第64話 りあるふぁいと!
正気を取り戻した強盗が、再び包丁をこちらに突き付けて命令する。
「な、何やってんだテメェ! そっから降りろや殺すぞ!!」
……ちくしょう。 こうなったらもう容赦しねぇ……。
「コンビニ流暗器術……」
俺はおもむろに肉まんの蒸し器に手を伸ばし、トングを掴む。
そしてそれを犯人の顔に突き出した。
「トングサミングッ!」
「ぐあっ!?」
突然のことに、大きく怯んだ犯人。
レジを飛び越えて、犯人の肩関節にプロレスのチキンウイングを極め、そのまま床に押し倒した。
筋トレしといてよかったぜ……。
「藤野! ひゃくとーばん!」
「は、はいっ!」
こうして今度こそ本当に、長かった一日が終わったのだった。
このあと犯人は通報により召喚されたポリスメンに逮捕される。
そして俺はと言えば、翌日の新聞で「お手柄コンビニバイト店員、強盗逮捕に協力」と称賛され――なかった。
「やり過ぎコンビニバイト店員、過剰防衛スレスレの暴力を振るい強盗は重症」と、不名誉な記事を載せられてしまう。
それもそのはず、あの強盗を床に押し倒した際、打ち所が悪かったため前歯のほとんどを失った上に、鼻骨と顎も骨折させてしまっていたのだから。
結果から言えば、防犯カメラの映像が残っており、俺の正当防衛はあっさりと証明され、逮捕は免れることが出来た。
しかしポリスメンからは「危ないことはやめて下さい」と、きつくお叱りを受けたのだった。
逆に店長は褒めてくれた。
なんだかなぁ……。




