プロローグ 夢にも思わない
妄想好きの高校生、古牙桃矢がいつもの帰り道で異変に巻き込まれるお話です。
異世界?それとも…。
現実と妄想の境界線が揺らぐ、その第一歩です。
2008年、日本。
木枯らしが吹き始めた頃、学校からの帰り道。
頓知が効き、雑学収集が趣味の古牙桃矢は、一人ぼんやりと妄想にふけっていた。
桃矢の座右の銘は、知識と経験は創作にリアリティを持たせる、だ。
いつも通りの帰り道。
(あのクソ担任、宿題出しすぎなんだよ…。)
そう考えながらも、頭の中ではまったく別の世界が広がっている。
(異世界のすべてを掌握したぞ! 勇者よ、これで俺は大魔王だ!)
(メガファイア! ハイパーサンダー! フハハハ! 勇者よ、お前が俺に勝たねば世界の平和はないぞ!)
高校生にもなって、と思うかもしれないが…よくある話だ。
大柄ではあるが、特に目立つわけでもない高校二年生・古牙桃矢の帰り道は、今日もこんなふうに妄想まみれである。
妖怪や不良に絡まれる前に、さっさと帰ってしまうに限る。
何があるかわからないのだから。
…それが、この世界に生きる学生たちの共通認識だった。
桃矢は妄想に熱中するあまり、目の前の景色をほとんど見ていなかった。
そして、『それ』は、突然やってきた。
──いや、本当は予告されていたのかもしれない。
何が起きてもおかしくない帰り道だというのに、悪い癖は簡単には抜けない。
意図せず彼を襲ったのは、“浮遊感”。
足がコンクリートを踏み締めなかった。
階段を一段飛ばしてしまったときに、ヒヤリとする、あの感覚。
だが、今回は違った。
その“ヒヤリ”は、10秒以上も続いたのだ。
人間、真に驚いた時ほど、声なんて出ないもんだ。
後にして桃矢はそう思ったそうだ。
ご拝読ありがとうございました。
ちょこちょこ更新して参りますので、興味が出たらブックマークなどして頂けたら嬉しいです。
愚筆失礼致しました。