表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の夜ノ傀儡人形  作者: 大嶽丸
第一章
7/12

第一章六話 誰かが見ている、のではなく

 昼食を済ませた2人は、伝令により手紙を受け取る。

 上の命令により、荷物を受け取りに行く事になるが、新たな支給品とは一体…?

 激動の6話です。

 昼下がりの街には、まだ昼食の余韻が漂っていた。

 パン屋の前には焼きたてのプレッツェルが香ばしい匂いを放ち、制服姿の少年兵たちが笑いながら缶ジュースを回し飲みしている。

 石畳の歩道には柔らかな陽射しが落ち、建物の影は短く、地面に溶け込むように淡かった。

 風は冷たさを含みつつも、まだ本格的な秋とは呼べず、店先の旗が気まぐれに揺れている。

 桃矢は腹をさすりながらクーゲルの後ろを歩いていた。

 そこへ、向こうから制帽をかぶった兵士が足早にこちらへ向かってきた──クーゲルの顔を見るなり、敬礼を上げる。


「失礼いたします、中尉閣下──軍務局より直達便をお届けに上がりました。」


 現れたのは、制帽を目深にかぶった若い兵士だった。左腕には「通信補助」の腕章が巻かれている。

 彼は小さな封筒を丁寧に差し出すと、形式的な一礼を加えた。


「指令局直下、対フォルケンハイム警戒総合本部より。記録用として、受領のご署名をお願いいたします。」


「……ふん。ずいぶん仰々しいな。」


 クーゲルは封筒を受け取りながら、わずかに眉をひそめる。

 桃矢も思わず、クーゲルの横顔を覗き込んだ。


 通信兵は任務が立て込んでいるのか、そそくさと敬礼だけして足早に立ち去っていった。

 クーゲルはその背中を無言で見送り、周囲に人気がないことを確認すると、封を切った。


 一読すると同時に、眉間にしわが寄る。


「給料が上がった時点で、嫌な予感はしていたが……なるほど、こう来たか。」


「えっ、何かあったんですか?」


 桃矢が尋ねかけるよりも早く、クーゲルはくるりと踵を返し、足早に歩き出した。


「コーガ、ついて来い。“新しい荷物”の受け取りだ。」


 桃矢は慌てて駆け出す。


 軍本部の受付前。石造りの廊下に、足音と革靴のきしむ音だけが静かに響いていた。

 桃矢は壁際に立ち、クーゲルの横に並ぶようにして待機している。

 周囲を行き交う兵士たちは誰も話さず、事務的な手続きだけが静かに繰り返されていた。

 受付窓口の奥では、帳簿を捲る音とタイプライターの打鍵音が一定のリズムで鳴っている。

 クーゲルは腕を組み、正面の扉を睨んだまま、ぽつりと呟いた。


「"新しい荷物"の到着が遅れているようだ。」


 クーゲルがそう呟いた瞬間、桃矢は背筋を伸ばした。

 ──武器か、装備か。ついに正式に支給されるのだろうか。

 手のひらがじわりと汗ばむ。拳を握って感触を確かめるように、肩に軽く力を込めた。

 軍の空気にあてられたのか、あるいは「兵士になる」という意識が現実味を帯び始めたのか。

 まだ見ぬ“荷物”に、桃矢は自然と視線を正面の扉へと向けていた。


 控室の木製扉が、二度ノックされた。


「入れ。」


 クーゲルの声が静かに響くと、扉がゆっくりと開かれる。

 現れたのは──兵器でも装備でもない、二人の若い女性兵士だった。


 桃矢は不意を突かれたように身じろぐ。


(……人間? 二人?)


