第13話 魔王を自称するお客様
藤野というイレギュラー要素を除き、大学とバイトの両立生活を送っていた俺の元に、不穏な足音が近づいていた。
それは藤野とのバイト中のこと。
なんだか、店の中から邪悪な気配が……。
長年コンビニバイトを勤めてきた俺が身に付けた第六感、厄介なお客様センサーがビンビンに危険を報せてくるぞ!?
万引きでも起こりそうな悪寒。
気付いた時にはもう、ソレは近くにまで忍び寄ってきていた。
……嫌な予感がするな。
最大限の警戒をしつつ、レジから店内を見回す。
しかし――。
……おかしい。
確かに邪悪な気配はするのに、姿が見えない。
なぜだ!?
そう俺が不審がっている所へ、声が掛けられる。
「クックック。どこを見ている?」
「なっ――!?」
俺の心の声が読まれている……だと……?
それにこの声は一体どこから!?
俺は隣に居た藤野を守るように左手を添えて出し、謎の声に訊ねた。
「……どこに居る。姿を現せ! 邪悪な者よ!?」
すると、これに応えるように――。
「ここだよ」
その声はレジカウンターを挟んだ真下から聞こえた。
まさか……。
俺は恐る恐る、カウンターに身を乗り出して逆側を覗き込む。
するとそこには四、五歳くらいであろう、おさげ髪の幼女が居た。
……あれ。
思っていたのと違う声の主の正体に、少なからず俺は動揺してしまう。
いやまあ、声は確かに幼女の声だったのだが、そこには大悪党のような響きが確かにあった。
それに――。
この幼女から、邪悪な気配が漂っていることもまた確かだ。
一体どういうことだろうか?
そんな風に悩んでいるところへ、幼女はこんな質問をしてきた。
「私が誰だかが貴様にわかるか?」
その言葉には、幼女とは思えない程の凄みがあった。
まさか……。
一粒の不安の種。
それが次に彼女が発した一言で、一気に発芽し不気味な花を咲かせる。
「なんだわからないのか? 勇者アルクよ……」
「そんなっ!?」
――決まりだ!
コイツはッ!
「まさか……お前はっ!?」
幼女は大きく口角を上げ、綺麗に生え揃った小さく可愛らしい乳歯を見せ付けながら言う。
「よくわかったな! そうだ、私こそが魔王サトゥルネスだ!」
「なんてことだ……」
――やはり、面倒なお客様じゃないか。




