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セーラー服と帰還中  作者: 吹野 祭
1/6

序幕 1

木漏れ日の綺麗な森の中を、わたし達は全力で走っていた。

しかし風景を楽しむ余裕は無かった。


「なんですかあれは!?なんですかあれは!?」


いつも落ち着いている委員長がひどく狼狽していた。そりゃそうだ、わたし自身も、とても冷静とは言えなかった。


「野生の狼ってあのような姿でしたっけ?」


「いや、狼に角は生えてていでしょ?」


「じゃああれはいったい・・」


「そんなのは後だよ!。今は全力で足を動かすの!!」


木々の隙間を縫うように、わたしと委員長は死に物狂いで走った。上靴なので、走りにくいし足も痛いがそんなことを言っている場合ではなかった。


 今、わたし達は角の生えた一匹の狼に追われていた。なぜこんな状況になったのか、そんなことを考えている余裕は無かった。

牙をむき出しにしてよだれを垂らすアレは、明らかにわたし達をエサとして見ていた。そんな狼が目の前に現れ、わたし達は逃亡を選択することに迷いはなかった。


どれだけ走っただろうか、運動部の私と違い文系な委員長はもう限界のようで、ゼィゼィと息が切れていた。

いや、むしろここまでわたしについてこれたことをがすごいと思う。


「茜ちゃんあそこ!!」


委員長が指さす方向を見ると、根本の幹が大きな空洞になった、見事な巨木があった。

わたし達は最後の力を振り絞って、その穴に飛び込んだ。


 二人とも息を殺して身を低くしていた。今にも心臓が口から飛び出してしまいそうだ。


背中がじっとりと濡れているのは、全力で走ったからだけではないだろう。


目を閉じて、アレに見つからないことを祈るしかできなかった。


唸り声が周辺を回っているのが分かった。わたし達をさがしているのだろう。

地を這うような声が聞える間、生きた心地がしなかった。


ふと隣を見ると、わたし以上に怯えている、委員長の姿があった。

普段はクラスの委員長として、皆をまとめている彼女。最近ずいぶんと疎遠になっていたけど、そうだった。この子は本当は・・・


「大丈夫、きっと大丈夫」


委員長の震える手を取りそう呟いた。それは自分にも言い聞かせる言葉でもあった。


「大丈夫。大丈夫」


目が合った委員長は何も言わなかったけど、少しだけ落ち着いたのか、こくりと頷いた。


 どれだけの時間がたったのか分からない。気が付いたらアノ獣の声はしなくなっていた。

どうやら、遠くに行ってくれたみたいだ。ふーーっと大きな息がもれた。

駆け込んだ時には気づかなかったが腰を掛けるのにちょうどよさそうな石が2つあったので、それに腰をおろした。


少しだけ落ち着いたので、考える余裕ができてきた。


そう。なぜわたし達はここにいるのかってことだ。


「私たち、学校にいましたよね。」


委員長も同じことを考えていたようだ。


「わたしが、忘れ物を取りに教室に戻って、委員長が残ってて」


「それで、気が付いたら」


「教室がなんか光ってなかった?」


「いえ、覚えていません」


「そっか。ん、それで気が付いたらこの森にいて」


「あの狼に襲われて」


いままで起こったことが夢でないことを確かめるように。お互いに確認をとるように少しづつ整理する。

この恐怖心はまちがいなく現実のものなのだろう。


「いつまでもここにいるわけにもいきませんね」


そう言って、落ち着きを取り戻した委員長が腰を上げる。ゆっくりと空洞から這い出る委員長に続くようにわたしものそのそと外にでる。


「委員長?」


委員長が固まっていた理由はすぐに理解できた。


囲まれていた。


いままでわたし達を追いかけていた狼が、群れを率いていた。

その群れはわたし達が身を潜めていた大木を取り囲みこちらの様子を伺っていた。

あの狼は、あきらめて帰ったのではなく、仲間を呼びに行ったのだった。

これは、さすがに・・・逃げられない。


ドサッと委員長が座り込んでしまった。


委員長。京ちゃんとは小さいころよく遊んでいた幼馴染だった。小学校に入学したころから話す機会が減ってしまい、疎遠になった。中学に入った頃から、委員長としてやっている彼女とはどこか距離を感じたままだった。