 一人は腰のあたりまで伸びたピンクがかった赤髪を揺らし、軍帽も被らず、背筋を伸ばして真っ直ぐこちらへ歩いてくる。

 もう一人は緑の髪をすっきりまとめ、工具ポーチと書類バッグを背負ってやや後方をついてきていた。


 ──それにしても、あの髪は明らかに規律違反だ。


 クーゲルが即座に指摘した。


「髪の規律違反だ。士官候補とはいえ、その長さは軍規に抵触する。」


 前に出た赤髪の少女──いや、若い女性は、即座に姿勢を正し、胸元から封筒を取り出す。


「補佐官候補、シュピュア士官候補生伍長であります。髪については──能力の影響により、物理的な切断が不可能です。特例として、軍から許可を得ております。」


 クーゲルはその書類を受け取り、封を切った。

 中には確かに、上層部の承認印と、医務局・技術局の連名で発行された“特例許可証”が収められている。


「……ふん、切れない、ね。」


 書面を一瞥したクーゲルは、書類をしまいながら、ちらと桃矢の方へ視線を向けた。


「コーガ。こいつらが、今日から私の補佐に就く“新しい荷物”だ。」


 桃矢は思わず目をしばたたいた。

 どう見ても、普通の人間にしか見えない。

 目の前の彼女が“装備”のように扱われているという事実に、思考が追いつかない。


「名前……その、姓はないんですか?」


「シュピュア。それだけです。」


 彼女はきっぱりとそう言い、姿勢を正した。


「士官候補生伍長、補佐官任命につき、本日付で中尉閣下の指揮下に入ります。」


 ふるさとの名も姓もない“軍属名”。

 それは記憶を削り、軍の一部として生きるための名だ。

 桃矢は、ゆっくりとその名を口にする。


「……シュピュア。」


 シュピュアがこちらを向く。


「失礼ですが、貴方は軍人ですよね? 階級のご提示をお願いします。」


 わからない、では済まされないのだろう。

 桃矢は口を開けかけ、返答に詰まった。


「特殊技術試験上等兵だ。」

「自分の階級くらい覚えておけ。」


 クーゲルが横から淡々と補足する。

 説明がなかった、と言いかけたが、桃矢はその場では素直に謝った。


 そのやり取りを後ろから見ていたもう一人の女性が、一歩前に出て敬礼する。


「特殊衛生一等工兵、バリーレであります。補助任務にて随行いたします。」


 控えめな口調ながら、声ははっきりしていた。

 バリーレは細身の体に実用一点張りの軍装を身に着け、足元にはブーツと道具袋。

 医療と工兵訓練を受けた“多目的補助兵”──そんな印象だった。


 クーゲルは彼女を一瞥し、書類に目を通した後、簡潔に言った。


「ふむ。防御特化か──前に立たせるには悪くないが…戦闘の機会はそうないだろうと思ってくれ。貴様も今日から私の部隊に組み込む。」


 「部隊」と言われても、桃矢の頭にはまだ明確なイメージが湧いていない。

 “部隊”と呼ぶにはあまりに即席だ。だが、それでも──これが新しい形の始まりなのだろう。


「コーガ、貴君は知らぬだろう。少しばかり、制度について説明しておく。」


 クーゲルが一息つくと、説明を始めた。


「我々アイゼンライヒ軍人はプライベートと軍役を完全に分ける為、軍より名前を支給される。一番最初の支給品は名前だ。」

「名は、訓練兵から正規兵へ昇格する際、能力と戦技を基準に付与される。」


 一呼吸置き、続けた。


「貴君にもその内支給されるかもな。」


 説明というより淡々とした通告のようだった。

 “名前が支給される”という発想自体が、桃矢にはまだ馴染まない。

 人間としての名前ではなく、兵器や道具に貼られる識別番号のようなもの。

 そう理解するまでに、ほんの一拍、時間が必要だった。


「コーガ上等兵!」


 シュピュアが声を上げる。


「上官に対して少々無礼ではあるまいか?」


 その声は高圧的だ。


「あっ、えっと、すみません!」


 咄嗟に謝った。

 この国に少し慣れてきたのかもしれない。


「ククク…クスクス。」


 噛み殺すような笑いが聞こえてくる。


「なーんてね、冗談だよ。よろしくね、コーガ上等兵。」


 見た目こそ凛々しく、自他共に厳しそうな軍人だが、それは作り物だったようだ。


「へ!?え!?あの!」


 当惑した。当然だ。

 ガラリと人柄が変わったのだ、詮ない事だと思う。


「あたしはシュピュア、よろしくね。」


 軽くウインクして見せた。


「あっ、よろしくお願いします!」


 バリーレを見る。

 緊張した面持ちだ。


「えっと、古牙桃矢です。よろしくお願いします。」


 挨拶してみる。

 少しおどおどする彼女は、慌てたように返事をした。


「バリーレです!今後ともご指導の程、よろしくお願い致します!」


「そんな敬語じゃなくてもいいよ。かえって緊張しちゃうからさ。」


 バリーレは困ったような表情を見せる。


「……まあ、コーガがそう言うなら構わん。私の目が届く範囲でならな。」


 ここはそこそこ自由だ、そう言ってクーゲルは歩き出す。


 3人は慌てて着いていく。


「えっと、よろしくね!コーガ上等兵!」


 バリーレは微笑みを浮かべ、小走りをする。


 桃矢の視線は、知らず知らずのうちにバリーレを追っていた。


 4人で歩く内に、他愛無い会話からわかった事があった。

 それは、この世界はどうやら、筋肉量に男女差が大きく存在しないらしい、という事だ。


