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ガンブレード・ヴァルサス ~ゲームで世界一になる物語~  作者: 四ツ谷 君斗
VS 三人の悪魔<ゴリティア> A NEW WORLD
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第8話 運命に抗う【者】

 空もすっかり黒に呑まれた様子をサーバー室にある窓から覗く。

 星はまだ見えないのは、まだ闇が足りないからだろうか。

 それとも、僕の歪んだ瞳には、まだ見えていないだけなのだろうか。


「どうしてあんなことをした……山葉」


 今日の練習ノルマも終え、見えない星空を楽しむ僕に同級生の川崎 一冬が尋ねた。


「なにがだい? 一冬」

 いつものようにとぼける僕だが、事が事なだけにいつものように一冬は見逃してはくれない。


「なんであんな一年に『深度システム入り』のボード類、それに『AIDA入りのVRグラス』を渡したのかって聞いてんだ」


 それは、勝負に負け、僕らの罵声に打ちのめされ項垂れていた隙に、鈴木や一冬にさえバレないようにやったつもりだったけど、バレてたか。

 まぁ、そりゃあ一人分の備品が無くなれば、気付かない方がおかしい。


「渡したんじゃないさ。みんなに黙って、ちょっと貸しただけだよ」

 それに、これは僕らが決めたルールじゃないか。


 『見込みある者には投資は惜しまない』。一冬が使っているコントローラーは航空機のシュミュレーションにも使われるほどの特注品だ。決して安いものじゃない。

 道具で勝利が買えるなら、いくらだって払うさ。それは八百長でもズルでもないんだからね。


「めずらしいわね。私の記憶が確かなら、山葉部長が誰かを『期待する』なんて、なかったはずだけれど?」

 鈴木さんが僕を訝しむ。


「持ち逃げされたらどうするんだ。あれ一式でいくらすると――あんな奴に、『見込み』があると思ってんのか」

 一冬は最後のメンバー募集には反対していたもんね。


 だから、邪険にするのはわかるけれど、あまりあの子を見くびるものじゃないぜ?


「確かに、彼には何もなかった。技術も、センスも、覚悟も、まるで足りなかったように見えた」

 ただ、そんなものを持ち得ている僕ら三人が異常なのさ。


 そして、そんな僕らですら、敵なわない奴がこの世界にはいる。


「僕たちはそんな技術も感性も覚悟も、持っていてもなお、この世界で勝ちきることができなかった」

 出来うる限り、考え得る限り高め合った僕らですら届かないのが世界の頂点。

 何よりも、僕らが敗北したことには理由がある。


「僕らには明らかに足りないものがある。それは、きっと技術でも感性でも覚悟ではない――僕らが持っていない『何か』だ」


 その『何か』は、僕にもまだわからない。

 わからないからこそ、やるべきことは明確だ。


「ならば、僕たちが求める最後の一人は――それを持っている人物を選ぶべきだ」

 僕の答えに一冬はため息を吐いた。


 彼にはその答えが理解できていても、納得できていないようだった。

 そもそも一冬は最後の一人はAIにしようと提案しており、その完成に誰よりも注力している。


 僕も鈴木さんもそれに少なからず協力しているのだから、当然と言えば当然だ。


「……私たちに足りないものを、あの子が持っているの?」

 鈴木さんのその質問にも、僕は答えは出せない。


「だけど――彼は一冬バルバトスの居場所を狙撃されてから探り当てた。鈴木グレモリの執拗な追い詰めに、自暴自棄になる訳でも、パニックになるわけでもなく、稚拙でも最後まで生き残る方法を考え、実行した」


 狙撃されれば初心者の大抵はパニックになり敵の居場所など見つけられない。必要以上に追いかけられ続ければプレッシャーに負けて三分も立たずに無謀な攻めに転じるだろう。


 だが、彼はそれをしなかった。


「そして、彼は僕らに撃ちぬかれる最後の最後まで目を閉じなかった」

 VRゴーグルの目は、キャラクターと連動している。


 目線を動かせばキャラクターの目線が動き、人間のように『まばたき』をする。

 なのに、彼は恐怖にかられてなお、その目だけは最後まで閉じなかった。


 死を誰よりも怖れるからこそ、生を諦めない。

 あんな目をした人間を、僕は見たことがない。


「そんな人は誰もいなかった。皆、あそこまで僕たちに真剣に挑んではこなかった」


 遊び半分で挑んで、罵られたら逆上したり泣いたり、喚いたりする奴らばっかりだったのに――彼は僕達の言葉を真剣に受け止めていた。


 悔しさを拳に握りしめ、敗北を受け入れていた。


「だから、こう思ったんだ。もしかしたら、彼には僕達の必要としているものを、全部手にするのかもしれない」


 時間があれば技術は身につく。

 自分の力に気づくことができれば、それが指針となって感性は備わる。

 大切なものができれば覚悟もできる。


 ただ、彼にはそうなるための『一歩』が足りないんだ。


「必要なのは彼が変わること。でも、他人である僕らには彼を変えることなんてできない。人は結局、自分自身が変わりたいと願わなければ、変わることなんかできはしない」


 踏み出すその一歩だけは、時間では解決しない。


 それはいつだって誰かではなく、自分で踏みしめなければいけないものだから。

 その一歩がどんな道に続く一歩かわからない。だからこそ、恐怖がつきまとう。


 その新たな道は、今いる場所より悪くなるかもしれない。今までの自分を否定するものになるかもしれない。


 それでも『変わりたい』と強く、強く願うなら――


「僕は『きっかけ』くらいは与えよう。変わりたいと思うなら、今しかないと――」


 今頃、本多君は僕の贈り物を見て何を感じているだろうか。僕の密かなメッセージは届いているだろうか。


「あの子、やってくるかしら?」


 彼はきっと、悔しさを胸に、情熱を胸に、歯を食いしばって覚悟を決めて、死にものぐるいで練習を始めている頃だろう。


 それでも、僕には彼が来るかどうかはわからない。


「その答えは――彼にしかわからない」


 これは、彼の物語だ。

 自分の物語は『主人公(自分)』しか、決められない。

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