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第12話 ライヒュースの宝石

 俺たちは、フルー(長いのでフランと同じく勝手に略した。フランは渋い顔をしていたがフルーは喜んでいたのでよしとする)に案内され、ライヒュース邸へと向かっていた。


「……まさか、俺たちよりも年上だったなんて」

「フフ、良く言われますわ」


 フルーは一時期、『ライヒュースの宝石』と称されたこともあるほど、社交界で有名な貴族だったらしい。

 ただパーティに参加するだけでなく、そこで得た人脈を利用して色々な事業にも手を出していたのだとか。

 外見や立ち振る舞いとは裏腹に中々やり手のようだ。


「貴方があのライヒュースの宝石だったなんて、驚いたわ」

「わたくしこそ、このような所でかの有名なフランベルク様とお会いできるとは思ってもいませんでしたわ」


 フランは顔を赤くしながらそっぽを向いている。

 フルーからの真っすぐな称賛の声が恥ずかったらしい。


「ところで、なんでフルーはあんなところにいたんだ? しかも護衛もつけずに……」


 セーレ、と俺を諫めるフランへ首を横に振る。


「良いのです。セーレ様には知る権利がございますから……。さて、まずは何から話しましょうか」


                  ◇


「はじまりは、ヴァランジェン鉱山から魔力を含んだ金属……魔石が発掘されたことでした。

 金属とは魔力との相性が悪く、本来であれば高度な加工を施してやっと作り出せるもの。

 わたくし達の目の前で、それが自然な状態で見つかったのです。

 当然わたくし達は歓喜しました。

 それをどうにかして商用に利用できないかと、わたくし達はこの鉱山について陛下に報告したのです。

 思えば、それが間違いだったのかもしれません。」


 魔石とは、魔力を金属や石に込めた類のものである。

 フルーの言う通り、自然に存在することはめったになく、基本的には人為的なものだ。


「陛下からは、奨励のお声がかけられました。

 しかし1つだけ、流通は国内に限ると制限が掛けられました。

 わたくし達は、それを疑問にも思いませんでした。

 確かにこれらを輸出して、利益を手に入れたい気持ちもございましたが、これだけの稀少な金属が争いのもとになるであろうことも、わたくし共は確かに理解していましたから。


 当初はうまく行っていたはずのものが、どこかおかしいと気付いたのはそれからしばらくしてからのことです。

 陛下から、流通を王室に一任せよというお触れが届きました。

 利益の8割を王室に寄付せよとも。

 当然、わたくし達は反発いたしました。

 しかし時を同じくして、奇妙なことが起きたのです」


「奇妙なこと……?」

「ええ。皆さまはすでにご存じでしょうが、我がライヒュース領では黄金病の患者が急増しています。ちょうどそのお触れが出た時期に、このおそろしい現象が起きはじめたのです。

 それによりわたくし達は事態を治めるために奔走せざるをえなくなり、労働者の減少によって利益も減って行きました。

 やがて王室から、わたくし達のものと同じ値段で魔石が売り出されるようになり、我々は彼らの力に屈さざるを得なくなったのです。

 しかし王室は助けてくれませんでした。

 さらに追い打ちを掛けるように、鉱山内に魔物が出るようになったのです。

 農業もままならない状況で領を管轄するには、利率の高い鉱山の金属を売るほかなく……しかし、その時には王室以外に頼ることができなくなっていました。

 利益は次々と絞りとられ、死者も次々と増え続け……あとはもう、皆さまもご覧になった通りです」


 フルーの告白に、フランは顔を蒼くした。

 こぶしは強く握りしめられ、今にも皮膚を破りそうだ。

 彼女は正義感の強い人間だ。このような不道徳を王室が行ったという事実が許せないのだろう。


「……貴方の事情は良くわかったわ。アタシが陛下に……」

「フラン、頭に血が昇っているぞ」


 フランはその言葉にハッとしたのか、罰が悪そうに顔をゆがめる。

 この王国内において王室の力は絶大だ。

 基本的には、それぞれの領を治める領主や、王室に仕える官僚たちが政治を行っているが、最終的な判断は国王にある。

 王室の意向に背くことは、それがどれだけ妥当なものだったとしても許されない。

 それがこの国の常識だった。

 そのようなことは、当然彼女だって知っている。

 しかし、それでも許せないという気持ちが抑えきれなかったのだろう。

 俺としても、ライヒュース領内で王室が何かしらの悪だくみをしているのは掴んでいたが、ここまでのものだとは思ってもいなかった。

 どうやら当初想定していた以上に王室は腐敗しているらしい。


(……できるだけ早くあの王を降ろさなければ。いや、それだけじゃなく王室から腐った連中をあぶりだす必要もあるのか……)


