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第14話 時の運命

 目の前には黒い塊。

 部屋の3分の1を埋め尽くすその物体の表面から、ゴポゴポと何かが湧き出るのが見える。

 時折鋭い結晶が表面に浮かんだかと思うと、すぐに奥深くへと沈んでいっていた。

 四方八方に円錐状の触手を振り回し、縄張りに侵入してきた無礼者を威嚇する。


「これがオブシディアン・スライム。思っていた以上にデカいな……」

「かなり成長しているわね。1度だけ見たことはあったけど、それよりもずっと大きいわ」

「……来ます!」


 フルーの声と同時に、俺たちは一斉に後ろへ飛び込む。

 ブン、と空を切る音が聞こえたかと思うと、先ほどまで俺たちがいた場所に太い触手が叩きつけられていた。

 手ごたえから感づいたのか、他の触手を次々と振り回しつつ、体表から鋭い黒曜石を次々と飛ばしてくる。


「フルー! セーレ! 大丈夫!?」


 フランの心配そうな声が聞こえてくるが、それに応えている暇はない。

 【鑑定】をして、スライムの体内を見る。


「……! 2人とも! 防御魔法だ!」

「了解! みんな集まって! 『プロテクション』!」


 フランが魔法を唱えると同時に、スライムが大きく変形する。

 巨大な黒曜石の塊を吐き出すと、全身をバネのようにしてそれを俺たち目掛けて飛ばしてきた――!


「……ただの石じゃないみたいです。魔力を感じます……!」

「ああ……このままじゃジリ貧だ」


 黒曜石が当たった箇所だけ、結界が溶けたように崩壊している。


「『ヴェノム』の効果付きだなんて……厄介だわ」


 スライムも息切れを起こしたのか、攻撃が収まる。


「……この隙に俺があいつに魔法を打ち込む。2人は妨害されないように守ってくれ」


 スライム系はその性質上、物理攻撃に非常に強い。

 もっとも弱い、単純なスライムであれば力ずくでどうにかできるが、少しでも危険度が上がってしまうと魔法でなければ撃退できないほどだ。

 その上オブシディアン・スライムは魔力を持っていることが多いため、簡単な魔法では吸収されてしまう。

 ……そこで俺の出番だ。

 【魔力ブーストLv8】によりあふれんばかりの魔力を、【鑑定Lv100】で相手の弱点を識別する能力を持つ俺が、吸収できないほどの強い魔法で一気に叩き潰す。

 しかし、今の俺では威力は問題なくとも、精密度が不安だ。

 そこで呪文を詠唱することで、万が一にでも失敗しないように――それが今回の作戦である。

 この作戦はどうしても時間がかかるという問題点があり、相手の攻撃が激しいうちは行うことができない。

 だから俺たちは、スライムの攻撃が収まる瞬間を待っていたのだ。

 俺の言葉にうなずいた2人は、それぞれ剣と銃を構える。


「『マジック・アップ』!」

「『堅牢なる(プロテクション・)城壁(ハイ)!』」


 フルーがフランへと銃口を向け、魔力を一時的に増幅させる魔法を唱えたとほぼ同時に、フランが俺たち3人を包み込む結界を張る。

 前回までのものとは違い、魔力や毒を使った腐食や侵食にも強くなった上位版だ。

 これで準備は完了だが、万が一ということもある。

 近くに落ちていたオブシディアン・スライムの落とし物を即席の杖代わりにし、俺は呪文を唱えた。


(Em)汝に(Vest)宣言する(Cotza)


 危機を察知したのか、オブシディアン・スライムの動きが素早くなる。

 触手すべての先端に結晶を生成し、刃物を振るうように連続で叩きつけてくる。


迷える(Rrui)旅人よ(Meltik)風を(Rrui)詠む(Acta)者よ(Btao)


