第53話 ヤツが来る
それからの俺達は安全に、浮き輪を使って波の出るプールでたゆたったり――。
「おおっ! 本物の海みたいに揺れますね! 凄く上下しますね青砥さん!」
「ああ、揺れてるな。そして凄く上下してるな。……二つの意味で」
「え? 何がですか?」
お前のおっぱいに決まってんだろー!
鈴はといえば、大きな波でもなんのその。
浮き輪の中ですやすやと寝息を立てていた。
「Zzz……」
……マジかこいつ。
凄いな……。
オリンピック種目にエクストリーム睡眠があったら、間違いなく金メダル候補だろ……。
やがて波の出るプールで遊び疲れた俺達は、流れるプールに移動する。
そこではなされるがまま、浮き輪に乗って流され続けた。
「青砥さん、一度組み込まれた社会の歯車から、抜け出せない様と似てますよね! この状況って!」
「おいおい娯楽施設に来てまでそんな世知辛いことを言うんじゃないよ。でも、確かに大きな流れにちっぽけな俺達は逆らえないんだよな……。なあ鈴」
「Zzz……」
「うん、だと思ったよ」
流れるプールにも飽き、俺達は一度水から上がる。
そしてフードコートへ移動し、この後どうするのか、かき氷をシャクシャクとやりながら話し合った。
「……藤野。プールって他に何して遊んだらいいんだ?」
「えーっと、普通に泳ぐ……とかですかね?」
「じゃあ訊くけど、泳ぎたい?」
「いえ、特には……。海なら砂遊びも出来たんですけどねぇ……」
……オイオイ。
今更そりゃないだろう……。
……ま、無理して遊ばずに、早めに帰っちゃってもいいよな別に。
「Zzz……」
この通り鈴も途中から、ほとんど寝たまま起きないし。
やはり昼夜逆転ニート生活で体力も無いこいつには、プールはきつかったか……。
などなどと、俺が考えていた時だ。
ヒタッ!
近くで何者かの足音が止まる。
それから聞き覚えのある笑い声が届いた。
「……クックック。こんなところでも会うとは、どうやら私達は強い因縁で結ばれているようだなぁ? 勇者よ!」




