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<恋をすると最後の一音で死ぬらしいので、無口な彼と“終止符”を探すことにした>  作者: 百花繚乱


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9/9

最終話:終止符は、あなたと(完全ハッピーエンド)

朝、私は声を取り戻していた。

完璧じゃない。

少し掠れている。

でも、出る。


「……セヴ様」


名前を呼ぶと、セヴの背中が一瞬だけ止まった。

振り返らない。

でも、止まった。


「戻ったな」


「はい」


宮廷からの使者が来る前に、私たちは音楽室に立った。

灯りは二つ。

譜面台の距離は、いつもの位置。


「リラ」

セヴが言う。

「君の呪いは、恋が成立したとき発動する」


私は頷いた。

怖い。でも、逃げない。


「なら、成立させなければいい――だけでは、君を孤独にする」

セヴの声は低い。

「それは、君の生き方を奪う。……私は、それをしたくない」


私は息を吸った。

胸が温かい。


「だから、条件を作る」

セヴは譜面を一枚差し出した。

そこには、契約書の追記が書かれている。


――“終止符の決定権は、リラ単独では持たない。

必ず、セヴが同席し、続きの一音を提示する。

最後の一音は、二人で選ぶ。”


私は目を瞬いた。

こんな契約、聞いたことがない。


「……私の自由は?」


セヴは少しだけ視線を落とした。

「君が望むなら、私は離れる。……だが、君が望まないなら」


彼は初めて、はっきり私を見た。


「君の隣にいる」


心臓が跳ねた。

怖い。

でも、伴奏があるみたいに落ち着く。


私は笑った。

「合理的じゃないですね」


セヴは、ほんの少しだけ口元をゆるめた。

「合理だ。……君が生きるなら、それが最善だ」


その瞬間、私は理解した。

恋が成立するのは、“告白”じゃない。

“帰る場所”を持つこと。


(私は、もう帰ってしまっている)


でも恐怖は来なかった。

灯りが二つあるから。

温い飲み物があるから。

そして、隣に“続き”をくれる人がいるから。


宮廷での最終確認。

ヴァイスの前で、私は歌った。


最後の一音の前に、セヴが伴奏で“間”を作る。

その間で私は息を吸い、言葉を置いた。


「私は、生きるために歌います。――そして、帰る場所を持ちます」


ヴァイスは、少しだけ目を細めた。

悔しそうではない。

評価する顔だった。


「……合理ではない。だが」

彼は言った。

「安全性は証明された。あなたが死ぬのは、“孤独で終止符を打つ瞬間”だと、理解した」


そして、最後に一言。

「帰る場所を持つなら、持ちなさい。――ただし、終止符を選ぶのは一人ではないことだ」


それは、降伏ではなく、認める言葉だった。


帰宅した夜。

音楽室の灯りは二つ。

紅茶は温い。


私は譜面台の前に立ち、セヴを見た。


「……恋をすると、死ぬんじゃないんですね」


セヴは短く答えた。

「恋をすると、終わらせたくなる癖が出る。……それが呪いだ」


「じゃあ」

私は笑って言った。

「終わらせないように、毎日歌います。毎日、続きの一音をください」


セヴは頷いた。

「毎日、伴奏する」


私は一歩近づいた。

触れる必要があるときは先に言う。

でも今日は、言わなくてもいい距離にした。


「セヴ様」

私は息を吸う。

「……あなたが、帰る場所です」


心臓が跳ねる。

でも死なない。

終止符ではなく、続きがあるから。


セヴは、短く言った。


「私もだ」


(後書きのような一段落:読者を現実へ戻す)


物語は、たった一音で終わるものじゃない。

終止符の前に、息を吸う“間”がある。

灯りを増やして、温いものを飲んで、少しだけ肩の力を抜く時間がある。


あなたの現実にも、きっと同じ“間”がある。

今日うまく歌えなくても、声が出ない日があっても、譜面は白紙のまま待ってくれる。

そして――続きの一音は、いつだって書き足せる。


物語が閉じても、灯りはすぐには消えない。

あなたが次にページをめくる時、その指先が少しだけ温かいままでありますように。


(完)

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― 新着の感想 ―
完全なハッピーエンドでありながら、甘さに寄りかからない結末。 「最後の一音は二人で選ぶ」という契約が、人生そのものの比喩として胸に残ります。 後書きのような締めも、読者を現実にやさしく戻してくれる最高…
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