第22話 真の勇者 立ち読み君
「見ろ勇者よ! この商品とこっちの商品の値札を交換しちゃったぞ! これが私の新たな混乱魔法だ!」
「こ、この野郎っ!? また面倒な仕事を増やしおってからに!? いい具合にいやらしいイタズラをよくもこうもポンポン思いつくな!?」
「ハッハッハ! そう褒めるでない!」
この通り、魔王は相変わらずの調子であり、俺は日々イライラとさせられている。
「あーあーもう、一体いくつの値札を入れ換えたんだよまったく……」
「この下の列の前側を全部だ!」
「死ねっ!」
「生きる!」
「しかも缶ジュースの飲み口のところもペロペロしちゃったもんね!」
「はああああ!? 何してくれてんだお前!? どのジュースだ!?」
「こっちも下の列の前側全部だ! 残念ながら私は子供ゆえ持ち合わせがない、代わりにお前が弁償するのだ勇者よ!」
「ふざけんなよっ!?」
だがこの直後、誰も予想し得なかった展開が起こった。
「あのーすみません」
「はい?」
声を掛けられ振り返ると、そこにはいつもエロ本コーナーをチラチラ気にしながら、漫画の立ち読みをしている太ってTシャツがピチピチの青年が居るではないか。
そう、立ち読み君だ。
「たっ、立ち――」
じゃなくて――!?
「ど、どうなさいました? お客様?」
「あのー、その下の列のジュース全部下さい」
「はい!? でもこれ、全部この子がイタズラしたものですけどいいんですか? 飲み口を舐めちゃったんですよ?」
「構いません。むしろそれがいいんです。全部売って下さい」
情熱のこもった口調。
唖然とする魔王。
当然、俺も呆気にとられ、内心でドン引きはしたが「まあ事情を知った上で納得して買い取るって言ってるんだからいいかな」と思い直す。
「わかりました、お売りしましょう!」
結局は二つ返事で快諾した。
「やったぞぉっ! フヒヒッ! あざーす!」と、立ち読み君はニヤつきながら喜ぶ。
「ヒッ」と短く悲鳴を上げ、顔をひきつらせる魔王。
立ち読み君の喜ぶ姿を見て、賢い彼女も何か思うところがあったのだろう。
それ以降魔王は、こういうタイプのイタズラもすることは無くなった。
「……いいか? この世界には、ああいう人種も居るんだから、自分の行動には気を付けるんだぞ?」
「う、うむ、覚えておこう……。それにしてもおぞましい……。この私ですら鳥肌が立ってしまう程に……。あれがロリコン……いや、ペドフィリアという下等種族か……」
「お前さ、いつも一人で行動してるようだがその辺りも気を付けろよ? 今はなんの魔力も持ってない非力な幼女なんだからな?」
「うむ、それも肝に命じておこう……。今日はもう帰るかな」
「おう、そうしろ」
店を後にする魔王の小さな背中を見送っていると、藤野がニヤニヤとしながら顔を覗き込んでくる。
「……なんだよ」
「なんだかんだあっても、本当に青砥さんと真緒ちゃんて仲良しですよね」
「……そう見える?」
「はい。なんか微笑ましいです」
「……そうか」




