美恵子の悩み
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彼女の名は田中美恵子。大阪本町の小さな商社に営業アシスタントとして勤めている。
そんな小さな商社に勤めている自分が言うのも何なのだが…と美恵子が思ってることが一つある。
それは意外にも勤め先は東証一部の上場企業である生活雑貨の大手T社に納入している商社だという事だ。
生活雑貨という業界はアパレルや家電製品と言ったある程度のロットデザイン商品を季節品として売り出し期間中にリピート納品すれば良いというものではなく、多種多品目にも渡る細かな商品を年中個別対応しなければならない。
その為、生産工場がある中国やアセアンで種々の商品の生産管理を行いサプライヤーとして信頼を得なければ貿易ビジネスの成功は無いのだが、しかしながら勤め先は納期遅れも無く、それらの種々の課題を見事にこなすフットワークの良いサプライヤー企業としてT社の信頼が非常に高く、小さい商社ではあるが、ここ数年売り上げは右肩上がりで伸び続けている。
そうした結果は営業アシスタントとして動く自分の神経の細やかさや予測を踏まえた事務処理能力が高い結果であると自負している美恵子だが、しかしそんな自負心はおくびにも出さことなく、日々黙ってパソコンの前で黙々と仕事をこなしている。
そんな美恵子の近辺で最近妙に気になることが増えてきた。
最初は気になる事ではなかったのだが、しかしその事を真面目に直面して考えると、それは非常に厄介な事だと気が付いた。
では、それが何かと言うと、自分の生活範囲に――見知らぬ隣人が出来たという事である。