 場合によっては、脂肪がつきやすい女性の方が、体重が乗る分高い威力の攻撃を発揮出来るらしかった。


 ただし、脂肪がつきやすい女性独特の性質上、移動などは男性の方が有利、ともわかった。

 そして、クーゲルの人間離れした速度の異様性も再認識した。


「中尉閣下、我々に何か任務や命令はありますか?」


 シュピュアは口を開いた。


「任務、か…コーガ、教えてやれ。」


 突然話を振られたが、初めて命令らしい命令をされた気がする。


「あっ、はい。我々の仕事はフォルケンハイムに対して余裕があるように見せる為、余裕がある生活をしつつ警邏をする、いわば一種のプロパガンダ…です!」


 これであってるよね?という確認を含めクーゲルを見るが、特に何も反応はない。とりあえず間違いではなさそうだ。


「つまり、我々は何もせずに、ただ日常を演じることが仕事。という認識でいいのでありますか?」


 シュピュアが念の為…といった意味を込めたのか、クーゲルに確認をした。


「その通りだ。私からの命令があるまで、基本は自由にしろ。ただし、私の目が届く距離から離れる事は軍務違反だ。以上。」


「了解しました中尉閣下!」


 シュピュアとバリーレの声が重なった。


「やったね、楽勝の任務地だよバリーレ!ダメ元で非戦闘区域志願にしてみて良かったー!」


「いいのかなぁ…いいんだろうけど、いいのかなぁ…。」


 2人の反応はそれぞれ違った。


「あまり浮かれ過ぎるなよ。」


 クーゲルが小さく呟いた。


「了解しました中尉閣下!」


 今度はシュピュアだけが返事をした。


 桃矢はシュピュアに疑問に思った事を訊いてみた。


「フォルケンハイムとはなんで敵対することになったんですか?」


「フォルケンハイムねー、こっちの総統閣下を銃殺して、土地奪って逃げたって聞いてるよ。」


 ──それで戦争になったのか。桃矢は、納得しかけた。


「実際は、もう少しややこしいがな。」


 クーゲルが口を挟む。


「“戦争はもう終わった”──そう言っていたのは、今のフォルケンハイムの総統だ。旧アイゼンライヒの総統閣下とは、よく公開の場で口喧嘩をしていたらしい。」


「……口喧嘩?」


「民衆に、少しばかりの自由を与えるべきだ──というのが、フォルケンハイム側の主張だった。軍事国家のままでは、いずれ国が腐ると危惧していたようだな。」


 クーゲルは一呼吸置き、やや皮肉めいて続ける。


「私自身は、その意見には賛成だ。情報統制と監視で民衆を囲い、彼らはそれと知らず“幸福”に酔っている。」

「戦争の勝者として、それを享受しているという建前で、な。」


 4人の足は止まらない。

 目的もないまま、ただ街を歩いていた。


「この国ほど、歪んだ勝者の構図も珍しい。──その後、フォルケンハイムの総統は、旧アイゼンライヒの総統を“粛清”した。最初に手をかけたのは、実は我々の側だったとも言われている。」


 ふん、とクーゲルは鼻を鳴らした。


「眉唾ものの噂話として、頭の片隅にでも置いておけ。どこまでが真実か、私にもわからん。」


「その話……どこから聞いたんですか?」


「勇者仲間のひとりがな。今はもう軍を離れているが。」


「勇者様だったんですか!?」


 バリーレが思わず声を上げた。


「ん?ああ、いかにも。」


「凄いです!勇者様の活躍、ラジオと新聞で集めてました!」

「勇者様の部隊に所属できるなんて……光栄です!これからは私も、国の安寧のため、力を尽くしたいです!」


 ……こんなところで、“勇者”という語の影響力をまざまざと見ることになるとは。

 桃矢は、鼻歌を口ずさむバリーレを見て、少しだけ遠い国の幻を見ているような気分になっていた。


「閣下、きな臭い言葉が聞こえてきました。」


 突然、鋭く張り詰めた声でシュピュアが告げた。


「話せ。」


「──“工作完了。中央区にて待機します”。そう聞こえました。」


 街の喧騒の中、そんな単語が聞き取れるとは思えない。そもそも、聞こえたとしても、それを即座に選別し、警戒できるものなのか。

 桃矢は静かに驚いていた。


 クーゲルは「ふむ」と短く唸ると、問いかける。


「シュピュア、貴君の能力は?」


「はっ。高度の炎操作能力です。」


「報告書にはそう書かれていたな。──何故その声が聞こえた?」


「能力の代償です。聴覚が常人より鋭敏で、頭髪が常に炎と同化しています。」


「ふむ。“聞きたくないものまで聞こえる”戦闘系能力か。把握した。」


 桃矢は焦りを覚えた。

 ──状況が、一気に動いた。


「クーゲルさん、どうしますか?」


 問いかけに、クーゲルはすぐには答えなかった。だが、わずかに目を細めてから、言った。


「……今、理解した。シュピュアとバリーレが配属された時点で、我々の小隊は“遊撃隊”として再編成されたのだろう。」


 そして、視線をバリーレへ向ける。


「我々の得意分野はなんだ、言ってみろ、バリーレ。」


「はい!戦闘です!」


 心なしか、バリーレの目は輝いていた。


Genau!!(その通りだ!)

「ならば、我々が担うのは人命救助ではない。中央区へ向かい、潜伏中のゲリラに対して“緊張”を植え付け、必要ならば撃破する。それが任務だ!」


 クーゲルは踵を返すと、声を張り上げた。


Komm mit!!(ついて来い!)


