第34話 名前はキラキラ、仕事はブラック
深夜のコンビニは、当然客数が少ない。
夜勤は忙しい時は忙しいが、暇な時は本当に暇で、しかもその時間が非常に長い。
今日は二人だからまだいいが、相手が準夜勤で早く退勤してしまい一人にされた時などは本当に退屈で、夜勤者一番の敵はこの孤独との戦いと言ってしまってもいいだろう。
何もやることが無く、手持ち無沙汰な俺に五味が言った。
「青砥っちー。ちょっと早いけど、バフマシーンでフロア綺麗にしといてー。ウチは……そうだな、日報を書けるところまで事務所でやっとくからさ」
「わかりました」
言われた通り、俺はバフマシーンで床を磨く作業を開始する。
重く、なかなかに操作しづらいバフマシーンでの床清掃。
だが実は、俺はこの作業が嫌いではない。
床の汚れが少しずつ綺麗になっていく様を見るのが、なんだかとても気持ちいいのだ。
今日も一日、沢山のお客様がご来店したんだな……。
この店の連中の腐って汚れた性根も、こうやって奇麗に出来たらいいのになぁ!?
そんなことを考えながらフロアの半分程度を磨き終わったところだった。
「ブハッ!」と噴き出して笑うような声が、店内に響いた。
……ん?
事務所から……今、笑い声のようなものが……。
作業を一時中断し、事務所の扉を開け放つ。
するとそこには椅子にでっぷりと腰を掛け、ポテチ片手に店の漫画雑誌を読みふけるゴミクズの姿があった。
「おまっ――!? 漫画読んでんじゃねぇっ!?」
「バレたか! でも今週号の漫画雑誌はちょうど今読破しちゃったもんねーだ!」
あーもーコイツ腹立つー。
俺は怒りを抑え、出来るだけ優しく苦言を呈してやる。
「……五味さん、そんなに堂々とサボるのはどうなんですか?」
「だって日報も大体書いたし暇なんだもーん! よかったら青砥っちも漫画読めば? バフかけ終わったらさ」
「読みませんよ!」
「それともエロ本がお好みかなぁ?」
「だから読みません!」
「じゃあスマホゲーでもやれば? 捗るぞー!」
「クズめ……」
「どうとでも呼んだらいいさ! ウチには効きませーん! うぇーい!」
「……ゴミが」
開き直ったクズ程、厄介な存在は無いのだと俺は思い知らされるのだった。
そんな時だ。
ガチャリ。
「えっ」
ノックも無しに、事務所の扉が開けられる。
誰だ!?
振り返り、その人物を見た俺は納得した。
……ああ、この人か。
「おはようございます」
俺はそう挨拶したが、いつも通りその返事がされることはない。
白髪だらけの頭。
体も痩せ細り、眼窩も落ち窪んだこの男の名は黒野輝。
くたびれてボロボロを通り越し、生存本能からか煌々と目に尋常ならざる妖しい光を宿し、人殺しのような目付きではあるが、この男は歴としたテーヘンマート本部社員で、この地域のエリアマネージャーである。
まだ三十代半ばだそうだが、正直いつお迎えが来てもおかしくないような、歳に不相応な老け方をしていた。




