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<恋をすると最後の一音で死ぬらしいので、無口な彼と“終止符”を探すことにした>  作者: 百花繚乱


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5/9

第5話:灯りの下の共同作曲(小さな幸福②:灯り/距離)

共同作曲は、静かな戦いだった。

セヴは無口で、私は言葉が多い。

でも譜面の上では、逆になる。


私が迷うと、セヴは一音だけ足す。

たった一音で、曲が息をし始める。


「……どうして分かるんですか」


「君の呼吸が、ここで止まる」

セヴは譜面を指で叩く。

「止まる場所に音を置く」


灯りが二つ。

夜は必ず温い飲み物。

私はそのルールに、救われていた。


「セヴ様、あなたは……眠らないんですか」


「眠る」

即答したのに、机の上の書類は増えていく。

宮廷への手続き、魔術師への依頼、演奏会場の安全設計。


私が「無理しないで」と言いかけると、セヴは先に言った。


「合理的に無理している」


私は、思わず笑ってしまった。

笑った瞬間、心臓が少し跳ねる。

怖くて息を止めた。


セヴは、譜面台の位置を変える。

私と譜面台の距離を少し離し、私の背後に立った。


「呼吸しろ」


「……はい」


「笑う程度で死ぬ呪いなら、そもそも君は生きていない」

彼の声が、背中の少し後ろで響く。

近い。

でも触れない。


「呪いは、“恋が成立し、最後の一音が鳴ったとき”だ。成立させなければいい。――だから」


「だから?」


「焦るな」


その一言が、胸の奥に灯りをともした。


曲は、少しずつ形になった。

“終止符を変える曲”。

最後の一音が、死の合図ではなく、回復の合図になるように。


その夜、私はふと思った。

もしこの曲が完成したら――私は、セヴに何を返せるのだろう。


言葉で感謝すると、何かが揺れる。

恋に近づく気がする。


だから私は、別の形を選んだ。

譜面の余白に、短い旋律を書き足した。

セヴの沈黙に似た、静かな旋律。


セヴがそれを見て、初めて“間”を作った。


「……これは?」


「あなたのための一小節です」

私は視線を逸らして言った。

「言葉の代わりに」


セヴは何も言わない。

でも、譜面を丁寧に閉じた。

その丁寧さが、返事だった。


――翌日。ヴァイスから“公開検証演奏会”の通達が届く。

一度きりの演奏で、呪いの安全性を証明しろ、と。


(第5話・了)

次話予告:舞台に立つ。怖い。でも、背後に彼の伴奏がある。

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― 新着の感想 ―
触れないまま近づく二人の関係性が美しい。 共同作曲という行為が、告白よりも深い信頼を生んでいるのが印象的です。
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