そんな彼女のことを見捨てずに、ぱっと肩に手を添えることのできる自分がいた。

よかった、自分は幼馴染を見捨てた薄情な女として死ななくてすむんだ。


ギュッと京ちゃんの肩を抱く力を強める、


一匹の狼が勝ち誇ったように遠吠えを上げる。それに呼応するように周りの狼達も遠吠えをしだした。


その時だった


「※※※※※」


一瞬、ブワッと強い風が吹き抜けたと思ったら、狼たちの顔と胴が分離していた。


「「ひっ!?」」


二人そろって悲鳴を上げてしまった。なにが起こったのか理解できなかった。


呆然としているとさっきまで身を潜めていた大木の反対側から、狼の血でべっとりと濡れた刃物を持った男の人が現れた。


「※※※※※※※?」


腰を抜かしたままのわたし達の目線に合わせるように、膝を曲げて語りかけてくれてはいるが、何を言っているのか聞き取れなかった。英語・・・ではなさそうだ


「※※※※※※※?」


今度はゆっくりと、そして首をかしげるような動作で話しかけてくれたが、やっぱり言葉は分らなかった。


「はい、大丈夫です」


弱弱しく笑みを返す委員長


「委員長、言葉解分るの?」


「いえ、でもたぶん、けがはないかとか、そんなことを聞いてるのではないでしょうか」


男の人はこちらの言葉も分からないのだろう、ゆっくりと頷くとスッと立ち上がり私たちに手を差し伸べてくれたので、その手をとりゆっくりと立ち上がった。


「----」


男の人何かを伝えたいようで手をパタパタと動かしだ。


そして、わたしと委員長を順番に指さすと、顔の前でチョキを作りあたりを見回すような動作をしだした。


委員長もわたしもきょとんとしていた。この人の言いたいことがわからない。


すると今度ゆっくりと右手で委員長を指さして、右手の人差し指を立てた。


そしてわたしを指さすと中指を立てた。


「もしかして人数を確認してるのかな?」


「あーなるほど、ここにいるのは私たちだけかってことですね」


伝わったことを伝えるために、わたしも同じように委員長と自分を指さして、ピースサインをつくって何度も頷いた。


無事に伝わったようで、彼は安心したようにふーっと息を漏らした。


すると今度は、一方向を指さして一歩前に出る、ついてこいと手を招いた。


私たちは顔を見合わせて、決心をしたようにうなずいて彼のあとに続こうとしたその時だった。


彼はなにかに気づいたようで、先ほどまでわたしたちが潜んでいた木の穴に入っていった。なんだろう忘れ物はないはずだが。


ここからだと彼が何をしているのか見えなかったが、しゃがんだかとおもったらすぐに立ち上がって戻ってきた。


「※※※※」


そういうと改めて私たちの前に出て、先導するように歩き出した。


「これから私たち、どうなるんでしょうね」


「さぁ、でもここにいて狼のエサになるよりは、ましだとおもうよ。」


「そうですね。もしかしたらあの石も・・」


「?」


委員長は彼が何をしていたのか気づいたようだった。落ち着いたらきいてみようかな。とりあえず今はこの森を抜けだしたい。


 10分ほど歩いただろうか、森を抜けて開けた場所についた。一面の草原が広がっていた。街道の整備は最低限で土を固めたような道が続いていた。車一台走っておらず、日本離れした風景に心を奪われた。


遠くに壁?に囲まれた建造物が見えていた。彼はそこを指さすと


「※※※※※※※」


「あれが目的地みたいですね」


「もうひと踏ん張りだね。あーシャワーあびたい。頼んだら使わせてくれるかな?」


「日本語は通じないですし、伝えるのが大変そうですね」


「あそこに通訳が人がいればいいんだけどね」


「・・・・えぇ、そうですね」


そう頷いてはいるものの、あの角のついた恐ろしい狼が頭をよぎる。


ここが地球化ですらないことにわたしも、きっと委員長もきづいているだろう。





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