第28話 混乱のサラダ
「歩退いて、そいつ殺せない」
「殺さなくていい!?」
なんと俺を尾行した鈴が、バイト先であるテーヘンマートへと来てしまったのだ。
それは別にいい。
だが、そのタイミングが悪かった。
たまたま店に来ていた魔王幼女こと、真緒とバッティングしてしまったのだ。
頭はいいが精神年齢がクソガキ並みの鈴と、悪知恵の働くリアルクソガキな真緒。
「なんだこのちんちくりんの色白ガリガリ貧乳女は? 勇者の仲間は小学生か? それに引きニート顔だな! 社会性をちっとも感じない! あとぼっち顔もしてるな! どうだ? 図星だろう? 人の娘よ!」
……こいつ、意外と人を見る目あるな……。
マジで図星を差しちゃったよ……。
真緒によるこの口撃を真に受けた鈴が、今まさに事に及ぼうとしていた。
そんな鈴を、俺は羽交い締めにして制する。
しかし、彼女は浮いた足をバタつかせて抵抗を続けていた。
「放せ歩。こいつは魔王を自称した。魔王なら殺すべきだ。法的に問題ない」
「いや問題あるわ!? ゲームじゃなくて現実だからね!?」
このやり取りから、自分が完全なる安全圏に居ると気付いた魔王は、愚かにもこちらを挑発する。
「ハッハッハ! つまり私はお前達勇者パーティーすら手出し出来ない、最強のパーフェクトボディ……幼女の体を手に入れたということだな!」
こんのガキは余計なことをぉぉぉっ!?
案の定、その言動は鈴をぶちギレさせる。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス……」
こ、これはヤバイヤツだ!
ええい、こうなったら仕方あるまい!
俺は鈴を小脇に抱え直し、空いた方の手で携帯を取り出す。
もちろん、電話の相手は――。
「……あ、もしもし真緒ちゃんのお母様ですか?」
そう、真緒ちゃんママだ。
「ちょ、あっ、それはあの、反則じゃ!? だ、ダメダメ勇者! 無し無し!」
効果覿面。
鈴をブチギレさせてからもふざけた調子でいた魔王の表情から、一気に余裕の色が無くなる。
「ひ、卑怯だぞ勇者!?」
「使えるモンはなんでも使うのがこの世界なんですよ魔王チャン? それに最初に鈴を引きニート顔だのぼっち顔だの、あることないこと()挑発を始めたのはそっちだろうが!」
「……フン。今日のところは私が退いてやろう。サラダバー!」
強がってはいたが、やはり相当母親にチクリを入れられたことが堪えたのだろう。
真緒はすんなりと引いてくれた。
ってかサラダバーて……。
どんだけママにびびって焦ってたんだよ……。
小者感漂わせながら、そそくさと店を後にした魔王を見送った後で、鈴に言ってやる。
「……まあなんだ、気にするなよ。あんなガキの言うことはさ」
「理解した。だが次は必ず、あのメスガキにわからせる……」
……うん、まだキレてますねこれ……。
だがこれにて、一応は一件落着。
――とはならない。
なぜならここはテーヘンの店内。
幸いなことに客はまったく居なかったが、ここには当然、俺以外の店員が居る。
そう、藤野が――。




