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4 side:フレディ

 金獅子騎士団の団長・副団長は、身分的に異色である。光獅子騎士団長の弟であるだけでなく、剣の腕が国で三本の指に入るだろうケント・フォンブルが団長となった経緯に異議を唱える者はいないが、彼の下に王弟の一人息子であるクリスハルト・ウィン・デルクスと現宰相で侯爵家次男ペリオドス・ザッハルテを就けた点に関しては、光獅子騎士団長の身内びいきだと非難された。が身分以外縋る術のない貴族に、直接文句を言う者はいなかった。

 しかし隣国と戦争状態へ突入し、ケント・フォンブルが戦功を立て王太子の覚えがめでたくなった事で、社交の場や公式の場での非難は聞こえなくなった。

 俺の実家メリ子爵家は昔から王家と関わりが深い。何代か前の先祖が王領の管理を任されて見事に利益を上げた事で繋がりが深くなり、身分的に釣り合わないので縁戚関係こそないものの、王子と年齢の近い子がいれば王家の乳兄弟や学友となるのが慣例となっている。俺の父は現王弟と乳兄弟かつ学友だった。現在も折に触れて酒を酌み交わす仲であり、俺も王弟嫡子のクリスハルトの事を幼い頃から知っている。クリスハルトを連れてお忍びでメリ家へ遊びに来た王弟が父と酒を飲んでいる間など、五歳年上の俺が良く子守をした。クリスハルトが六歳まで家に連れて来られていたが、それ以降は天才児と持て囃され、様々な教育で忙しく王弟が家に来る時に同行する事はなくなった。

 再び彼がメリ家の門をくぐったのは、一年と少し前、戦争終結直前の事だ。

「ちびの頃は世話になった。可愛げのないちびの相手を要領よくこなしていたな? 女性の友人なんかも多いんだろ?」

 酒を飲みはじめた父親達を余所に、急に小声で話し出したクリスハルトの口調が、砕けたものに変化した事に驚きつつ、俺は首を傾げる。厄介事を持ちこまれる予感がひしひしと迫った。天才と呼ばれていただけに、クリスハルトは五歳の段階で既にかなり賢かったし、一緒に遊んで退屈する事もなかった。王弟が彼を伴わなくなって少しがっかりした記憶すらある。十歳の子供に遊び相手として評価される五歳の子供の異様さを思えば、クリスハルトの特異性が浮かび上がる。俺は無駄と知りつつ抵抗した。

「俺みたいないい加減な騎士じゃあ、天才のお役には立ちませんよ」

 俺が所属する暁獅子騎士団は貴族として政治的勢力の強い家柄の者が多く、間違って前線に立ったら、真っ先に全滅しそうな武力しか有していない。実力主義の光獅子騎士団長は、暁獅子騎士団に後方待機命令を出す事が多い。

「戦いはウチの団長みたいなバケモンにまかせときゃ良い。お前にはお前にしか出来ない役割がある」

 巧妙な誘い文句が計算されたものだったのか、本心から出たものなのか、今も判断出来ないが、しびれてしまった。貴族としても騎士としても中途半端で、戦場に立っても命のやりとりとは程遠い場所でうろつくだけ、家は裕福で両親も若く健在、幸い見た目はそれなりに女にもてるらしく、遊ぶ相手にも事欠かない――そんなフレディ・メリ像に俺は退屈し幻滅し、飽いていた。

「そういえば、あなたは昔から自分のやりたい遊びに俺を誘うのが上手かった」

「そうだったか?」

 ニヤリ笑うクリスハルトから、鉱山崩落計画に噛んで欲しいと頼まれた時は純粋にワクワクしてしまった。戦争を終わらせる大きな計略の一端を担うのだ、心踊らねば男ではない。計略は成功しクリスハルトの画策した通り戦争は終結した。俺は行動に火薬を仕掛けたり、隣国の女性議員を颯爽と助けて、情報を聞き出したりした。今もクリスハルトのために必要以上に社交の場に顔を出し、女性と遊びながら情報収集をしている。最近以前に増して女遊びが激しいのではないかと団長に苦言を呈されたが、暗躍という楽しみは何物にも代えがたい。クリスハルトは俺の性質や願望を見抜いて今の役目を割り振ったのかもしれない。



「フレディの考え方ってキゾクテキ退廃主義って感じっすね」

 クリスハルトが拾ったというキャスという間諜は、元盗賊という変わり種で今は侍女に扮している。年頃の少女だが、俺にぼうっと見惚れたり、あからさまに擦り寄って来たりしないので、気安く会話出来る貴重な友人だ。

「そうか? クリスハルト様は国のため民のために動いているんだ。陰ながらその手伝いが出来る事を誇りに思うのだから、騎士道精神に溢れているじゃないか」

 冗談めかして応えるとキャスは声を上げて笑った。

「心にもない事をモットモラシク言えるのって一種の才能っすね」

「小賢しい事ばっかり言ってるともてないよ」

 新兵訓練を見学に来た体で訓練所の端っこで、刺客の監視をしているキャスとくだらない会話に興じている。背後から冷気を感じた気がして振り向くと、金獅子騎士団副団長ペリオドス・ザッハルテが、眉間に皺を寄せて俺を睨んでいた。

「あ、ペリオドス様」

 低く呟きキャスが会釈をして見せたので、俺も習って軽く頭を下げる。

「何をしている?」

 周囲をはばかって小声だが、非常に剣のある声音だった。職務中に侍女を口説いていると誤解でも受けたのかもしれない。

「少しばかり世間話をしていただけです」

「目立つぞ」

 俺の返答を半ば無視し、ペリオドスはキャスへ身を寄せるようにして囁きかける。彼の態度の方が余程侍女を口説いているように見えるが、気づいていないようだ。

「誰もこっちを見てないっすよ」

 素早く囁き返す口調が砕けたままである事に目を瞬かせる俺に、再度ペリオドスの視線が鋭く刺さる。

「会話相手が目立つ」

「ああ、まあ、そうっすね。フレディ、どっか行って」

 侍女には似つかわしくない追い払うような仕草に苦笑して、俺はペリオドスに礼を示した。背を向けた俺の背後でキャスはペリオドスの事も追い払おうとしている。

「ペリオドス様の方が目立つっしょ。フレディと違って侍女口説いたりしないし」

「わ、私が君と話していたら、侍女を口説いているように見えるのか」

「いやだって、妙に距離が近いし」

 困惑含みのキャスの声に笑いそうになるのを堪え、俺は殊更ゆっくり歩く。

「……失礼した」

「こういうのはアタシらに任しといて下さい」

 反論出来なかったらしく俺の後を追って来たペリオドスが隣に並んで低い声で話しかけて来た。

「君とキャスケットがクリスハルトの下で動いているのは知っている」

「そうですか」

 答える俺に相変わらず鋭過ぎる視線を向けつつ、ペリオドスは押し黙った。情報収集がてら様々な女性と浮き名を流す俺は、有能だが堅いと称される彼からしたら、眉宇をひそめたくなる存在なのかもしれない。

「キャスケットは顔の良い男は苦手だと」

「へ?」

 突然何を言い出すのかと間抜けな声を上げてしまった俺は、口許を押さえて赤面している堅物として有名な金獅子騎士団副団長を見て固まった。

「いや、すまん。重症だ」

 呟いてさっさと足を速めて立ち去る俺のような柔な騎士とは異なる硬そうな背を眺め、俺は次第に笑い声が零れ出すのを止められなかった。


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