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新人バイトJKに手を出すなと店長から釘を刺されたが、生意気すぎてあり得ない  作者: 兼定 吉行
第六章 おでん襲来~招かれざる客達~
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第58話 いつもの

 車輪の音と共に、招かれざる客がやって来る。

「なんだお前達、店員のクセに店から閉め出されたのか? クックック、無様なことよ!」

 そう、魔王が三輪車に乗ってやってきたのだ。

 俺は早速注意してやる。

「お前、もう夜の六時だぞ? 日も短くなってるし、暗いのに子供が出歩くなよ。この時間、道路は車だって多くなるし、危ないだろ?」

「友達の家で遊んでいたら遅くなってしまったのだ! イカのギャングになって縄張り争いをするゲームが中々に面白くてついついな!」

 魔王は俺と藤野の周りを、ぐるぐると三輪車で漕ぎながら続けた。

「それにしても外でおでんの販売とは、なんだか今日は珍しいな!」

「そのぐるぐる回るのウザいからすぐ止めろ。そうしたらおでんの汁くらい飲ませてやるから、さっさと帰れ」

「よし、いただこう! さっきからこの小さな体が寒くて堪らなかったのだ!」

 買収成功。

 おでんの汁で言いなりになるとは安い魔王だ……。

 小さい方のおでんの容器に汁を入れてやると、魔王はそれをエリクサーでも飲むかのように、チビチビと幸せそうに飲んだ。

「うーん、温まる! おでんの汁は美味しいな! 勇者よ!」

「飲んだんならさっさと帰れよ。体が暖まった今の内にな」

「だがそんな約束は反故だー! ハッハッハ!」

 高笑いしながら魔王は、再び俺達の周りを三輪車でぐるぐると回り、営業妨害を始めた。

 コイツゥゥゥッ!?

「三輪車ごと蹴り倒すぞオメー?」

 しかし、そんな脅しにも魔王は屈しない。

 むしろこう言い返してきさえする。

「やれるものならやってみるがいい! ひとたび私が貴様を指差し泣き声を上げれば、それで事案の完成なのだぞ!?」

「……」

 俺はキレた。

 携帯を取り出して耳に当てがう。

「あ、もしもし? 青砥ですけど、今お時間よろしいですか?」

 ひとたび俺が電話を掛ける素振りを見せれば魔王は「あっ、ちょっ!?」と、あからさまに狼狽えた。

 それから腰を低くし、揉み手をしながら卑屈そうな上目使いでこう言う。

「やだなぁ勇者サン、今のはほんの冗談じゃないですかぁ? 本気にしちゃったんですかぁ? だから……ね? 電話は……ね? ねっ? 勇者サァンッ!?」

……今やコイツには、魔王としてのプライドすら無いようだ。

 無様な奴め!

 その後は速やかに、魔王にはご帰宅いただいた。

 そんなちょっとした騒動が収まるのとほぼ同時に、店からようやくクズ店長が現れて鶴の一声を上げる。

「そろそろ中に戻っていいぞ」

 よっしゃー!

 俺と藤野は人目も憚らずグッと、力強くガッツポーズを繰り出すのだった。

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