 4人の小隊は、迷いなく走り出した。


 途中、2人組の兵士が路地を警邏していた。

 クーゲルが立ち止まり、無言で視線を向けるだけで、彼らは咄嗟に姿勢を正し、踵を鳴らした。


「敬礼は不要、緊急だ。伝令を頼む。」


 クーゲルは息一つ乱さず、続けた。


「ゲミリポと軍司令部に通達。ゲリラとおぼしき不穏因子を感知──既に何らかの工作を完了した様子。位置は特定できず、中央区にて待機中と推定。火急のため、クーゲル中尉率いる小隊は戦闘特化により現地へ急行中。増援を求む。繰り返す──増援を求む。以上、走れ!」


 兵士は敬礼すら後回しにし、踵を返して全速力で駆け出した。


 ──ゲミリポ。

 聞きなれない単語が耳に残ったが、今は考えている余裕などない。


 クーゲルは再度走り始める。

 3名も着いていく。


 息が上がる。足が重くなってきた。

 シュピュアとバリーレは無言のまま、驚くほど安定したフォームで並走している。

 背負っている装備は明らかに重い。シュピュアで10キロ、バリーレに至っては20キロはあるはずだ。にもかかわらず──ふたりとも、呼吸一つ乱していない。


(……マジかよ。どんな訓練積んだら、あんな走りができるんだ?)


 桃矢はかつて、陸上部にいた。

 だが、高校に入ってからは走ることすらやめていた。

 差があるのは当然だ──だが、それでも追いつきたいと思った。


(時速……30キロ。秒速にして8メートル超え……)

(100メートルを12秒のペース……って、常に全力疾走じゃねえか。)


 浅く呼吸を整え、ペースを無理やり持ち直す。

 汗が額から滴り、肺が熱を帯びる。

 足の裏が、石畳を叩くように強く蹴る。


(……ついていくしかない!)


「遅れるな、コーガ!」


 クーゲルの声が前方から響いた。

 どんどん遠ざかっていく背中に、焦りだけが募る。


「はい!!!」


 返事を絞り出し、意識を切り替える。

 ──体力の限界?知るか。後のことは、後で考えろ。

 桃矢は歯を食いしばって、さらにスピードを上げた。


 中央区は静かで平和そのものだった。

 今のところは。


 シュピュアとバリーレは相変わらず涼しい顔をしていた。

 対して桃矢は、今にも大の字になって倒れたくなるくらいには息が上がっていた。


(とりあえず、立ち止まるとよくない、歩こう。)


 桃矢は街を警戒する振りをしながら歩き出した。

 感化されるように、シュピュアとバリーレも歩き始める。


「整列!!」


 号令がかかった。

 渋々前に並ぶ。


「まず、命令もなく勝手に動くな。動きたい気持ちはわかるが、今は指揮系統の乱れが、そのまま命取りになると考えろ。」

「シュピュア、貴君はまず音に集中、怪しい会話が聞こえたら可能な限り場所を特定。」

「奴らはこちらの急な対応に、対応しきれていない筈だ。」


 持ち運び式の無線のようなものはないのだろうか、と桃矢は思った。


「次に、コーガとバリーレはペアを組め。不穏因子を発見し次第、現場で拘束。ただし、抵抗があれば略式裁判の上、即決で処刑して構わん。」

「私は、高所より不穏な動きを探す。シュピュアは私と共に来い。以上!行動開始!」


 言うが早いか、クーゲルは165cmはあろうシュピュアを小脇に抱えて、30m程の高さを一度で跳躍して、建物の屋根の上に着地した。

 ──明らかに、人間の出来ることではない。


「行きましょう、コーガ上等兵。」

 軽く手を引かれる。


 胸の高鳴り、疲労感、全てがピークな気がした。

 しかし、それは女の子に腕を掴まれたからではない。

 場合によってはこれから即決処刑…命のやり取りをする事になるかもしれないからだ。

 頭も胸もいっぱいいっぱいだった。


 まだ覚悟は決まってなどいなかった。


 屋根の上では、クーゲルとシュピュアが警戒をしていた。


「バリーレ、あいつ死ぬかもな。」


 シュピュアは動揺した。

 街の喧騒が沢山聴こえてくる。


 帰りにハインおばさんの所へ寄ってパンを渡さなきゃ。


 おい!早くしないと終わらないぞ!


