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それは、ある日のこと

 現在の数ある投稿サイトの中でも、日本一の投稿数と利用者数を誇る小説投稿サイト——『作家になろう』。

 今、高校二年生である俺は、そこに、中学校三年生の頃から簡単な短編作品を書いては、投稿するのを繰り返していた。


 処女作品である、『水面に写る』は、現代の中学生の恋愛模様を描いた、2000文字程度の作品であった。しかし、最初に投稿した作品だ。当然、文章を書くに当たっての基本的な事も知らないまま——文章のどこに読点、句点をつけるのかさえも分からないままに書いたしまったため、構成も、展開も、ましてや文章もひどいものだった。

 勿論、感想欄には心の無い批評が——いや、批評さえも送られて来なかった。一週間。一か月経っても閲覧さえしてもらえなかった。当然かというと当然だろう。なにせ、日本一の投稿数を誇るサイトだ。目まぐるしく、どんどんと毎分更新されていく、激戦区ともいえる新着小説の欄。そこに、当時のまだ文章的にも、小説だと呼べない俺の駄作が誰かの目に止まるはずがなかった。


 しかし、俺はそれでも根気強く書き続けた。先ずは文章の流れから、ひたすら学ぶ。それから、同サイトの『作家になろう』や、他の数々の投稿サイトを渡り歩き、多くのジャンルに触れ、今後の自分の作品の糧とした。

 あの時は他の作品を見るたびに、つくづく自分の文章力や語彙力などこ未熟さを実感させられたものだ。自分の作品ではなく、自分と同じアマチュアレベルの他人が執筆した作品を、面白くて続きが気になり、どんどんと読み進めてしまう自分自身に、心の奥底で情けない。悔しいと思いながらも、それでも己が成長の為、当時は読み漁った。


 ——それから、今日までの二年間。コツコツと短編作品を執筆して、月に二作品投稿し続けていると、次第に自分の作品を「面白い」と、感想で送ってくれる人が出始めた。ブックマーク機能という、名の通りに栞のようで、且つ付けた作品の評価ポイントにも繋がる機能があるのだが、初めて自分の作品のブックマークが100件突破したときは、それはもうパソコンの目の前で、手放しに喜んだ。





 ——やっと、自分の書いた文章が評価された!





 と、それまでの労力が、一時で報われた快感は、今でも忘れていない。


 そんな風に、俺こと坂崎(さかざき)(おさむ)は、細々とネットに作品を投稿しては、一喜一憂するアマチュア作家ライフを、時には学業、はたまた友人たちと遊びながらも、並行して満喫していた。


 しかし、そんな時であった。


 それはある日の学校から下校し、帰宅した時に起こった。

 突然だが、自分両親は共働きで、殆ど夜の7時か8時の時間帯に帰ってくることが多いので、基本的に日中の間家に居るのは、俺と妹くらいだ。なので、俺が帰ってくるときは大体が妹が居て鍵が開いているか、居なくて鍵が掛かっているかに分けられる。しかし、妹は部活があるため、大体の日が後者になるのだ。


 しかし、その日は珍しく家の鍵が開いていたため、内心では「一々鍵取り出さなくてラッキー」と思いながら家に入ったのだ。すると、なんと玄関に、本当に珍しく両親の靴が揃えてあるではないか。何事かと思い、不穏な空気を悟ると、案の定リビングに入れば、ソファーに二人して真剣な表情で座って待っていた。


 ふと。脳裏に過ぎる——離婚するのか、と。


「……え? ど、どしたの二人とも。おかえり」


 そんな自分の困惑と一縷の不安が織り混ざった反応に、母は「ええ、ただいま。にしても平日のこの時間帯に、こうして三人で居るのは珍しいわね」と、微笑んでくる。


「……ただいま治。確かにな。しかし最近、仕事のせいなのか、あまり治と(れん)と絡めてない気がする。それに、家事、洗濯まで色々と助けてもらって。本当に感謝してるよ。治」


 そこで、母に続いて父がそう言って穏やかな表情を向けてきた。


「あ、ああ。いや、良いって。親父と母ちゃんには、色々と助けてもらってるし。それにほら、今の内に一人暮らしする時の為の、一種の訓練だと思ってやってるし。まあ……その、お互い様だと思うけど」

「……」

「……」


 普段から両親とは、あまりこういうことを話さないので、色々と照れが勝ってしまう。そんな俺を見透してか、目の前の両親は二人して生温かい目でこちらを見てくる。やめてくれ。むず痒い。


 俺の気を知ってか知らずか、母が口火を切った。


「さて、治。気になってるでしょ? 私とお父さんがこうして早く家に帰ってきてること」

「う、うん」


 母がいつになく真剣だ。もしかして、本当に離婚なのだろうか。不安と疑念が倍増する。


「実はね」

「……うん」

「私たちね?」

「……」

「二年くらい、イギリスの方に転勤。要は住むことになったから暫く日本に居ないわけなの」

「あ、そう」


 取り敢えず、離婚の話じゃなくて良かったと安堵する。


「それで、治。二人暮らしは何かと危なそうだから、あなたと蓮は、一週間後に私の親戚の家に預かってもらうことにしておいたから、後は頼むわね」

「オッケー」

「……」

「……」





 ——いや。











「——おいちょっと待て!?」


 実はその日から、運命は始まっていたかもしれない。



 ——俺と蓮の兄妹が、あの『坂木荘』に移り住み、住人たちとドタバタな日常を繰り広げる運命が。

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