第63話 オレンジの悲劇再び
「冷蔵庫のラーコーが切れたから買いに来たぞ」
その原因はお前によるところが大きいのに、なんでコイツはいつもコーラを買いに来るとこんなにも偉そうなのだろうか。
まさか、それで働いてる気になってるんじゃないよなぁ……?
とにかく、お前が来ると藤野の機嫌がなぜか悪くなるんだから控えてくれよ……。
そんな俺の気も知らず、早速コーラを買わずに立ち読みを始める鈴。
長居する気満々だな……。
コイツわりとマジで他のコンビニ行ってくんねぇかな。
折角猫に癒された後だというのに、再びピリピリとしたムードが店内に漂う。
まあでも、お客様が来て忙しくなれば、そんなことも気にしていられなくなるだろう。
だから早く来て下さいお客様!
そんな願いが通じる訳も無く、鈴はしっかり長居し、藤野はご機嫌斜めになるのだった。
その後鈴もコーラを買って大人しく帰り、藤野が退勤するまでもうあと五分という時間となる。
しかし、悪い事とは重なるもので――。
「金を出せ!!」
フルフェイスヘルメットに、手には包丁というスタイルの男は来店するなりレジに居た俺にそんな無茶な要求をしてきた。
なんでよりにもよって今日という日にこの店を選んだんだよ……。
もっとリア充カップルが居そうな場所……ラブホとかを狙いやがれ!?
クソッ!
余計な仕事を増やしてからにー!?
隣のレジを閉めて点検をしていた藤野が、俺にこんなとぼけたことを訊ねてくる。
「……えーと、青砥さん。少し早いハロウィンの仕込みですか?」
俺は首筋に押し付けられた包丁の冷たさを感じながらも、こう答えた。
「いや、本物だと思います……」
「ゴチャゴチャやってねぇでさっさと金出せやぁっ!!」
かなりご立腹な様子の強盗。
……こういう時、マニュアルではレジの金を渡した上で通報し、犯人の身体的特徴を覚えたり、カラーボールでもぶつけてやれば百点満点の対応だと言えよう。
……だが、あのクズ店長のことだ。
店の金が取られたとあれば、マニュアル通りの行動と言えども俺を責めるだろうことは火を見るよりも明らか。
なので俺は、強盗を怯ませるためにもこんな手段に打って出る。
「僕アルバイトォォォォッ!!」
大声で叫びながらレジカウンターに上がり、そうやって威嚇をした。
その甲斐あって、一瞬だが強盗が後ずさる。
「――ッ!?」
――今だ藤野ッ!
俺が作り出したこの隙に乗じ、藤野がレジ裏に仕込まれた通報ボタンを押してくれることを期待した。
しかしあまりのことに動揺していた藤野は、通報ボタンを押すという考えが頭から抜けてしまっているようだ。
彼女の方をチラリと見やれば、残り一つしか無かった防犯用カラーボールを足元に落として破裂させていた。
何やってんのこの子はぁぁぁっ!?
通報が先でしょぉぉぉっ!?