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【やり直す】

・【やり直す】


「目を開けてね! 戻ってきたね! 私たちが出会った世界にね!」

 そう言って魔法少女が俺の肩をぐらんぐらんと揺らしてきている(と思う)。

 俺はその場に尻もちをついているような感覚だ。

 おそるおそる目を開けると目の前には、なんと、さっきのちょっと大人になっている魔法少女じゃなくて、あの時に出会った頃の魔法少女がいた。

「戻ってこれたね! これでやり直せるね!」

 そう言ってジャンプしてハシャイでいる魔法少女。

 いやスカートがジャンプでめくれてパンツが見えそうになっているので、とりま急いで立ち上がることにした。

「いや戻ったってどういうことだよ」

 俺が魔法少女へ、少し焦りながらそう言うと、魔法少女はあっけらかんとこう言った。

「えっ? だってやり直したかったんでしょ! ねっ! ねっ! ここを新たな私たちの世界にするね!」

「やり直す、確かにやり直したかったけども、そのなんだ、完全一致とか何なんだよ」

「じゃあそこから説明するね! 私はとあることがあってずっとやり直したいと思っていたんだけども、ついに君が、何かの拍子でやり直したいと思ってくれたおかげで思いが完全一致して移動することができたね!」

 うっ、コイツ、とあることがあって、とボヤかしてやがる。

 もしかすると俺が、コイツが連行されているワイドショーを見ていたことを知らない?

 触れてもいいのかな、と思ったその時だった。

「ところで君は何でやり直したいとあんな強い気持ちになったねぇっ? ねぇ! だって君はそもそも私との記憶を若干消されているはずね! 一緒に世界を救ってほしくて移動魔法を目の前で見せたのに勧誘に乗ってくれなかったんだもんね!」

 そうか、コイツとの思い出が微妙に思い出せないのは記憶を消されていたからなのか。

 そうだ、そうだ、コイツの不思議な技というか魔法って、いろんなモノが浮いたり、勝手に移動したりとか、そういうものだったわ。

 何か納得、じゃなくて、質問に答えなければ。

 でも質問に答えると、そのコイツがボヤかしたことを言うことになるけども……まあいいか、聞かれたんだし。

「オマエが闇バイトの主犯格として捕まったニュースを見たんだよ」

 そう俺が言った途端、あの、断れた時みたいな、この世の終わりみたいな顔をした魔法少女。

 肩を落とし、膝はぶるぶる震えているが、なんとか、気を保ってみたいな唇をしながら、口を開いた。

「そ、それで、何で、やり直したいと思ったね……」

「いや俺の現状もクソだし、その、オマエもクソだし、もし俺があの時一緒に世界を救う道へ行っていれば、オマエはこんなことしなかったのかなとか考えてさ」

 俯いて黙った魔法少女。

 何を次言い出すのか、正直内心ビクビクしていると、顔を上げてこう言った。

「じゃあ結果オーライだね! 捕まって良かったね!」

「捕まって良かったなんて言葉無いだろ」

 とつい反射でそう言ってしまうと、また沈んだ顔をした魔法少女。

 でもそうじゃん、だってそうじゃん、と自分を励ましつつも、こういう反射で正しいことを言っちゃうところ、まだ俺に残ってたんだと思うし、それが良くなかったという過去もあるし、何か俺も脂汗が出てきた。勿論目の前の魔法少女も額から汗がだらだらだ。さっきからずっと。

「ね! ね! でも捕まったから君の目に映ったわけでね! 私はずっと戻りたかったね! もっと押し強く勧誘すれば良かったって後悔しているね! だって君が味方になれば最強なんだからね! こうやって落ちぶれていくことも絶対無かったね!」

 慌てて喋る魔法少女の気持ちは分からんでもないし、いやだがそれよりも、

「何で俺がいると最強なんだ?」

 と言ってみると、魔法少女は急に嬉しそうな顔になった。相変わらず汗はだらだらだけど。

 多分話題が別のほうにいきかけているからだ。

 その魔法少女は嬉々としてこう喋り出した。

「魔法少女は協力者に魔法を付与することができるんだけどもね、君の能力は『完全無欠のヒーロー』というトリプルSの超絶レア能力でね、全ての能力がカンストしているという俺TUEEEEE系の能力なんだよね!」

「何その転生系ラノベみたいな能力」

「能力は自分の体の個性と生き方によって変わって、君がずっと正義を強く持って生きていたからこそ手に入る能力なんだよね! 勿論その恵まれた高身長や体格も加味されているね!」

 そう言われた正直悪い気はしない。

 というか、

「そういうこと、出会った時に言ってくれよ」

「だから私もいろいろ学んだね! この今までの期間は決して無駄じゃないね!」

「やり直したからこそ、えっと、オマエはいろいろ思考できるようになったということか」

「オマエじゃなくてエメラルね! 私の名前はエメラルね!」

 エメラル、そうか、エメラル、これは口に出さないけども、期間は決して無駄じゃないと言ってもそれが闇バイトを経た経験じゃダメだろ。

 そんな俺の心の中のヒきなんて露知らず、エメラルは俺に向かって手をかざして、こう叫んだ。

「この人に魔法の付与ね!」

 すると俺の体の周りに紫色の光が出現し始めた。

 ん? こういうのって虹色とか、黄金色とかじゃないの? プラチナでも可だけども。

 俺って超絶レア能力なんだろ? でもまあ魔法の世界では紫色が一番高貴とか、まさかの冠位十二階と同じルールかもしれないし、と思っていると、エメラルが愕然と口を開いて、あいた口が塞がらないといった感じになっている。

