だったと確認した、よく捕縛出来たな。報酬だ、受領を。」
受付官の声は淡々としていたが、その背後で記録係が一瞬、俺を見上げた。
何かを言いかけて、やめる。何だろうか?
テックさんは袋を手に取り、重みを感じながら黙って頷いた。
隣に立つスピナが、少しだけ微笑んだ。
その笑みには、誇りと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。
仲間の犠牲があってのこの報酬、手放しには喜べないよな。
あまりはしゃぐ気にもならない、静かに退出する事にした。
「では、我等はこれで。」
テックさんが挨拶し、その後ろをスピナと共に付いて行く。
辺りはすっかり夕暮れ時だ、建物から外へ出ると、雨も上がっていた。
町人は仕事が終わって帰宅を急ぐ者や、酒場へ繰り出す者など。
大通りは馬車などが行き交い、側道は人が流れている。
一歩横道に逸れれば、そこは裏通りだ。その隅で占い師が店を出している。
「占い師か、今度占ってもらおうかな。」
俺がボソッと呟くと、スピナが横から顔を覗かせて来た。
「やめた方が良いわよ、当たる訳がないもの。」
スピナはやれやれといった仕草で両手を振り、俺を諫める。
「それはスピナが当たらない占い師に占ってもらったからですよ。」
その会話を聞いていたテックさんが、スピナに言ってみせている。
それを聞いたスピナが、意外そうな表情でテックさんの方を向き、目を見た。
「テックさんはそういうの、信じるんですか?」
「凄く良く当たる人もいますからね、ただ、そういう人は目立たないんですよ。」
うむ、一理あるな。テックさんの言わんとする事が分かる。
「占いが当たる」というのは、逆に話題になり過ぎて混雑しかねない。
裏通りなんかでやっている店は、基本静かに占いたいのだろう。
当たるも八卦、当たらぬも八卦、ああいうのは割と適当に考えればいいと思う。
「俺は今はいいかな、報酬の分け前が気になりますし。」
「そうですよ、まずはこの町でホームにしている鉄の牙の本部へ行きましょう。」
俺のあとに続くように、スピナも報酬が気になる様だ。
「そうですね、持ってみた感想としては、かなり有りますよ。これ。」
テックさんがメガネを光らせて言うもんだから、ちょっとだけ怖かった。
うむ、わくわくするな。お金は大事だ。あるに越した事はない。
この後は、「少し歩きましょうか。」とテックさんが言って、三人で雨の上がった町の夕暮れ時を、静かに、一歩一歩踏みしめながら歩いた。
会話は無い、この報酬を受け取れなかった戦死者もいるのだから。
俺は知り合って間も無いが、テックさんやスピナにとっては仲間たちなので、その表情も複雑なものだった。
きっと、死んでいった者の中にも、テックさんやスピナの知り合いが居たのだろう。
町中を歩く事数十分、鉄製の看板に獣の牙が描かれたのがぶら下がっている。
「ここです、この建物が我等が所属している傭兵団「鉄の牙」の本部です。」
おお、中々立派な建物じゃないか。先程の騎士団支部とさして変わらない程だ。
二階建ての石造りで、扉にも鉄の看板に牙が掘られているのが掲げられている。
それを見て、だから「鉄の牙」って名前なのかと思った。
看板がまだそんなに錆が浮いていない事を見るに、おそらくだが結成してまだ2年くらいかな?
新興傭兵団なのかと思い、テックさんに訪ねてみた。
「鉄の牙とは、結成してどれくらいでしょうか?」
テックさんは顎に手をやり、目線が上向き加減になった後、目を閉じて答える。
「私も詳しくは知らないですよ、スピナと私が入団した時からそんなに日は経っていませんからね。」
おや、そうなのか。てっきりテックさんはベテランの古参かと思ったが。
スピナも答える。
「私とテックさんは、同じ時期に入ったんですよ。半年前ですよね?」
「そうです、奇遇にもね。」
ふーむ、スピナはともかくとして、テックさんは何処で何をしていたんだろう。
テックさんの纏っているオーラは並じゃない、ベテランと言えば聞こえはいいが。
しかし、ここで「鑑定」を使うのはよろしくない。人を信用しなくなってしまう。
「鑑定」があれば確実だが、それでは俺の人を見る目が養われない。
なにより、俺のポリシーが許さない。
スキルは便利だが使いよう、善行にも悪行にも使える。あの盗賊の頭目のように。
俺は極力、正しいと思った事にしかスキルを使いたくない。
これは自分に課した「ゲーマー」としてのスタイルだ、簡単に曲げる訳にはいかない。
縛りプレイってやつだ。まあ、そこまで拘らない主義だが、流石にこれだけは譲れない。
大体、俺は自分の事だって他人に秘密にしている事があるし。
まあ、明かせない理由があるのだが、人には秘密の一つや二つくらいある。
「そうだったんですか。」
なので、端的に返事をして会話を終了する。
「さあ、ここで立ち話も何ですから、中へ入りましょう。」
「はい、それじゃあ失礼します。」
テックさんに案内され、傭兵団「鉄の牙」の本部へと足を運ぶ。
扉を潜り割と広さがあるロビーへ出たところで、横の部屋から誰かが走って来た。
「テック! 貴様よくもぬけぬけと! 何をやっていたんだ!」
いきなりの怒鳴り声で、俺もスピナもビクっと身体が震えた。
怖そうな人だな、いきなり怒鳴る人は嫌いだよ。まったく。
怒鳴って来た男に対して、テックさんはすまし顔で答えた。
「ダン、何時戻ったのですか?」
「俺様の事はどうでもいい! 貴様の事を言っているのだ!」
ほう、ダンと言うらしい、このいかにも俺様最強とか言ってそうな奴だ。
「落ち着いてください、何をそんなに慌てているのですか?」
テックさんは終始落ち着いている、大人の余裕ってのを見せつけているな。
反対に、ダンはイライラとした表情でテックさんに食って掛かっている。
この二人の対比が面白いなあ、流石は部隊長をやっているテックさん。
「黙れ! これが落ち着いていられる状況か!」
それにしても、このダンって人、何をそんなに怒っているのだろうか?
俺達、何か問題でも?
「先程帰って来たばかりで、モノの詳しい状況は分からないのですが。」
「ちっ! そんなんだからのほほんとしていられるんだよ! この無能が!」
何!? テックさんが無能? じゃあお前はどうなんだ? ダンよ。
テックさんは訳が分からないといった感じだ、ダンは激おこ状態。
テックさんを無能呼ばわりしたのだから、当然ダンって奴はそれ以上に優秀だよね。
「あのう、スピナさん。こちらの方は?」
俺は小声でスピナに話しかけた。するとスピナも困惑している様子で答えた。
「こ、この人はダンという方です。事ある事にテックさんに因縁を付けてきて、困っているんですよ、私達テック隊は。」
「そこ! うるせえぞ!」
何だよ、こっちは気を使って小声で話してたのに、地獄耳かよ。
「テックさんが後から入団したのに、自分より段々出世していくもんだから意地悪してるんですよ。」
「おいそこ! さっきからうるせえぞ!」
だから、何で聞こえるんだよ。地獄耳だよね。この人。
「説明してください、一体何があったのですか?」
テックさんは説明を求め、それを聞いたダンは二ヤリとし、指を差して言い放った。
「貴様が居ない所為で! 団長のグリーンは死んだぞ!」
「な!? なんですって!? 一体何があったのです!?」
突然出て来たダンと呼ばれた人とテックさんが、何やら言い合いをしている。
団長さんが死んだとか何とか、何が何だかさっぱりだ。




