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<恋をすると最後の一音で死ぬらしいので、無口な彼と“終止符”を探すことにした>  作者: 百花繚乱


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7/9

第7話:歌えない日(喪失は短く、回復導線を同時に)

朝、私は声を失っていた。

喉は痛くない。

ただ、音が出ない。


鏡の前で口を開けても、空気だけが漏れる。

怖い。

これが、呪いの“代償”。


セヴは私を見ると、すぐに椅子を引いた。

紅茶。灯り二つ。

ルール通り。


私は紙に書いた。

『声が出ません』


セヴは頷き、短く書き返す。

『想定内』


冷たく見える言葉なのに、安心した。

想定内なら、道がある。


セヴは次に紙を出した。

白紙の譜面。


『作曲へ移る』


私は目を見開いた。

作曲。

歌えなくても、音楽は作れる。


セヴはさらに書く。

『君の声は、身体に残っている。今は“外に出ない”だけだ』


私は指先で譜面をなぞった。

泣きそうになったけれど、泣かない。


その日の午後。

ヴァイスが来た。


「声が出ない? 当然です。呪いは強い」

彼は淡々と言う。

「だから施設へ。歌えない歌姫は、宮廷にとって価値がない。――安全のためにも隔離が合理的です」


正論の刃。

私は反論できない。声がない。


セヴが前に出た。

「価値がないなら、宮廷は関与するな」


ヴァイスが眉を上げる。

「あなたは彼女を守りたいのですね。……恋ですか?」


その言葉が、胸に刺さる。

私は息を止めた。


セヴは揺れない。

「合理だ」


「合理で、ここまでしますか」


セヴは、私の前に譜面を置いた。

「彼女は“歌えない日”でも、音を作れる。――価値は消えない」


ヴァイスは黙った。

そして、初めて“少しだけ”負けを認めるように言った。


「……では、期限を延長しましょう。二週間。声が戻らなければ、移送」


去り際、ヴァイスは私に向かって言った。

「あなたは、誰かに帰る場所を持ったとき死ぬ。なら、持たなければいい。――それが合理です」


帰る場所を持つな。

生きるために孤独でいろ。


私は紙に書いた。

『私は、生きるために音楽をやめません』


声はないのに、言葉は強かった。


その夜。

セヴが私の机に、短い曲の冒頭を書いて置いた。

私の“声がない今”のための曲。


私は、その続きの一小節を書いた。

二人の共同作曲が、言葉の代わりに続く。


――そして気づく。

呪いの抜け道は、“最後の一音”ではない。

“誰が終止符を決めるか”だ。


(第7話・了)

次話予告:終止符の真相。セヴの覚悟が、言葉になってしまう夜。

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― 新着の感想 ―
声を失う喪失が短く描かれ、同時に回復の道筋が示される構成が優しい。 「歌えなくても音楽は作れる」という肯定に救われます。
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