第49話 ハンドクリーム
無事、この日の日勤を終えた俺は事務所の椅子に腰掛け、ユニフォームも脱がずに、まずはゆっくりとくつろぎながらコーヒーを啜る。
うーん、至福の一時だ……。
すると突然、背後から藤野の素っとん狂な声が届いた。
「ぬわぁ!?」
何事かと驚き、振り返る。
「ど、どうした!?」
「うぅ、ハンドクリームつけすぎた……」
「なんだ、そんなことかよ……」
「そんなこととはなんだ!? これお高いやつなんですからね!? それとも青砥さんが新しいやつ買ってくれるんですか!?」
「なぜそうなる……。バイト代で買えよ……」
「まあこうなってしまったからには仕方ないですよね……。ほら、手を出して下さい」
「へ?」
「いいから」
「……?」
わけもわからぬまま俺が手を差し出すと、なんと藤野は――!
「――ッ!?」
想定外の出来事に、俺は思い切り動揺した。
なんと藤野は、俺の手へと塗り過ぎたハンドクリームを分けようと塗りつけてきたのだ。
にゅるんにゅるんと、藤野の小さな手が俺の手をこねくりまわしたりシゴいたりする。
お……おうふっ……。
な、なんかエロチックだ……。
俺は努めて平静を装い、このなんとも言えぬ気持ちのよい感覚に下半身が反応しないよう祈る。
しかし――。
「ほら、反対の手も出して下さい」
なんですとーっ!?
まだ終わりではなかったようだ。
最後まで堪えきれるのか俺は!?
そんな俺に訝しげなジトリとした視線を寄越し、藤野が言う。
「……さっきから急に黙っちゃって、どうかしたんですか? っていうか私、青砥さんならてっきり手を引っ込められるかもとか思ってたんですけど? やけに素直じゃないですか」
「み、水に触る機会も多い仕事だし、ほ、保湿は大事だからな!」
「……ふぅん? まあ合法的に美少女JKに触れられるチャンスですもんねぇ」
「べ、別にそんなことは考えてなかったが!?」
「……ふぅーん?」
怪しまれはしただろうが、どうにか誤魔化せたようだ。
――それから数日が過ぎ、ついに藤野との約束の日がやって来る。