 えっ? 何か違うの? やっぱ違うの? えっ? えっ? と思ったその時だった。

 俺の頭上にRPGの枠みたいなのが出現したと思ったら、そこに文字が出てきた。日本語だ。

《能力:課金ガチャ》

「なぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああねぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!」

 目の前でめちゃくちゃデカい声を叫んだエメラル。

 一体何なんだ、俺、何かやっちゃいけないことしちゃいましたか? マジの意味で。

「エメラル、俺、完全無欠のヒーローじゃないんだけども……」

「もしかするとね……今さっきまでの生活、こんなんでした、ね……?」

「いや、まあ、スマホRPGでの、その、課金ガチャが楽しみの、一つ、みたいな感じ、だったけど、も……」

 と言うことも恥ずかしくて、ついついモジモジ言ってしまうと、エメラルはガクガク震えながら、こう言った。

「まさか君がこんな堕ちていたなんてね……」

「いやエメラルが言うなよ」

 また反射でそう言ってしまったが、今は俺に言われたことへのショックよりも俺自体へのショックが大きいみたいで、小声で「こんなに堕ちてるなんてね……」とずっとブツブツ連呼している。

 何だよコイツ、じゃあもうコイツに何か気を遣う必要とかないかもな。思ったことバンバン言おうっと。

「じゃあさ、俺と世界を救うの辞める?」

 そう言ってみると、即座にエメラルはこう言った。

「辞めないね!」

「そこはそうなんだ」

「どんな能力も使い方次第ね! それに私はちゃんと強化されているね! 移動魔法以外も使えるようになったね!」

「じゃあ俺の能力は勿論、エメラルの能力も教えてくれよ。やっぱちゃんと知っていたほうが連携とかしやすいだろうからさ」

「そりゃそうだね! まず君の説明からするね!」

「あっ、君じゃなくて俺は奈良輪ね、奈良輪瑛斗、好きに呼んでくれていいよ」

 するとエメラルはちょっと悩むように顎に手を当ててから、

「じゃあ奈良輪くんでいくね」

 と言ってから、説明をし出した。

「奈良輪くんの課金ガチャというのは、自分の範囲にある何かを自分が指定したガチャに課金することにより、10連でアイテムが手に入る能力ね。ギャンブル性が高いから正直使いにくいね」

「自分の範囲にある何かって何?」

「勿論お金でもいいね、あとはそうだ、この石コロをまず課金して、自分が思い浮かべるやりたいガチャをやるね」

 自分のやりたいガチャか、もし石コロで宝石が出てきたら嬉しいなぁ。

 同じ石同士だし、何か相性良いかもしれない。10連なら出てもおかしくないだろ。

「じゃあこの石コロを課金して、宝石ガチャに挑戦!」

 と言ってみると、なんと空間が、というか世界が停止した。

 風に揺れていたエメラルの背中まで伸びた茶色の髪の毛も停止し、何なら少し遠目の木々の揺れも止まった。

 すると口が動いていないエメラルの声が脳内にテレパシーのように響いた。

「ガチャ演出中は誰も動けないね、だからって体力が回復するわけじゃないね、むしろ奈良輪くんの体力が消費されるね」

「そういうもんなんだ、能力というか魔法って」

「早速連チャンでガチャの結果が出てくるね!」

 本物のガチャガチャの筐体みたいなのが頭上二メートルくらいに出現し、そこからガチャガチャのカプセルが落ちてきて、床に着いた瞬間に割れて、出てきたモノは……!

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

《砂金体験をする時に邪魔な砂!》

「全部砂だぁ!」

 と反射で叫んでしまった俺に対して、エメラルは真顔でこう言った。

「石コロで宝石を狙おうとするなんて傲慢ね……ちょっと闇堕ちし過ぎてヒいちゃうね……」

「いや! 初めてだからよく分かんなかったんだよ! じゃあ何だよ! エメラルの使える魔法というのは相当品行方正なんだろうな!」

 と売り言葉に買い言葉といった感じにそう言うと、エメラルは目線を逸らした。

 いや、いやいや、

「もしかするとエメラルは闇堕ち能力なの……?」

 と俺がゆっくり聞くと、エメラルはちょっとだけ首を縦に動かして、

「若干ね……でもね! めっちゃ使える能力だからね!」

 とバカデカい声を出した。

 いや闇堕ち能力なんかい。

 でもどんな能力なんだろう。

「じゃあ説明するね!」

 と言ったところで俺はとある光景が目に入った。

「今! ヤンキーたちが中学生みたいな子を連れて裏路地に入った! 助けに行かないと!」

「そ! それは大変ね! 行きましょうね!」

 俺は走り出し、エメラルは俺のあとをついてきた。

 走って、自分が動いた時に気付いたんだけども、俺学ランだ。マジで高校生の時に戻ったんだ。

 改めて周りの光景を見ると、俺が高校の時に通っていた地元の商店街の近くで、外は少し夕暮れ気味、そうだ、コイツと出会ったのは学校帰りだったっけな。

 まあそんな話はどうでもいい、まずはヤンキーたちから中学生を助けなければ!

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