 シュニッツェル、焼きたてだよー。


 色々な声が聴こえてくる。


「バリーレは、戦いに前のめり過ぎる。コーガがフォロー出来ればいいんだが。」

「ヘアテンを過信し過ぎている兵士は皆、似たような空気感があった、そして大半は真っ先に死んでいった。」


 シュピュアはなんと返してよいものか悩んだ。

 髪から聞こえる、パチパチと燃え爆ぜる音──今ほど、それが邪魔に思えたことはなかった。


「……なぜ、行かせたのですか。」


質問の意味は、自分でもわかっていた。けれど、聞かずにはいられなかった。

 軍人だから。広域を探知する能力がバリーレにはないから。

 私よりバリーレの方が目立たないから。


 探せば幾らでも理由なんて挙げられた。

 答えがわかりきった質問をした。

 意味なんてわかりきっていた、筈だった。


「確かめ、見極める為だ。バリーレがヘアテンを過剰に過信しているのか、私のような戦いの天才なのか、な。」

「貴君の心配はわかる、が案ずるな。」

「揉め事が起きればここからでも貴君を抱えて1秒以内に到着出来る。私は弾丸のクーゲルだからな。」


 上手(うわて)、だった。

 これが、少尉以上の階級。

 自分とは、まだあまりにも遠い場所にあると感じた。


「集中が途切れていやしまいか?もっと研ぎ澄ませろ。貴君の仕事だ。」


「はっ!」


 身が、引き締まる感覚がした。


 地上では、桃矢とバリーレがペアとなって歩いていた。

 はたから見たら、ただの散策と言っても差し支えないだろう。


 桃矢はふと、確認する必要がある事が浮かんだ。


「聞こえていますか、シュピュア伍長。聞こえていたら、光で合図をお願いします。」


 独り言のように、小さく呟いた。

 バリーレにも聞こえている感じではなかった。

 唐突に視界が眩しくなる。


 上を見ると、クーゲルが短剣で光を反射させているようだった。


 次はバリーレにもギリギリ聞こえるような声量で話し始めた。


「突然ですが、俺……雑学が好きなんです。」


 そう話し始める。


「ゲリラは、統計学上夕方から完全に暗くなる直前の黄昏時に現れる傾向が極めて高いそうです。」

「普段は市民に紛れているらしいです。だからこのやり取りも、聞かれている前提でお願いします。」

「多分、クーゲルさんが跳躍した所、見られてます。下から見えないように位置を変えて下さい。それで奇襲…先手が打てる筈です。」

「離れていて連絡が小まめに取れないのなら、5分刻みの決まった時間に行動を起こす事が予測出来ます。以上です。」


 言い終わると、2回光が桃矢の目を小刻みに遮った。


「すごい……コーガ上等兵。」


 ふと横を見ると、バリーレは目を輝かせていた。


「今のが聞こえてるシュピュア伍長も凄いです、皆凄いです。」

「私も、頑張ります!」

「そういえば、コーガ上等兵はヘアテンを塗布してますか?」


 うかつだった。

 ここは一歩間違えたら戦場なのだ。


「まだです。……手伝ってもらってもいいですか?」


「はい、わかりました。では背中を向けてください。」


 かつて、能力開発研究所で教えて貰ったように塗布していく。

 これで銃弾すら効かないハイパーソルジャーに自分もなった、と思ってもあまり現実感がない。

 ソルジャーと言えるほど体術も何も知らないから…かもしれない。

 そう桃矢は思った。


「ありがとうございました。」


──しかし、バリーレの顔には笑みのかけらもない。むしろ、獣のような眼をしていた。

 突如として、バリーレは走り出した。


「バリーレさん!……くそ!」


 桃矢はバリーレを追いかけ、走り始めた。


HQ!HQ!(本部!本部!)バリーレさんが単独行動開始!追従します!何かあれば応援されたし!以上!」


 映画や小説で知った単語を並べてそれっぽく報告してみた。


 前方を見ると、バリーレが走り幅跳びのように跳躍し、槍を取り出して市民に襲い掛かる。

 恐らく銀か鉄製か…長さは3m程あり、巧みに振り回す。

 流石にそれは略式裁判が過ぎる、せめて話を聞かなければ。


 しかし、聞こえてきたのは発砲音と自分の額と肩に当たる小さな衝撃だった。


