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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

永遠の嫉妬

作者: 奈良ひさぎ

なぜだ?


なぜここまでして、私はお前になれない?


お前の癖は全て記憶した。口癖に食べ物の嗜好、考え方まで突き詰めに突き詰めて、お前と完全に同じ思考回路を形成した。私は間違いなく、お前そのものになったのだ。


だが、私とお前とは決定的に違う。


死を前にして、笑っていられる奴がいるというのか?実の双子の姉に殺されるというのに、恐怖を覚えるほど穏やかな笑顔を浮かべていた。「姉貴に殺されるなら、本望だ」とまで言っていた。何が、お前をそうしたのだ?


私はお前に負の感情しか抱いたことがない。いつだってお前は明るく、人に好かれ、そして聡かった。私はお前と同じ頭脳を持って生まれたはずだというのに、ことごとくお前とは真逆の道を歩んできた。否、歩まざるを得なかった。


お前はいつでも楽しそうだったし、実際にお前にはいつも幸運が自ら舞い込んできていた。どんな話であっても、それが長時間拘束されるものであっても、お前は時間と体力が許す限り臨んで巻き込まれに行っていた。それが人脈を生み、次の幸運につながっていたことは言うまでもない。しかしそこではない。そもそもお前と私は、全く同じ顔をした、生まれた時間までぴったり同じ双子なのだ。なぜ最初に差が生まれたのか?


私は血まみれの自分の手をまじまじと見つめる。私は確かに、実の妹、たった一人の肉親をこの手で殺めたのだ。何の抵抗もせず、ただ刃物を受け入れた妹を見て、私はついにやったのだとしか思えなかった。だというのに、この虚無感は何なのだろうか?いや、そもそも今感じるこの感情に似た何かは、虚無と表現すべきものなのだろうか?


そんなに豊かな感情を持ち合わせて、いったい何になるというのか。私はお前がそんな感受性を抱えて、苦労しているところしか見たことがない。お前がかかわっていたのはいつだって面倒事だった。それなのに、そんな状況でさえお前は笑顔で、何の嫌味も感じさせることなく応対してみせていた。どういう感情をもって、あんな対応ができたというのか。



結局、この手を汚しても、何も分からなかった。



その腹を貫き、何度も何度も刺した。途中からは、もう自分が何をやっているのか分からなくなってしまっていた。それでも私は何かに取り憑かれたかのように、ずっと鋭いナイフを刺しては抜き、刺しては抜きを繰り返していた。自分にはこれだけ似ている妹がいたという事実さえ消したくて、顔を殴って原形を消し去ろうともした。



できなかった。



寸前で拳が止まった。私の手はひどく震えていた。こんな簡単なこともできないのか、と自分に憤っているのだと、最初は思った。違う。怖かったのだ。



感情を学習できるという、たったそれだけの理由で、これだけ自分と乖離してしまった妹をそんな目に遭わせてもいい、と判断した自分のことが。怖かった、のだ。きっと。



私は感情らしい感情を持たない。持たされたのはただ、怒りと侮蔑のみ。そんなものだけで生きていけるはずはないのに、私たちの生みの親は、その状態で世に放った。するとどうだ。妹の方はみるみるうちに、好奇心のままに次々と感情を学習し、人間そのものになっていった。私はといえば、相も変わらず人を見下し、愚か者に憤ることしかできない、ただの怪物のままだった。



私は妹を殺して、何を得たというのか?



何も得られなかった。



そう自覚した時、私は目の前がすう、と暗くなるのを感じた。自分の手を汚してさえ、私は真っ当に生きることすら許されないのだ。私を化け物たらしめるこの鎖は、いつまでも私の全身に絡まって檻から離さない。私は、真人間には、なれない。



ならば、いっそ。



もう人間に戻れなくなってしまえばいい。もとより、人間の姿かたちをしていながら、その中身はどこからどう見ても怪物だったのだ。今さら異形となったとて、咎める者はいない。唯一憂いそうな奴は、今私がこの手で殺したのだから。



私を包む滝のような雨はいつしか、私を祝福するようになっていた。

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