序話 旅のはじまり
遠く遠く、どこまでも広い空を見る。今日は雲がひとつもないような、美しい快晴だった。
「旅の始まりがこんなにも綺麗なお天道様とは、幸先が良いね」
徳清が琳娜に話しかける。船を出すのに天気が悪いと海も荒れて航海が大変になるので、晴れた日に船を出すのは普通のことなのだが、こんなにも晴れ渡った空というのはどうやら珍しいらしかった。
「ほんと、素敵な天気に恵まれたね!空が私を祝福しているみたい」
「ははは。詩的な表現だね。頑張って勉強をした成果かな?」
徳清が琳娜の頭を撫でる。彼はよく琳娜を褒めてくれる。それが琳娜はとても嬉しかった。
「海の向こうはどんなかな。早く自分の目で見てみたいよ」
きらきらと目を輝かせて言う。
「そうだね。色んな国の人がいて、そこには色んな街があって色んな文化がある。国も言語も違う人達と、物を通じて巡り逢うんだね。」
琳娜はこくりと頷いた。
これは琳娜にとって初めての航海で、初めての異国。
多くの人が心配や緊張を抱えるであろうこの局面で、琳娜はわくわくとどきどきに満ち溢れていた。早く自分の目で見てみたい、感じてみたい。それは海の旅だけでなく、異国を、世界を。
琳娜は息をいっぱいに吸うと、思いっきり叫んだ。
「待ってろ海!待ってろ異国!」
そう言うと、徳清はまた声を上げて笑った。少し乱雑で女の子らしくないと言われる言動も、琳娜らしいと認めてくれるのだった。
太陽が照らす水面はきらきらと眩しく反射して、まるで琳娜に早くおいで、と呼びかけているみたいだった。
海からの風が運んできた空気は、ちょっぴり塩っぽかった。