「待てぇ!!死んでも…死んでも逃がさないぞ!!!」


 バリーレは咆哮した。


「惨たらしく……凄惨にッ……!!ブチ殺してやるッ…!!」


 バリーレが攻撃を仕掛けた相手は、アジア系の顔立ちの男だ。

 片手にはハンドガンが握られている。

 全力疾走で逃げているが、バリーレの方が僅かに早かった。


 槍を男の踵に突き刺すと、男は倒れた。


「死ね……正義の為に。」


 槍で額を一突きすると、頭蓋を貫通させた。


 これは…困ったことになった。


「バリーレさん!!殺しちゃ駄目だ!!」


「え?」


 バリーレの顔には、返り血がかかっていた。

 それとは対照的に、バリーレは笑顔だった。


「あぁ…そういえばそうでしたね。忘れてました。」


「なんで、その男がゲリラの1人だとわかったんですか?」


「え?なんとなくです。……憎くて、つい。」


 この人は…軍人として欠陥過ぎる。

 桃矢はそう思わされた。


 破裂音と同時に、着地音。

 シュピュアを小脇に抱えるクーゲルがいた。


「殺したのか。」


「はい!」


 無表情なクーゲルに対して、誇らしげなバリーレがいた。


「命令は?」


「抵抗するようであれば処刑せよ…です。」


 クーゲルは諭すように話す。


「抵抗していたか?」


「…して、いませんでした。」


「ふう、やれやれ…とんだベルゼルケル(バーサーカー)を寄越してくれたものだな…。」


 今度は桃矢に向き直る。


「コーガ、HQとはなんだ?」


「えっ?」


 よくよく考えたら、HQは英語だ。ドイツ語じゃない。


「本部…って意味でして…。」


「次からはちゃんとそう言え。いいな。」


「……はい。」


 またバリーレに振り向く。

 今度は優しい表情だ。


「今度は上手くやれそうか?」


「えっと…。」


 バリーレは口をつぐむ。

 自信がないのだろう。


「勇者からのお願いでも、駄目そうか?」


 その瞬間、バリーレの表情がパァッと輝いた。


「出来ます!やれます!!やらせてください!!!」


「ふふ、勇者の背中には貴君のような者が必要だ。その獣性、ちゃんとコントロールしてくれよ?」


「任せて下さい!!」


 その表情は誇らしげだった。


 桃矢は驚いていた。

 自分にはバリーレにするようなクーゲルの優しい表情を見た事がなかったからだ。

 自分の性分じゃなくても、円滑な作戦の為には演じる。

 これが、中尉という役職の重さなのだと理解した。


「シュピュア、杞憂だったよ。」


「そのようですね。」


 桃矢は首を傾げた。


「そのまま作戦継続という訳にはいくまいが…この騒ぎで民衆は逃げ出したようだな。」

「ゲリラがゲリラとして活動出来るのは、不意を打てるからだ。もう心配の必要性はないだろう。」


 ──しかし、その刹那、遠方から爆発音が響いた。


 クーゲルが驚いたように振り向く。

 当然といえば当然かもしれない。

 連絡手段は乏しい、作戦がバレたから取りやめ、この連絡が上手くいかなかったんだろう。


 そう思った。

 しかし、クーゲルの驚きは別にあった。


「各兵、緊急散会っ!」


 クーゲルが叫ぶやいなや、シュピュアはクーゲルに抱えられ離れ、バリーレは桃矢を抱えて一気に走り出した。

 そして、自分達が居た場所からは爆風が巻き起こる。


「チッ、壁ェッ!!」


 バリーレは舌打ちしたかと思うと、自身を中心とした不可視の壁を出した。

 土煙がバリーレを中心に円状に避けていた為に、"不可視"は"可視化"していた。


 石畳の破片はおろか、爆風による風圧の影響すら無視している。

 これがバリーレの能力なのだろうか。


「ありがとう、バリーレさん!助かっ…」


 バリーレを見た桃矢は絶句した。

 目から流血していたからだ。


「フーっ、フーっ…!」


 歯を食いしばっているように見える。

 土煙が晴れると、バリーレは桃矢を離し立ち上がった。


「だ、大丈夫ですか?」


 バリーレが戸惑うような視線を向ける。

 こちらのセリフである。


「あ、あの、バリーレさんこそ大丈夫なんですか!?」


