第23話 真の魔王 その名はF……
子供の小憎たらしい時期なんて、人生で見れば短いもの。
これからは目くじらを立てず、うまく付き合っていこう。
……そんな風に少しでも考えた、俺が馬鹿でした。
「クソガキコラァッ!?」
「ハッハッハーッ! 今頃気付いたかこの間抜け!」
この日の魔王は、本の売り場をめちゃくちゃにするというイタズラを行っていた。
珍しく何もせずに立ち読みしていたかと思えば、また厄介なことをしおってからに!?
少年誌は女性誌コーナーに。
ファッション誌は旅行雑誌コーナーといった具合に、それはもうあべこべに並べ替えられていた。
これ直すの地味に面倒臭いやつじゃないかぁ!?
本が入ってくる夜勤がメインじゃないから、元々の位置とかおおよそでしかわかんねぇんだよ!?
くっそ、知ってか知らずか、なんて悪質な真似をぉ……!?
「ハッハッハ! 私からパズルゲームのプレゼントだよ勇者君!」
「そんなプレゼントいらねーよ!?」
愚痴を溢しながら魔王のイタズラの後片付けをしていると、あることに気が付いた。
成人向けの要素の濃い……はっきり言えば少しえっちな要素の入った本にだけは、どうやら一切手を出していないようなのだ。
「ぷっ」
案外うぶなのか? 魔王のくせに……。
そりゃそうか、子供なんだから……。
なんだか少し、おかしくなってしまう。
……魔王サトゥルネスこと佐藤真緒。
憎みきれない奴だ。
その時だ。
藤野が飴玉を持って現れ、それを魔王に差し出す。
「真緒ちゃんいらっしゃい。はい飴」
「ありがとう!」
無邪気な顔して受け取りやがって。
魔王はすぐに飴玉を頬張ると、それを口の中でコロコロと転がしながらこう言った。
「藤野はいい奴だな! 我が軍門に入れてやらんでもないぞ!」
「あはは! なにそれ? よくわからないけどありがとう。じゃあ入ろうかな?」
「おお! そうか入るか! 賢明な判断だ! 藤野は見所のあるヤツだな! それに人間ながらにして我が軍門に下った最初の一人だぞ! 光栄に思え!」
「ありがとねー。……じゃあ軍門に入ったら仲間同士だし、本を直すの手伝って貰ってもいいかな?」
得意気になって魔王は言う。
「うむ! 藤野がそう言うならそうしよう!」
「まずは私にもどうやるかわかるように教えて欲しいな?」
「任せろ! ではまず私がお手本を見せてやろう!」
「はいっ、お願いしますっ!」
俺はその光景に我が目を疑う。
マジすか!?
どうしてこうなった!?
完全に魔王を懐柔している!?
藤野こそ黒幕なのか!?
そうなのか!?
ってかお前こそ子供の扱いうまいじゃないか!?
まるであの憎たらしい魔王が年相応の子供に見えるんだが!?
藤野……なんて恐ろしい子!
利用されているとも知らず、せっせと本を元に戻していく魔王。
「どうだ? 早いだろう? 私にかかれば人間の仕事など容易いのだ!」
「わーすごーい! 真緒ちゃんはやーい!」
「ふふんっ! それほどでもない!」
魔王の目を盗み、俺は藤野に小さな声で話し掛ける。
「……お前、いつの間に魔王を飼い慣らす術を身に付けたんだよ?」
「んー、ちょっと前から懐くようになったんですよ」
「どうやったんだ?」
「何言ってるんですか? 青砥さんの真似をしたまでじゃないですか」
「……どゆこと?」
「だから、ごっこ遊びに付き合ってあげてるってことですよ。異世界の魔王だとか勇者とか、魔王軍だとかの」
「あー、それね……」
「あとはパンパンマンチョコじゃないですけど、私がいつも買ってる飴をたまにあげたりとか」
「餌付け成功じゃん……」
「ですね!」
「……」
「……どうしました?」
「いや、なんでも」
やっぱり藤野が真の魔王なんじゃないか?
そんな言葉を俺はえんげした。
魔王によるテーヘンマートへの災厄は、この後も続いていく。




