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第10話 忠義の理由

 魔物の巣での激闘からしばらくして、俺とフランはすっかり打ち解けていた。

 まだまだ警戒されていない訳ではないそうだが、出会ったころと比べると大違いだ。

 監視の任をはずれたわけではないため、基本的には2人で行動するのだが、任務の傍ら雑談をしたり、俺の食い物も含めて一緒に買い物へ向かうこともよくある。

 エリザベスもふらりと来ては余ったらしい物資をいくつか持ってきてくれたり、【鑑定】を使いこなすための修行に付き合ってくれる。

 街の住民たちも、最初は俺のことを見て警戒心を強めていたが、フランの件についていつのまにか噂が広まっていたらしく、段々と俺と接触を測ろうとするようになっていった。

 俺も少し人さみしくなっていたため快く付き合っていたら、すっかり馴染んでしまったようだ。

 やはりギルドは使えないものの、街の中でもとりわけ人の良い一部はなんとか抜け道を探そうとしてくれているようで、俺に欲しいものを聞いてくることがある。

 まだまだ目標には遠いが、街で暮らす分には問題ないといっても良いほど、今の俺は恵まれていた。


「フランって勇者なんだよな。勇者ってどういう仕事をするんだ?」

「アタシはまだなりたてだから、そんなに大きな仕事を任されることはないわ。魔物の巣の討伐とかそれくらい」

「そうなのか。身のこなしが慣れた様子だったからもっと場数を踏んでいるのかと」

「ほ、褒めてもムダよ。それより、貴方のその【鑑定】ってどういうものなの?」

「ああ、それはだな……」


 いつものようにフランの任務に付き合った帰り道、俺はいままで気になっていたことについて質問していた。

 フランもまた、ちょっとした疑問を俺に対してぶつけてくる。

 ここ数日のいつもの光景だ。


「……それにしても、こんな近隣にオークが出没するだなんて……もっと気を引き締めていかないとダメね」


 口をキュッと引き締めたフランが、何かを決意するようにつぶやく。

 今回のことについてではなく、あの時についてであることはすぐわかった。

 自分に言い聞かせるようなその言葉が、俺の心をざわめかせる。


「なあ、言いづらかったら聞かなかったことにしてほしいんだが……なんでそんなに一生懸命なんだ?」

「なんでって、勇者に任命されるだなんて名誉なことだし……」

「俺の眼にはそれだけじゃないように映るけどな」


 余計なことを言ってしまっただろうか。

 内心の恐れを悟られないように、さも自信満々といった様子でフランの目を見る。

 しばらく視線を泳がせていた彼女だが、しばらくすると、堪忍したといった様子で口を開いた。


「……アタシの家は貴族なの。だけど……」


 彼女の話はこうだった。

 フランの実家、フラゲデスシーゲル家は長い間王国の騎士を勤める男爵家だったが、彼女の父にあたる現当主が、当時王子だったアウグスト国王の不興を買ったことにより没落したこと。

 今までとは違う極貧生活の中で喘いでいたが、その折に彼女の優れた才能が認められ、勇者として任命されたこと。


「……けど、それは表向きの理由。本当は、国王陛下がアタシを愛人にしたいからだと思う」

「愛人!?」


 この国では一夫多妻制を採用している。

 一般人の範疇では複数の女性と結婚することはほぼなく、事実上一夫一妻といった状況なのだが、子孫を多く残したい貴族層などは多くの妻を娶ってより子を残そうと試みる傾向にあるのだ。

 それは当然国王にも適用されるため、本来であれば側室が妥当なはずだが……。


「きっと、国王陛下はアタシの身体が目当てなのよ。でも政治的には重要な存在じゃないし、すぐに切り捨てるために」


 そう答える彼女の声色は暗い。

 当然だろう、好きでもない、しかも捨てられるのがわかっている相手に求められるだなんて、もし俺がその立場だったとしたらお断りだ。


「……フランは、それでいいのか?」

「いいわけないじゃない。だから勇者として頑張るのよ」

「どうして?」

「……もしかしたら、自由にさせてもらえるかもしれないから」


 嘘だ、と思った。

 いや、本当にそういった気持ちもあるのだろう。

 しかし、その裏には、実績を積むことでより長く愛玩されるため、そして家が少しでも復興できるようにしたい、と、そんな悲痛な覚悟が隠されていることは明らかだった。


(……もしかしたら、彼女になら話せるかもしれない)

「……なあ、1つ提案があるんだが……」


                  ◇


「はあ!? 陛下に対する反乱ですって!?」

「お、落ち着け……」

「これが落ち着いていられるものですか!」


 俺の提案を聞いたフランは怒り心頭といった様子だ。

 家のため、勇者になったような人間である、たとえ問題があっても国王を引きずり下ろすなどと、そのようなことは立場の上でも、心情的にも許せないのだろう。


「……とりあえず、俺の話だけでも聞いてくれないか。それでも気に入らないなら憲兵なりなんなりに突き出してくれてかまわない」


 そううそぶくと彼女は目に見えてたじろく。

 ……思っていた以上の怒りに失敗したかと冷や汗をかいたが、これならなんとかなりそうだ。


「まず、今の国王は異様に高い税を敷いていて民衆からの支持が低い。それは確かだな?」

「……ええ」

「そしてギルドなどに干渉したがるため、そういった団体からも警戒されている。富裕層からの支持はさすがにわからないが、あまり高いとはいえなさそうだ」


 そう、俺は街の人間とただ交流を広げていただけではない。

 彼らの不満などを拾い上げ、情報源とする。それも話に応じた理由の1つだった。

 結果判明したのは、現国王の評判の悪さだ。

 彼が冠を頂いてから目に見えて税収があがった、王宮では異常なほどの散財が行われているらしい、世界の美女や宝石を集めては自分のものとしたがる等々。

 真偽が不明なものもままあるが、そのほとんどがしっかりとした情報源のあるものだった。彼が信用されていないという証だ。

 それはフランも例外ではないようで、いつもと比べて言葉の歯切れが悪い。

 彼女自身、家のためでなければ関わりたくなさそうだったので無理もないだろう。


「し、しかし、それだけで陛下に剣を突き付けるわけには……」


 やはりか。俺はフランの悩まし気な姿を見て、内心で口角を吊り上げる。

 彼女がここまで反対するのは、あくまで家のためだろう。もしかしたら、俺を心配する気持ちも多少はあるかもしれないが。

 少なくとも、現国王に対する忠誠心のためではない。

 それが突破口だ。

 なにせ「それだけ」では反乱に参加できないと、彼女は語っているのだ。

 逆に言ってしまえば、彼女に「それだけ」ではない大きな不祥事だとみなされるような出来事があれば、きっと彼女はこの反乱に参加する。

 そして、俺が街で手に入れていた情報の中に、1つ大きなものがある。

 しかし、ほぼ確実なものであるとはいえ、断言しきれるようなものではない。ほとんどの人間からすれば嘘だとしか思えないだろう。

 だが俺はその情報が真実であると確信している。

 そしてこれを手元に握ってしまえば、いくら国王といっても余裕を保ってはいられないであろうことも。


「フラン、一緒について来てほしい所がある」


 俺はフランの目の前で、手に入れた情報について話し始める。

 彼女はその目を大きく見開き、信じられないといった顔をしていた。

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