第一夜
「とりあえずごはんにしようよ」
サラが声をかけた。
夜も更けていたが、王太妃の宮を出るのに手間取ったため、昼から何も食べていなかった。
メンバーはミュラ、アシュリー、副官のマーク、警備のブラント、それにサラ。
気まずさのためか、ミュラがサラを誘った。
メニューはエビの唐揚げ、パンの中にひき肉が入ったもの、鶏肉の葡萄酒にこみ、じゃがいものサラダ、干した無花果である。
どれも材料は安いが美味だった。
(うちのコックよりうまいかも)
アシュリーは狸顔を思い出した。
マークとブラントはがつがつ食べている。
(こいつら役目わかっているんだろうな。)
おかわりする二人を生
暖かい目で見ていた。
話の中心は自然とサラになる。
「ねえ。
ギランにいくら払ったのさ。」
「50フロリン」
マークがモグモグしながら答える。
「ええっ。
それ絶対カモられてるよ。
この家にそんなお金払うやつはいないよ。
多分どこかの女郎屋にしけこんでいるに決まってるよ。」
て呆れたようにいった。
ギランとはマークが交渉した相手だ。
友人の紹介だそうだが、どこか胡散臭いやつだった。
町で便利屋だか何でも屋をやっているらしい。
しかしミュラのことは秘密なので正規のルートは使えない。
「ギランはね、ダノア伯爵の腹違いの弟なんだよ。」
サラの衝撃発言に、皆フォークをとめる。
「母親の身分が低くて、一族として認められていないんだ」
母親は軟膏かなにかを売っていて生活には困っていないらしいが。
(どこの一族も変わらん)
アシュリーは呟く。
そう、彼にも異母妹がいるのだ。
父は妹を娘と認めていたが。
サラは自分のことも話し出した。
父は大学の先生だったこと。
10才の時亡くなったこと。
「それにしてはすれてるな」
マークが口を挟む。
「いろいろあるんだよ」
「それより幽霊てなんだ。」
「怖いの?」
「怖くはないが気になるだろ?」
ブラントは心配そうだ。
「お父様が出ると言われているけど、あたしはみたことないよ。
伯爵家の連中はみたらしい。
だから近寄らないんだ。
廊下を歩いていたんだって。
まああたしがいるから悪さはしない」
「ところで名前聞いてなかったけど。」
「こちらがアシュリー様でこっちが
ブラント、えーと」
「アイリスです。」
「アイリス様で、俺がマークだ」
「飯旨かったぞ。
俺はこれで帰る。
マークわかってるな。
とにかくなんとかしろ。
また様子を見に来る。」
「はあ」
なんとも頼りない返事だ。
(とにかくなんとかしなくては)
外は3月半ばを過ぎたというのに、寒かった。
またフードを目深にかぶる。
(そういえばあの娘、俺の痣を見ても、何も反応なかったな)
今さら思うアシュリーだった。