 元々はただぼんやりと、俺のために考えていた計画だった。

 しかし、これほどに腐ったことをしているとなると、思っていた以上の大事になりそうだ。

 そして、それ以外にも聞きたいことがある。


「経緯はわかった。しかしなぜ鉱山に向かう必要があるんだ?」


 今の話を聞いた限りでは、原因は鉱山ではあれど、それをひっくり返せるだけの力があるとは思えない。

 それならば、先に領主のもとに案内したほうが妥当ではないだろうか。


「……この件については、まだお父様には話していません。すべてわたくしの独断です」

「そうなのか?」

「ええ。先ほど申しましたように、ヴァランジェン鉱山からは魔力を含んだ金属が採れます。そして含まれる魔力量は非常に多い」

「それだけじゃなさそうだが」

「はい。わたくしは【医神の加護】のスキルを持っていますので、黄金病の治療も行えるのです。しかし、今までは魔力の関係上、領内に蔓延する患者すべてを治療することはできませんでした。残念ながら、【医神の加護】の持ち主も」

「なるほど、そこで鉱山の金属を使って、より治療できる数を増やすのか」

「それだけではなく、余った分で土壌の改良を行うことで農業もしやすくするつもりです。わたくしは【収穫神の加護】も持っていますから」


 【収穫神の加護】は、土地の改良や植物の改良など、主に土地の管理に長ける力を持つ、非常に強力なスキルだ。

 なるほど、どうやら彼女はそうとう優秀なようである。

 【医神の加護】と【収穫神の加護】のように【〇〇神の加護】と名付けられたスキルは、その持ち主に非常に強力な力を与える。

 おおざっぱに言えば、通常のスキルの上位互換といったところだ。

 他に例をあげると、俺の持つ【風の神の加護】や、フランが持つ【女神の加護】、【軍神の加護】があげられるだろうか。

 しかし珍しいスキルのため、スキルを持った人間の中からさらに一握りの者しか持ち主はいない。

 このように3人が加護のスキルを持つこと自体かなり珍しい事態であり、さらに2つも持つ者が、それも2人もいる可能性ともなれば、その確率は天文学的な数字に至る。


(……俺、明日無事か?)


 珍しいスキルとはいえ、ただの【幸運】しか持たない俺は、あまりの巡り合わせの良さに末恐ろしさを感じるのだった……。


                  ◇


「お待たせいたしました。こちらがヴァランジェン鉱山です」


 一見したところ、そこはなんの変哲もない鉱山にすぎなかった。

 しかし、その入り口がら湧き出るひり付いた空気が、ただの鉱山ではないという事実を伝えてくる。


「……どうやらかなり強い魔物が巣食っているようだ。セーレ、【鑑定】で内部を確認してくれないか」

「了解した。――【鑑定】」


 鉱山の入り口を視認し、俺は【鑑定】を発動する。


 ・対象:ヴァランジェン鉱山

 ・モンスター:ゴブリン、オーク、トロール、ネペンテス、オブシディアン・スライム


黒曜石(オブシディアン)()粘体(スライム)!?」

「な……!」

「え……そんな……!」


 みんなが驚くのもムリはない。

 黒曜石(オブシディアン)()粘体(スライム)。本来、火山の奥深くに生息するスライムだ。

 基本、人間と出会うこと自体が珍しいので一般人には知られていないが、その危険度はSクラス。単体だけで領1つを破壊でき、群れになれば国でさえ無事ではすまないというレベルだ。

 そこまでの危険生物が、人の入り浸る鉱山に潜んでいるとは。


「……この前のオークと言い、貴方、呪いのアイテムでも持っているの?」


 フランが頬を引きつらせる。

 普段であればそんなこと……と言いたいところだが、今回ばかりは俺も同感だ。


「残念だが、そんな物は持ってないんだ……さて、困ったな……」

「……セーレ様! フラン様! わたくしも同行いたします!」

「……え?」

「わたくしも多少なりとも戦いについては学んでおります。お2人には遠く及ばないとは理解していますが、どうか!」


 フルーが必死に懇願する様を見て、フランは心を動かされたようだ。

 口には出さないが、「同行させてはどうか」と全身で物語っている。

 信じられなかったので思わず【鑑定】を使ってしまったが、実際に戦闘向けのスキルも持っていたので反対も難しい。


「……ハァ、責任は取らないぞ」

「……! あ、ありがとうございます!」


 喜びのあまり、フルーは身体を跳ねさせた。

 元々幼げに見える容姿も相まって、まるで幼女のように見える。


「さて、予想以上の大仕事になりそうだ。2人とも、気を引き締めていくぞ」

「ええ」「はい!」


 俺も気を引き締めなければ。彼らの足手まといになっては面倒だ。

 そう思いながら、意を決して鉱山の中へと進んでいった……。

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