第67話 嵐の前
そういうわけで、俺はクリスマスイブのバイトを押し付けられた挙げ句、クリスマスケーキまでホールで一つ押し付けられてしまったのだった。
「はあ」と、俺はついついレジに立っていることも忘れ、大きな溜め息を吐いてしまう。
……おっと、いかんいかん。
だが、そんな俺よりも大きな溜め息がこの直後隣から届いた。
「はーあぁぁぁぁ……」
――藤野だ。
彼女が残念そうに、特別大きな溜め息をついたのだ。
俺は強いられているかのような義務感から、訊ねる。
「……ええと、どうしたのかな? 何かあった?」
「……はあ。私、イブにバイト入れられちゃいましたよぉ……」
「俺もだよ」
「青砥さんは別に用事無いからいいじゃないですか」
「決めつけるなよ!?」
アリオンの予定があるもん!?
藤野は俺の言葉など無視し、なおも続けた。
「ずーっとクリパ、楽しみにしてたのになぁ……。クリボッチとか……」
気の毒になる程、ガチで落ち込む藤野。
そんな彼女の顔を見ていた俺の口を、こんな言葉が突いて出る。
「……ざまあ」
やばっ!?
つい心の声が漏れてしまった!
ギロリと、藤野の目がこちらを下から睨み付けた。
「今なんか言いました?」
「べ、別に? 何も?」
「……ふぅん?」
しつこく疑いの眼差しを向け続ける藤野から逃げるよう「廃棄見てくるわー」と俺は逃げるのだった。
そんなやりとりもいつしか忘れ、時は流れてついにその日がやって来てしまう。
楽しかった出来事を消し去るように――。
◇
クリスマスイブ当日。
バイトが始まる前、事務所で勤務が始まるまでを待機している現時点で、既に不機嫌そうな藤野。
俺だって嫌なのにコイツめ、自分ばかり被害者面しやがって……。
それもそのはず。
俺達は望んでいないバイトを入れられたばかりか、コスプレすらもクズ店長の命令によってさせられていたのだ。
藤野はサンタ。
そして俺はトナカイ。
……でもまあ、ミニスカサンタ似合ってるなコイツ。
だが、それを言うのはなんだか負けた気がするので、黙っておくことにした。
……まあ、褒めて機嫌がよくなるならそうするが、まず無いしな。
さ、仕事を始めようか。




