第43話 危機察知
――夏。
長期休みに突入した俺は藤野と共に、土曜の日勤に入っていた。
客も減り出した頃、何気無く訊ねる。
「そういえばこの間の期末テスト、どうだったんだ?」
まあ藤野のことだ、鼻につくけど勉強もそつなく出来るんだろうなぁ。
しかし、彼女の答えは意外にも芳しくなかった。
「うーん、微妙でした」
「そんなこと言ってぇ、本当は成績もいいんだろ?」
「いやいや、成績とか普通ですよ」
「……意外だな。いい方かと思ったけど」
「そんなそんな! むしろ、中の下くらいですかね……」
仕事しているところを見た感じ、やれば勉強だって出来そうな気がするが。
ま、やらないんだろうな……。
俺はそう結論付け、一人納得する。
「……そういえば青砥さんて、一応国公立大でしたっけ?」
突然、そんなことを言い出した藤野。
一応は余計だよと思いつつも、俺は鼻高々に答える。
「まあ一応な、一応」
「なら勉強教えて下さいよ」
「えぇ……。バイト代出るんですかぁ?」
「出ませんよ! ってかお金取る気なんですか!? この可愛いバイト先の後輩から!」
「自分で言っちゃったよ」
「タダで教えて下さいよ!」
「厚かましいな」
「いいじゃないですか! どうせ友達居ないから夏休みも暇ですよね?」
「いやいや、俺にだってバイト以外も色々あるから!?」
「アニメとゲームと……後は漫画ですか?」
完全に見抜かれてる!?
だがそれを認めてしまうのは癪なので、精一杯強がった。
「ほ、他にもあるし!?」
「ラノベですね」
「……」
「ほら、やっぱり暇なんじゃないですか」
グゥの音も出ない……。
藤野は続ける。
「青砥さんて、確か大学の近くでアパート住まいしてるんでしたよね?」
「え、あぁ……」
まあ今はもう一人余計なのも居るような気もするが、あれはただのうんこ製造器だから人としてカウントするのは違うな……。
俺は「一人だよ」と答えた。
すると藤野は――。
「じゃあ私が出向いてあげるんで、勉強教えて下さいよ」
「なぜそうなる!?」
まずいぞこの流れは……。
俺の第六感が警鐘をガンガンに鳴らしてやがるぜ……。
いくらうんこ製造器といえども、鈴と住んでいることをコイツに知られるのは何かヤバイ感じがする……!?
仕方ない、こうなれば……っ!
苦肉の策として、俺はこんな説明をした。
「……ええと、俺のアパートはお化けとかGとか出るよ?」
これに藤野も納得したのか、一つ息を吐いてから言う。
「……わかりました」
「そうか、わかってくれたか!」
「つまりエロ本やエロ動画や、それにエロフィギュアやオナホだらけの欲望にまみれた部屋を見られたくないということですね?」
「何その酷過ぎる勝手な想像!?」とは思ったが、今は好都合なのですかさず乗っかった。
「そ、そうそう、そういうこと!」
「最ッ低」
とても感情のこもった言葉。
乗っかって……よかった……のか……?
もしかしたら俺は、捨てちゃいけないプライドを捨ててしまったのかもしれない。
……だが、これで藤野も諦めるだろう。
そう考えた俺は、生クリームよりも甘かった。