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国費で育てて隣国に献上しました~平民を見下した結果、すべてを失った学園長

作者: 紡里
掲載日:2026/03/30

「学園長、何か言うことはあるかね?」

 学園長室の応接間で、王族の男が足を組んでいる。


「平民の能力ある者を発掘したいと、平民にも門戸を開いたはずだが。

 なぜ我が国の官吏に申し込まず、隣国に流れているのであろうな?」


「そ、それは、やはり平民の能力が貴族に及ばないという証拠でしょう。

 やはり礼儀や常識などで劣る平民には、下働きが相応しい。

 貴族を押しのけて高官になるなど、夢を見させるのは可哀想ではないですか。

 現に、わきまえず授業中に貴族の意見を覆すような輩なのですよ。社会に出たら何をしでかすか、考えるだけで怖ろしい」


 私は世間知らずの王族に、道理を説いた。


「なるほど?

 学校の成績は振るわず、特待生になっても一年で退学する者が大半だな。

 学費を免除し奨励金を出したのに、なぜかね?

 教師陣の指導が悪いのではないか」


「とんでもない。

 教師陣は生まれつき劣った平民を指導するのに、大変な苦労を重ねたのですよ。

 貴族なら爵位を超えて目立とうとするような、無作法はいたしません。

 それを、公爵令息や侯爵令嬢を差し置いて、鼻高々に技能を見せびらかすなど、実に嘆かわしい」


「それを叱責したのか。

 無能であれという教育方針だと、潔く認めるのだな?」


 風向きが怪しい。

 何だ? 不満があって文句を言いに来たのか?

 私は秩序を守る、教育者である。


「何をおっしゃりたいのでしょうか?」



「それらの優秀な平民が留学生に拾われて、帰国する時に連れて帰るそうだ。

 貴族ではなく、功績もまだ上げていないから引き留める口実がない。

 これは将来的な国益を損なう大問題だぞ」


「は?」

 退学して卒業もできなかった連中が?


「いや……反抗的で、使えない者どもですよ」

 あり得ない。なにを言っているのかと、鼻で笑いそうになった。

 いけない。仮にも王族だ。


「それは、使いこなせない上の者が無能ということではないのか?

 国費を使って基礎学力を付け、愛国心をなくした状態で輸出している愚かな国――昨日の祝賀パーティーでそう言われたぞ」


 不機嫌な空気が立ち上る。こめかみに青筋が見える。


「同席していた魔導師が、実現したら軍事転用できる理論だと青ざめていた。

 研究は半ばだが、退学になってからの二年間、大使館に匿ってもらいながら温めていたそうだ。

 その研究に携わっているのが二名、他の研究が三名、帝国で学生文学賞の受賞者が一名……。

 平民だから、家族ごと移住する者もいるらしい。

 領地も店舗もない者は身軽だなぁ?」


 ああ、昨日のパーティーで嫌味を言われて、文句を言いに来たのか。

 冷や汗が流れる。


「まったく、忠誠心のない平民には困ったもので」

 教育しても卑しい性根は治らない。問題を起こしてばかりで、私は大変な思いをしたのだ。


「ははは。甥の子どもが無事に十歳を超えた。

 私は近いうちに臣籍降下して、公爵を賜る予定であった。

 知で名を馳せ大公を狙ったのだが、侯爵になれれば恩の字という状況になってしまったぞ。

 お前のせいで、計画が台無しになったわ!」


 書類を顔面に叩きつけられた。

 まるで昔の悪ガキに戻ったようだな。


「これは何の書類ですか?」


「この学園で教鞭を執っていた者の、辞職願と爵位返上申請だ。

 お前がいびり、教師陣がそれに便乗し、虚仮にしていた天才錬金術師の――な」


 錬金術など、詐欺師の代名詞ではないか。神聖なる教壇に立たせる方がどうかしている。


「そいつも隣国に一緒に渡るそうだ。

 陛下がなんのために爵位を与えたと思っている。この国に根を下ろしてもらうためだ。

 素材採取で諸国を放浪しているところを、わざわざ側近を派遣し礼を尽くして招聘した」


 そんなことは聞いていない。先に言っておくべき情報ではないか?

 あんな小汚い男が、国王陛下の肝いりだなんて……わかるわけないだろう!


「言われたよ。

『平民だと貴族の横暴に対抗できないから叙爵を受けたが、貴族になっても馬鹿にされるのは変わらなかった』だと。

 もう二度と我が国には立ち寄らないかもしれないな?」


 書類が当たって、珈琲がこぼれてしまった。

 いい服を着てきたのに。高い絨毯にも染みができる。

 悔しい。私の城でなんて無作法な。躾のなっていない、乱暴者め。

 なんだ。いい年をして、かんしゃくを起こすなんて。


「いいか、その凝り固まった脳みそに叩き込め。

 治癒術士は片田舎に配置できるほど人数がいない。些細な怪我や病気で命を落とす者がいる。

 そこを錬金術師に、魔力のない平民でも作れる薬学に落とし込んでもらう。

 全国民の健康と長寿のために、国王陛下が直々に考案された計画だ」


 平民など、ぽこぽこ子どもを産むではないか。


 この怒りようはなんだ?

 自分だって平民を下に見ていただろう。平民の洗濯メイドや庭師にひどいことをして、私が庇ってやったのを忘れたのか。


 まるで、袂を分かとうとしているような……王室の家庭教師を務めていた私にそんなことはできないはずだ。

 長年、教育を授けている歴史ある家系。積み重ねた実績と信頼。国王陛下も王太子殿下も私の生徒だ。


「もう、お前の顔など見たくない。

 お前こそが、次年度に進めずに『退学』だな。

 自主的に退職するか、クビになるかは選ばせてやろう。

 さあ、今すぐ選ぶがいい」


 私はお払い箱ということか?

 そんな――。

 心血を注いで、この三年もの間、学園を守ってきたのに。

 ずうずうしい平民から、貴族を守るための盾として……!

 あまりの怒りに、目の前がチカチカする。



「ああ、それとも責任を取って自害するか?」

 無慈悲な暴君は、侍従に持たせていたサーベルに手をかけた。


 斬られる!

 ひゅっと喉が鳴る。

 目をぎゅっと瞑り、腕で頭を守った。


「はっ、斬ったりしない。剣の錆びにする価値もないわ」

 そう言い捨てて、王弟は出て行った。



 事務長が顔を出し「私物の片付けに用務員をつけましょうか? その前に、珈琲の後片付けですね」と言った。


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― 新着の感想 ―
結局最後まで自分が何したか分かってないんやなこの無能は
傲慢な人が傲慢な同類を役職に就けた結果がご覧の有り様だよ。 国の肝入政策を台無しにした愚物と、その愚物を役職に就けた王弟の未来は真っ暗だね。
王弟も、こんな人格破綻者に学園を任したのは見る目なさすぎるし、丸投げで気付くのも遅すぎる。大公位を貰えるわけがない。侯爵でも御の字では。
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