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12 side:ペリオドス

 怒りと嫉妬に任せて決闘を申し込むという選択肢もあったと思う。だがクリスハルトの隣で身を縮める彼女を見て飲み込んだ。

「団長の養女では王族と婚姻は結べまい」

 男爵家から傍系とはいえ王家に嫁いだ前例はない。

「何言ってるんすか。アタシは遊び相手以上愛人未満って所で、別にそんな大それたんじゃないっす」

「どういう事だ」

「おい、キャス、それは本気で言ってんのか」

 私とクリスハルトの声が重なる。

「ペリオドス様もアタシなんかを伴侶にって正気の沙汰じゃないっすし。あ、クリスハルト様が許可して下さるんなら、時々お相手しても良いっすけど」

「クリスハルト、一体どうなっている」

「俺にも良くわからん。おいキャス、お前はペリオドスも好きなのか」

「はい」

 にっこり笑顔で頷くキャスケットを相変わらず可愛いと思ってしまう。私も相当参っているのだろう。悪びれない彼女に心中を率直に語って貰う事にした。

「なんつうか、クリスハルト様はやっぱりアタシにとっては絶対的に主っす。愛人でも恐れ多いし、そんなん無理っす。時々その、一緒にいてくれたら、それだけで良いです」

 額を押さえて煩悶するクリスハルトに嫉妬より同情を感じてしまうのは同じ身の上だからなのか。

「私は君にとってどんな存在なのか」

「えっとあの、その、好きだって言ってくれて、嬉しいっす。ペリオドス様といるとほんわかして、その、おこがましいんですけど、色々してあげたくなるっつうか」

「私の妻になるつもりは?」

「とんでもないっすよ。アタシみたいなのは、時々気が向いた時に呼んでくれたらそれでもう十分」

「私やクリスハルトが本気でキャスケットを生涯の伴侶にと望んでいるなど、信用出来ない、と?」

「はい。いや、信用出来ないとかそういうんじゃなくてあり得ませんよ」

 キャスケットは晴れやかな笑顔を浮かべている。敵国の将を射止めた団長に比べれば、彼女を伴侶とする道は険しくないはずではなかったか。

「俺はお前を捨てない、絶対だ」

「私も、君が手に入るなら手放したりしない」

 キャスケットは後頭部をかいてもじもじと身体をくねらせる。

「だからこそっすよ。アタシみたいなのを気まぐれじゃなく、好きだって想ってくれたってそれだけで嬉しいっす。立場は弁えますから時々は相手して下さい。飽きられても仕事の駒としては使って貰えるよう頑張るんで」

 潤んだ目で懇願され、めまいを感じたのは私だけではないようだ。一体この少女をどう扱ったら良いのか、わからない。諦めるべきなのか、これ幸いと攻めるべきなのか。同僚を見ると渋い顔をして首を左右に振った。

「やっぱ、長期戦だな。俺がどれだけ本気か、わからせる」

「二人が結婚しないなら、私にもまだ機会はあるんじゃないか。クリスハルト、キャスが望むときに、私の許に寄こせ」

「何言ってんだ、許可なんかしねえぞ。しないからな!」

 私の事も好きだと言ってくれているのだから、まだ機会はありそうだ。諦めるには早いだろう。


 こうして始まった奇妙な三角関係は半年経った今も緩やかに続いている。私も恋敵もいつか彼女が隣に立つ日を夢見ている。どちらも退かない。まだ夜を走る。

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