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<恋をすると最後の一音で死ぬらしいので、無口な彼と“終止符”を探すことにした>  作者: 百花繚乱


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6/9

第6話:伴奏という盾(小さな幸福③:声)

演奏会の当日、私は白いドレスを着た。

飾りは少ない。

余計なものは、心拍を上げる。


舞台袖で、私は手を握りしめた。

指先が冷たい。


「リラ」


セヴが来る。

いつもの黒い外套ではなく、演奏用の正装。

彼は私の前に、温い飲み物を差し出した。


「飲め」


「……はい」


温い。

喉がほどける。


「怖いか」


「怖いです」


「怖がっていい」

セヴは短く言う。

「君は一人じゃない」


舞台に出ると、観客席は暗い。

宮廷の人間が多い。

ヴァイスの気配が前方にある。


ピアノの前に座るセヴは、私を見ない。

でも、私が立つ位置に合わせて、椅子の角度を微調整した。

視界の端に、彼の手が見える。

それだけで息ができる。


曲が始まる。

私の声が、会場に広がる。


最初の一音は、怖かった。

でも二音目で気づく。

背後の伴奏が、私の心拍を“落ち着く方へ”導いている。


セヴは、私が息を吸う前に音を薄くし、吐くときに厚くする。

まるで私の呼吸を、譜面より先に読んでいる。


(……この人、怖がらせないために伴奏してる)


歌い終盤。

最後のフレーズが近づく。

私の心臓が強く鳴る。


“最後の一音”。


呪いが、そこにいる。


私は息を止めそうになった。

その瞬間、セヴの伴奏が、ほんの少しだけ“間”を作った。

最後の一音の前に、静けさが挟まる。


その静けさは、終わりではなかった。

始まりのための空白だった。


私は、そこで小さく笑った。

怖くない笑い。


そして歌った。

最後の一音を、“死の合図”ではなく、“回復の合図”として。


音が会場に落ちる。

――私は、死ななかった。


観客席がざわめく。

ヴァイスが立ち上がる。


「……興味深い」

彼は拍手をしない。

ただ評価する。


セヴは鍵盤から手を離し、立ち上がった。

私の方を見ないまま、言う。


「証明は終わりだ」


その夜。

私は音楽室に戻り、椅子に座り込んだ。

手が震えている。


「……生きてる」


声に出すと、涙が出そうになった。

でも涙より先に、喉がきゅっと締まる。


「リラ」


セヴが近づく。

初めて、距離が近い。


「触れる必要があるときは、先に言う」

彼はルールを守って言った。

「……君の脈を確認する。いいか」


私は頷いた。


彼の指が、私の手首に触れる。

温い。

その温さが、胸の奥に落ちる。


心臓が少し跳ねた。

怖い。


でも、セヴはすぐに離した。

必要以上に触れない。


「正常だ」


その言葉が、救いだった。


――翌日。

私は声が出なくなった。

呪いの反動。

“歌えた代償”が、静かに来た。


(第6話・了)

次話予告:喪失。声が消える。でも、道は同時に提示される。

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― 新着の感想 ―
舞台描写が見事。 セヴの伴奏が、音楽的にも心理的にも“盾”として機能しており、読者まで呼吸が楽になる感覚がありました。
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