第31話 実食
「さあ! 青砥さん! いっちゃいましょう! 私達で、新たなコンビニB級グルメを完成させるのです!」
「よ、よーし!」
悪魔の囁きに正気を失ってしまっている俺は、ゆっくりと肉まんを高温の油へと沈める。
ジュゥゥワァァァッ!
食欲をそそる音が響き渡った。
「いい感じじゃないですか!? ねぇ青砥さん!」
「あ、ああ!」
俺と藤野のテンションはクライマックス(意味不明)。
しかし次の瞬間!
ボフッ!
「えっ」
不吉な破裂音。
「うわっ、肉まん破けた!?」
そう、肉まんは熱によって膨張し、揚がる前に破裂してしまったのだ。
更に悪いことに、破けた部分へと染み込んだ油が、中の肉汁と大喧嘩して――。
バチバチバチッ!
「キャッ!?」
「うわっ!? めっちゃ油跳ねてっ――熱ッ!?」
「青砥さん! なんとかして下さいよ!」
「む、無茶言うな! ぬわああああっ!?」
まさに大惨事。
俺は熱い油を浴びながらも、なんとか揚げ肉まんを救出する。
さすがの藤野も、申し訳なさそうに呟いた。
「すみません、火傷しませんでした?」
「いや、熱かったがそこまでじゃない……」
「それにフライヤー周り……汚れちゃいましたね……床まで」
「ああ……酷いなこりゃ……」
こうして、多くの犠牲の上に、誕生した揚げ肉まん。
その味は――。
カリッ!
生地表面は見事に揚がり、心地よいクリスピー感が歯に伝わる。
しかし――。
「ヴォエッ!?」
「マズッ!?」
残念ながら油っこ過ぎて、とても食えたもんじゃなかった。
破裂した箇所から、揚げ油が中に入ってしまったことも敗因の大きな一つだろう。
口元の油を拭いながら、藤野は反省した。
「揚げパンみたいにはいきませんでしたね……」
同じく口を拭いながら答える。
「まあ破裂さえしなきゃ、もう少し美味しくいただけたかもな……」
「次は頑張りましょう!」
「いや次があるのかよ!? ポジティブゥゥッ!?」
この後フライヤーを掃除する夜勤者に、メチャクチャ怒られた。
――こうして、魔王に引き続きネトゲ廃人と化した幼馴染みすら現れるという大事件が起きながらも、結局はいつも通りのイカれたコンビニバイトをこなすのだった。
願わくば、もう少し普通に、平温にバイトをしたいものだが……。
何やらまだまだ悪巧みをしていそうな、藤野の横顔を見ながら思う。
どうやらそれは難しそうだ――と。