「あぁ、これは制約です。別に負傷している訳じゃなくて体内の血液を放出する事により、不可視の壁を出します。」


「あまり長時間使うと貧血で気絶しちゃいますけど…耐久性は抜群ですよ!」


 バリーレは微笑んだ。

 そして、目元を手の甲で擦ると、続ける。


「行きますよ、コーガ上等兵。ここからは、戦争です。」


 桃矢は慌てて立ち上がった。


 クーゲルが驚いた理由がわかった。

 20mの巨躯を有する金色の肌を持つ男が杵を地面に振り下ろしていたからだ。


 男が杵を持ち上げると、4人を見た。


「ふん、まぐれか。次はないぞ。」


 そう言うと、杵を天高く掲げた。


「我が名はインドラ、千の目を持つ全能の神!!」


 空気が歪んだ。

 その中心から、黄金の王冠がゆっくりと、まるで誰かが見えない手で捧げるかのように降ってきた。

 王冠は迷いなくインドラの頭上に吸い寄せられ、静かに収まる。


 サリーを身に纏うインドラは、華美で美しくすら感じさせた。

 桃矢は見入っていると、突然脇に抱き抱えられる。


「まずは合流です、行きますよ!」


 バリーレは跳躍した。

 一度の跳躍で10mは飛んでいる気がする。


 インドラを迂回するようにクーゲル達のもとへ向かう。


 そして、クーゲル達と合流すると、クーゲルは指示を開始した。


「ひとまずはよくやった、バリーレ。まずは体勢を整える。我々は小隊単位で一時撤退──民間人の巻き込みは避けられている。今が好機だ。」


「……逃げるんですか?」


 バリーレが質問する。


「戦略的撤退だ、まずシュピュアを抱えて撤退、シュピュアは対象、インドラに投擲攻撃を続ける。」

「その後、近くのティーアガルテン公園(※1)まで撤退後、そこで奴を討ち取る。」


 またしてもバリーレの顔がパァッと明るくなった。


「はい!!」


「了解です!」


 遅れて、桃矢とシュピュアも返事をする。


「行動開始!!」


「ククク…作戦会議は終わったか?蟻どもが。この千の目から逃れられると思ったのか!」


 インドラが杵を横薙ぎに振るう。

 その風圧で窓は割れ、杵に当たった建物は倒壊した。


 杵が叩きつけられた直後、何かが“弾かれた”ような奇妙な反響音が残った。

 爆風も、瓦礫も、バリーレを中心に円を描くようにそれていく──不可視の何かに押し返されたようだった。


 桃矢はほっと息をつこうとした、その時だった。


「グギ…ギ…!」


 バリーレの顔に、赤い筋が流れていた。

 目の下から、頬を伝って、ぽたりと地面に落ちる。

 ……流血している。


 「バリーレさん……!?」


 彼女は何も言わず、口元だけで呼吸を繰り返している。

 唇の色が、少し薄く見えた。

 目の焦点も定まっていないように見える。

 バリーレが能力を発動させていたのだ。


 不可視の壁を解除すると、4人は走り出した。


 桃矢は中々増援が来ない事に苛立ちを覚えていたが、来なくて良かったと思った。

 もし来ていれば、被害は甚大だった事だろう。


「全員走れ!生きて次の一手を打つぞ!!」


 走り出すと、案の定インドラは追いかけてきた。


「炎の弓よ!!」


 クーゲルに小脇に抱えられているシュピュアが、何度もインドラに炎の矢を放つ。

 着弾する度に、軽く払われ鎮火する。

 しかし、それでいい。

 注意を引ければそれでいいのだ。


 シュピュアには生来、バリーレのような覚悟がなかった。

 クーゲルのような戦闘力もなければ、コーガのような雑学も持ち合わせてはなかった。

 ただただ、体力試験に最優秀で合格し、ただただテストで良い点を取った。

 それだけに過ぎなかった。


 その体力試験も、バリーレと比較をすれば落第点だろう。


 だからこそ、遠距離攻撃も出来るという事は自分にしか出来ない事だと思った。


「コーガ!許可する!アプヴルフを発動しろ!」


 クーゲルが叫ぶ。


「了解です!……アプヴルフ!!」


 服の上から左腕に文字が浮かぶ。

 その文字は…。


 ──何かを塗ったパンを綺麗に4つに割く事が出来る能力。


 パンがジャムやバターを塗っていた場合、パンを4つに裂けます……という事か?