 しかし結界はそのすべてをはじく。

 フルーによって魔力を底上げされたフランの防衛魔法だ。腐食や毒は一切通さない。


時は(Vanitza)過ぎ行く(Haft)我、(Em)汝に(Vest)永久の(Ferlti)安寧を(Morr)与えん(Satien)――!』


 魔法の発動を防ぐのは不可能だと悟ったのか、スライムが部屋全体を覆いつくすように変形する。

 確かに有効な手だ。大規模な魔法でも致命傷を避けられるうえ、結界が消滅した瞬間を狙って天井から落ちてしまえば勝てるのだから。

 しかし、残念なことに俺が発動しようとしている魔法の前では無意味な対策だ。


『――(ドゥーム)(・オブ・)運命(デス)!』


 部屋全体に、漆黒の魔力があふれだす。

 それに触れたスライムは、さきほどまでの強大さなどなかったかのようにあっけなくボロボロと崩れ落ちていく。

 この魔法は一定の空間に強力な劣化効果を持つ魔力を生成するものだ。

 逃れたければ、術者から距離を取るしかない。


「フルー。絶対にこの結界から出るなよ、死にたくなければな」

「ええ。存じておりますとも」


 この魔法の欠点は、対象を選ばないということだ。

 何も対策を行わずに唱えると、術者もろとも心中するだけの魔法となってしまう。

 そこで2人の出番だ。

 呪文を妨害しようとするスライムから俺を守り、無差別に対象を劣化させる魔法から3人を守る。

 そして万が一間違った威力で発動してしまった場合、結界ごと劣化させてしまう危険性もあったため、呪文が必須だったのだ。


 先ほどまで部屋を覆っていたオブシディアン・スライムは完全に劣化し、大量の灰のとなって消え去っていた。


「さて、もう1つ仕事があるぞ」


 何かを察したらしいフランが、心底嫌そうに顔を歪める。


「も、もしかして……」

「ああ。戦利品探しだ!」


「イ、イヤ~~~~~~~~~~~~~~~!」


 フランの心からの絶叫が、炭鉱中に響き渡った。


                  ◇


「うぅ……わかっていたけど、わかってはいたけど!」


 ブツブツとフランが独り言をつぶやいているのを放置して、俺とフルーは戦利品を集めていた。


「……お、これは貴重そうだな。加工してもらえば良い武器になりそうだ」

「こちらも良い品物ですね。随分と古い品物のようですが……」

「ああ、長生きしたスライムから、そういったものが出ることもあるらしい。このスライムは最近生まれたはずだから、持ち込まれた粘液自体に混じっていたのかもな」

「と、なると……」

「ああ、どこか別のスライムから採取したものだろうな」


「はぅ……探さなきゃ……探さなきゃ……でも嫌ぁ……」

「フラン。早くしないといつまで経っても終わらないぞ」

「う、うるさいわね! 知ってるわよそんなことくらい! ……キャァッ!」


 フランが何かを見つけたらしく、悲鳴を上げる。

 もしかしてまだ魔物が残っていたのか? しかし強力な奴はあらかた倒したはず……。


「……魔石、でしょうか?」


 横からひょっこりと姿をあらわしたフルーが、フランの足元にあるものを見てつぶやく。

 フランが静止するのもかまわずヒョイと持ち上げると、それは手のひらほどの大きさをした、漆黒の石だった。


「……………………」

「し、仕方ないでしょ!? 急に転がってきたんだから……」

「……お手柄だぞ! フラン!」

「……え?」


                  ◇


「……つまり、これが先ほどおっしゃられていた黄金病の治療薬であると」

「ああ。何もしなければただの石でしかないが、発動させることで一定範囲の魔力を吸い取ってくれる」

「それは調節可能なのですか?」

「ああ。使用者に細かいイメージがあれば細かく範囲を指定することもできるし、魔力を吸い取る対象を具体的に指定することもできる。もちろん大ざっぱに指定することもできるから、とりあえずは一定以上の魔力の持ち主を対象にすればいい。一応限界の範囲もあるんだが、この大きさなら領内まではなんとかなるはずだ」

「なるほど……それで、手に持っている石は?」

「ああ。こっちは魔石だ。しかも天然モノのな」

「……!」

「これだけの量があれば、時間はかかるだろうが全員治療することもできるだろう。その時間はそっちの石で作ってやればいいだけだしな」


 俺の話を聞いていたフルーの目がうるむ。

 緊張から解放されて、思わず涙があふれてしまったのだろう。


「よく頑張ったな。泣いていいぞ」


 フルーの肩を抱いてそうささやくと、フルーの嗚咽(おえつ)が小さく聞こえる。

 俺たちは、それを静かに見守るのだった……。

閲覧、ブックマーク等をしていただき、誠にありがとうございます。大変励みになります。

今話でストックの方が尽きてしまったので、執筆速度の関係上、以降は平均して3日に1回ほどの更新になると思われます。申し訳ありません。

今後は今までと少し時間をずらし、18時ごろに投稿していく予定です。

改めて、閲覧やブックマーク等ありがとうございます。気に入ってくだされば、以降も見ていただけるとありがたいです。

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