第26話 マンガ喫茶に引きこもり
……と、ここで俺はさっきからずっと、引っ掛かっていたことを訊ねる。
「それと気になったんだけどさ、なんで今漫喫から出てきたんだ?」
「ああ、ここが私の家だからな。遅刻もすまん。アリオンにインしたまま寝落ちしてた」
「……ん? もしかしてここで待ち合わせるために、昨日から泊まり込んでたのか?」
「いや、違う。今言った通り、ここが私の家だ」
「……は? どういうこと?」
「言葉通り住んでいると言うことだ。スペックの高いパソコンも食べ物もシャワーも寝床もあって、なかなか快適だ。ご飯もうまい。カツカレーがオススメだ」
オイオイオイ!?
「ちょっと待て。ここはアパートじゃないんだ、普通そんなに長く住めないだろ? お金はどうしてる? っていうかそもそも、お前働いてるのか?」
「アパートは引き払った。それに働かずとも問題ない。毎月両親からアパートの家賃代が振り込まれるからな」
「はあ!? ダメだろそれ!? 勝手にアパート引き払って、家賃使い込んでるのかよ!?」
「問題ない。私が住むためのお金を、住むために使っているのだから」
「問題なんだよなぁ……。ネトゲしてる場合じゃなくなってきたな……」
「じゃあ何するの? 死ぬの?」
「なんでネトゲorDIEなんだよ!?」
――結局、鈴に流されるまま当初の予定通り、俺はこの漫喫でアリオンを一緒にプレイすることになるのだった。
「私の家へようこそ。遠慮なく上がってくれ。多少なら騒がしくても構わない」
「いやお前の家ではないからな? 店員さんと他のお客さんの迷惑にはなるようなことができるかよ」
隣り合ったブースの壁を店員に取り払って貰い、一つの空間にして早速アリオンにインする。
◇
「歩、十五秒後にリヴィアタンへ行動範囲制限のデバフを掛ける。そのタイミングで炎系エンチャント武器で殴って」
「了解! それまでは俺が尻尾側から注意を惹き付けておくけど、ブレス攻撃にだけは気を付けておけよ? ギリそこまで届くぜ?」
「その程度問題ない。軽く避けられる。むしろヘイト管理してるから、そっちにチャンスができるはず」
「さすが鈴! やるな!」
チャットではなく、生の声で相方の顔を見ながらプレイするネトゲはとても新鮮で楽しく、時間を忘れてしまう程だった。
通話にラグが無い分、連携もスムーズだ。
「よっしゃ! リヴィアタン討伐最短記録!」
「まだ時短の余地はある」
「だなっ! じゃあ酒場に戻るか」
「うん」
ゲーム内で一段落着いた所で、鈴が言った。
「……喋ったら喉が渇いたな。こんなに人と話したのは三年振りだ」
「つまり俺としか喋ってないってことじゃないか……」
鈴はこんな難儀な性格だ。
友達どころか、知人と呼べるような者すらも周囲に居ないのだろう。
鈴はおもむろにブースに備え付けられた電話を取ると、「ラーコー二つ」と注文した。
すぐに店員がコーラを二人分持ってやってくる。
「ほら、歩も飲むだろ? コーラは好きだろ?」
「あ、どうもありがとう……って、ドリンクバーすら汲みに行かないのかよ!?」
「ここは私の家も同然。ならば店員も召し使い同然。いわばオカン」
「なんて傲慢な……。横着するんじゃないよ! それにそんなわがままをきく店員も店員だな!? あと本物のオカンだとしても、そんなアゴで使うような真似しちゃダメだからね!?」
「チッ……歩うざい」
舌打ちした上になんだよその言葉遣いは!?
やはり三年間も世間と断絶し、漫喫に住み着いていて、何も変わらないわけがなかったのだ。
頑固でコミュ障だけどいい子だった、あの頃の鈴はどこへ……?
これじゃ引きこもりのクズニートじゃないか!?
いや、もはや籠城レベルだろ……。