 つまり、パンをいつでも4人分に均等に切り分けてシェア出来るようになる能力、という訳だ。


 これは非常に困った。

 明らかにハズレの能力だ。


「能力は!!」


 クーゲルが訊く。


「えっと…!何かを塗ったパンを綺麗に4つに割く事が出来る能力…です!!」


「バカか!?使えんそんな能力!!」


「使えるように考えます!!」


 とは言ったものの、流石にこれは使い道が無さすぎる。

 そもそもパンもないし。


「パン誰か持ってませんか!?」


「持っている訳ないだろう!!」


「あ、私持ってます!!クロワッサンどうぞ!」


 何故かバリーレが持っていた。

 ありがたく頂戴した。


「何か塗るものありませんか!?」


「諦めろバカ者!!」


 そう言いつつも、クーゲルがジャムを投げてきた。


「ありがとうございます!!」


 塗ってみる。

 割いてみる。

 綺麗に4等分出来た。


「4等分出来ました!!」


「それがなんの役に立つ!!」


「えっと…腹を満たせます!!」


 1つを口に入れる。

 甘い。駄目だ、考えるんだ。

 何か、突飛な案でもいい。


 当然、ある訳なかった。

 結局パンはパンなのだ。


「あの時みたいな巨岩みたく出来ないのか!」


「それは無…」


 無理ですと言いかけて、止まった。

 無理じゃ、ない。

 少なくとも、インドラが相手なら。


「もうすぐ公園です!この後どうしますか!?」


 シュピュアが訊く。


「ノープランだ!なるようになる!!案ずるな!」


 駄目かもしれない、シュピュアにそう思わせるには充分な返答だった。


「俺をインドラの前まで近付けて下さい!なんとかしてみせます!!」


「バカな!無茶だ!!」


 クーゲルが反対する、しかし…。


「了解です!!」


 桃矢を抱えて走るバリーレが了承してしまった。


「バリーレ!!許可してないぞ!!軍務違反だ!!」


「でも、コーガ上等兵はなんとかしてみせると約束してくれました!!なら次は私の番です!!」


 桃矢は胸が高鳴った。

 しかし、今度は違う高鳴りだ。


 バリーレが振り返ると、また走り出す。


「あのバカ者が…!!」


 シュピュアを降ろすと続ける。


「仕留める!!今!此処で!!!」


「はい!」


 桃矢とシュピュア、バリーレの声が重なった。


 バリーレが雄叫びをあげながら跳躍、インドラの膝の上に着地すると、桃矢を前方に投げた。


「いくぞコーガ!!そのクロワッサンで何をするかは知らんがタイミングを合わせろ!!」


 クーゲルが跳躍し、空中で桃矢を掴むと、インドラに向けて空中で軌道を変えた。


 そこに迫る雷の杵。


「何をするかは知らんが…、許すと思うか?このインドラが!!」


「紅蓮砲術!!放てー!」


 それに合わせてシュピュアが巨大な火球をインダラの腕に放った。

 雷の杵は軌道を外れ、クーゲルと桃矢の横に振り降ろされ、轟音を立てて石畳を粉砕した。


「うおぉぉぉぉ!!」


 桃矢は雄叫びをあげると、ジャムをインドラに放り投げた。


 インドラの肌にジャムが付着すると、桃矢はインドラの肌をつねり、4つに引き裂いた。


 裂かれた肌は、まるで折り目がついた紙のように、左右上下へと滑らかに開かれた。

 「な──」と言いかけた口が、ちょうど4つ目の裂け目で沈黙した。

 インドラは光の粒子となって、秋の空へ静かに還っていった。


「勝った…!」


 尻餅をついていたバリーレが小さく呟く。


 シュピュアには何が起きたかわからなかった。

 当然だ。20mもある巨躯を桃矢が引き裂ける腕力があるはずも無かった。


 そのままクーゲルは、桃矢を掴んだまま着地した。


「肝が冷えたぞ…。」


 そう言うクーゲルの表情は笑顔だった。


「さぁ、種明かしをしてもらうぞ。」


 桃矢ははい、と答え続ける。


「俺がいた世界…そこのギリシャという国では、パンという単語は全能の神…という意味も含まれている事を思い出したんです。」

「言わば概念的な話ですが…インドラは俺がいた世界では神として有名でした。」


「だから、4つに裂く事が出来た、と?」


「だって、本人が"全能の神"って名乗っちゃったんですもん。失言した側に問題があります。」


 桃矢は、笑ってみせた。


 その笑顔を見ているうちに、シュピュアの胸の奥に、熱くて、重くて、触れたら壊れてしまいそうなものが生まれていることに気がついた。

 ──その名前を、彼女はまだ知らなかった。


「よくやった、シュピュア。貴君のアシストがなければ、この勝利はなかった。」


「……いえ、皆の勝利です。」


 そう答えながら、彼女は気づいてしまう。

 この胸を締めつける感情の正体を。


 ──これは、劣等感だ。


 かつては常に上にいた。

 能力試験も、体力検査も、何一つ負けなかった。

 それが今、隣にいる“ただの上等兵”にすら届かない気がして──。


「浮かぬ顔だな。他と比べて、自分が劣っているとでも思ったか? 今まではエリートだったから、落差に戸惑っているのか。」


 図星だった。だからこそ、シュピュアは話題を逸らした。


「……それより、ゲリラ兵を捕らえないと。」


 言い訳だった。

 話を変えることで、見て見ぬふりをした。

 ──そんな自分の弱さに、さらに目を背けながら。


「その必要はない。兵どもが包囲を終えている。もう、逃げられやせん。」


 そんなことも、彼女は気づかなかった。

 ──いつから、こんなにも気持ちが乱れていたのか。


「強さとは、見せびらかすものではなく」


 クーゲルはふと、口調をやわらげる。


「必要なときに、必要なだけ。冷静に、的確に、それでいいんだ。」

「貴君のようにな。」


 彼女ははっとして、視線を上げる。

 クーゲルはもう、空を見上げていた。


「ま、私はそう思うがね。」


 笑みのまま、言葉を続ける。


「さて、無能なアイゼンライヒの兵どもの尻を蹴っ飛ばして回るかね?シュピュア伍長。」


 けらけらと笑うその背を、シュピュアは黙って見つめた。


 ──黄昏の光が、4人の輪郭を、ぼんやりと溶かしていった。

ご拝読ありがとうございました。

一通り必要な事前情報はお伝え出来たのかなと思います。

そして対峙する神話生物、インドラ。

旧インド軍の主戦力の一つですね。

こんなのがゲリラ戦で続くとなると、心臓一つじゃ足りないですねー。


さて、今回の注訳です。

※1→ティーアガルテン公園(Großer Tiergarten)

作中で登場した「ティーアガルテン公園」は、実在するベルリン最大級の都市公園です。中央駅からほど近い場所にあり、ブランデンブルク門や連邦議会議事堂といった歴史的建造物にも隣接しています。

その広さは200ヘクタール以上、森のように鬱蒼とした木々の中に散策路や湖、記念碑が点在し、まさに“街の緑の心臓”とも呼べる場所です。


本編では「決戦の場」としてティーアガルテン公園に向かう予定でした。が──ご覧の通り、キャラたちが現場判断で敵を倒してしまったため、公園に着く前に終わってしまいました。

そういう“予定調和を壊す勢い”もまた、彼らの強さであり、生々しさなのかもしれません。

そうとでも思わなきゃプロット通りの動きをしてくれないキャラ達に憤りを覚えてしまいそうです。

ティーアガルテン公園には申し訳ないですが、次の機会にもう少しちゃんと登場してもらうかもしれません。


愚筆失礼致しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