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新人バイトJKに手を出すなと店長から釘を刺されたが、生意気すぎてあり得ない  作者: 兼定 吉行
第四章 夜勤者の日常~あるいは異常~
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第33話 ゼロ理論

――深夜零時。

「おはようございまーす!」

 元気な挨拶で配送業者が、店内に補充するためのお弁当やお惣菜、デザートや紙パックのジュースを大量に運び入れてきた。

 この他にもアイスや雑誌、新聞なども時間を分けて運び込まれる。

 これらを欠品がないか検品し、陳列するのも夜勤者の大きな仕事の内の一つだ。

 なのに――。

 ジュースの補充に行ったきり、五味が戻ってこない!?

 あいつめぇ……!?

 やっぱり面倒事を俺に押し付けるつもりで冷蔵庫に逃げやがったな!?

 その意図に気付いた俺は、直ぐ様彼女を引っ張り出しにバックヤードの冷蔵庫へと急いだ。

 するとそこには、床に段ボールを敷いて寝転ぶクズ夜勤者の図があった。

「……何してるんすか」

「え? いやぁ、ここ涼しくて気持ちいいんだよねー」

「そんなことは訊いてない!」

「史奈の隣、空いてますよ?」

「何サボってんだって言ってんだよゴミクズ!」

 そう強く言ってやると、ようやく五味は「よっこらセックス」と重い腰を上げ、悪びれる様子も無くこう言う。

「……検品と陳列でしょ? 今行こうと思ってたしー」

 コイツゥゥッ!?

 だがこの後、さすがの五味も悪いと思ったのか、一応は真面目に仕事をこなしてくれたのだった。



「これで一先ずは終了だねー」

「そうですね」

 一通りの作業を終えた俺達は、事務所にて思い思いのドリンクを飲みながら一息ついた。

 俺はレジで作るタイプのアイスコーヒーを。

 そして五味は、銀色に光輝く缶が清涼感を醸し出している、エサヒのハイパードライを。

……エサヒ……ハイパードライ……だと……?

「ゴクッゴクッゴクッ!」と、豪快に喉を鳴らしながら、黄金色の液体の入った缶を一気に傾けていく五味。

 呆気に取られたままの俺が止める間も無く、最後の一滴までをも飲み干した彼女はその証拠に缶をグシャリと握り潰し、事務所のテーブルに叩きつけた。

 そして、満足げに言い放つ。

「プッハー! うっめぇぇぇぇっ!! やっぱこれだねっ!」

「いや勤務中に何酒飲んでんだこのバカーッ!? こんなのバレたら、一発でクビだぞ!?」

 だが、五味は妙に落ち着いた様子で、ニューヨーカー染みた大袈裟な身振り手振りと腹の立つ顔でこう言った。

「落ち着くんだドーテーボーイ」

「誰が童貞だ!? 落ち着いてられるか!」

「これだからドーテーボーイは……。いいかな? 今私が飲んだのはノンアルコール飲料だ」

「え……」

 よくよく缶を見れば、確かにそこにはノンアルコールの文字があった。

「ほ、本当だ……」

 クッソ紛らわしい真似しやがってぇ!

 そうは思ったが、非はこちらにあるので仕方無く謝罪する。

「早とちりで怒鳴ったりして、すみません」

「いいさいいさ! 今日は青砥っちも居るからノンアルにしたってだけだし?」

「……ん!? じゃあいつもは飲んでるんですか!?」

「何本気にしてんのぉ? 冗談に決まってんじゃん?」

「……ですよね」

……クソ。

 この短時間で一度ならず二度もからかわれた……。

 調子に乗った五味が続ける。

「いつもだって、ちゃんとプリン体や糖質ゼロのものを選んでるから安心していいぞ!」

「そうなんですね! なら安心……ちょっと待て、アルコールゼロじゃなくて?」

 そう当然の突っ込みを入れてやると、五味はばつが悪そうな表情を浮かべて黙り込んだ。

「……」

「おい黙るなよ。まさか……」

「……色々ゼロだったし、アルコールもゼロじゃね? 見てないけど……多分……」

 わかっててやったのか、あるいは本当にボケているのか、それはわかりかねるが、この議論はこれ以上続けない方がいい。

 そう判断した俺は、こう一言。

「……聞かなかったことにしておきます。以後気を付けて下さいね」

 厄介事には関わらない方がいい。

 急速に大人になる術を学んだのだった。

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