第30話 第一回チキチキ コンビニB級グルメ創作選手権
女心と秋の空とは言うが、本当に藤野は機嫌の悪くなるタイミングや理由がさっぱりわからない。
こんな調子のでこの日のバイトは、藤野とは事務的な会話しかないまま終わろうとしていた。
まあそれは本来いいことではあるのだが、藤野との不仲からそうなっている点はよくない。
同僚との良好な関係や、職場の雰囲気は大事だ。
だが俺に、この状況の打開策が無いことも事実。
このままの気まずい空気が、次の藤野との勤務でも続くのかな?
やだなぁ……。
出勤したくないナァ……。
そんなことを考えている内に、藤野が勤務を終えてしまう二十一時半まで、残り三十分となっていた。
その時だ。
これまでの険悪なムードが嘘のように、いつもの調子で藤野が話し掛けてくる。
「青砥さん」
「な、なんだよ突然? ど、どうせ余計なことでも思い付いたんだろうが、暇だから聞いてやる」
俺のそんな悪い予想は見事的中した。
客の居なくなった店内に、藤野の声が響き渡る。
「第一回チキチキ! コンビニB級グルメ創作選手権っ!」
「……はあ?」
突然なんなんだよ……。
秋の空超えて木星の空だよ……。
混乱する俺のことなど構わず、藤野はあくまでマイペースに続けた。
「コンビニにある商品を使って、新たに美味しいものを作ってしまおうという思い付き……じゃなくて企画です」
「いや、訊いてないが。そんな思い付きもどうでもいいが。いきなり何を言い出すかと思えば、ほんっと、お前という奴は……」
本当なんなんだよそのイカれたテンションとアイディアは……。
さっきまでの険悪なムードはなんだったんだ?
これまでにもJKのバイトは居たし、共に勤務したこともあったが、コイツだけはいつまで経っても本当に謎だ……。
まったく読めねぇ……。
困惑する俺をよそに、藤野が本題を切り出す。
「つまりですね、肉まんを揚げたら、揚げパンみたいで美味しくなりそうじゃないですか?」
「おまっ!?」
でも……。
「……確かに」
悔しいけど同意しちゃう!
調子に乗った藤野は、おっぱいを突き出してドヤった。
「フフン! 天才のそれと褒めてくれてもいいんですよぉ?」
鼻につくなぁ……。
「……まあ、正直面白い着眼点だと思うよ」
「じゃあ早速揚げていきましょー!」
「いやー……でも、決まった物以外をフライヤーで揚げるのはマズイよな……」
「そんなこと店長に言われました?」
その言葉に、俺はハッとさせられる。
「……言われてない!?」
「そうなんですよ!」
「いや言われてなくてもやっちゃいけないことはあるし、お前もそれくらいわかるだろ!?」
しかし、藤野は聞いてなどいない。
勝手に主張を続ける。
「それにですよ? 青砥さん。今日はもう揚げ物は作りませんよね?」
「あ、ああ……まあ、そうだが……」
最悪、何か問題が起こって揚げ油が汚れてしまっても、すぐに夜勤者が入れ替えてしまうから大丈夫だ。
「それにこんなこと出来るの、内部の人間だけの特権ですよ?」
「特権……」
その甘い言葉に、まんまと乗せられてしまう。
気付けば既にトングで肉まんを掴み、フライヤーの前に立つ俺が居た。