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タメ口先輩とへりくつ野郎の青春記録  作者: 遥風 かずら
第一章:先輩?との出会い
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5.へりくつ野郎は拝みたい


「何やってんだお前?」

「いえいえ、お気になさらず」


 校舎の渡り廊下からすぐの所にちょっとした川があり、そこにタメ口先輩の姿があった。それはいいが、まともに話が成立しそうにないので、一か八かで水をかけてみようと思う。

 

 俺自身も水を求めに来ただけに、どうせなら先輩にも水しぶきを浴びて頂くことにした。これは俺自身のほんのちょっとしたお茶目な想いによる行為であって、その後にどうなるかなんて全く考えていない。


「おい、何であたしに近づいてやがんだ? タラシ野郎に近づかれる理由なんて無いはずだ!」

「ありますよ? アラサー先生の指示の下でここに来ているわけですから、先輩に近づかないことには連れ戻せないわけです。お分かりいただけました?」

「アラサー先生? 誰のことを言ってんだ?」

「もちろん担任の……」


 びゅんと風を切る音をさせて、タメ口先輩は神々しいおみ足を真上に上げたかと思えば、ハイキックを繰り出してきた。もちろん距離があるので当たりはしなかった。


 スカートから垣間見えたおパンツよりも、整ったおみ足はとても美しい。これは是非とも拝みたい。


「さくらのことを悪く言ってんじゃねえぞ、このガキ野郎!」

「それはどなた?」

西森田にしもりたに決まってるだろうが! 先生は可愛い年齢だぞ、バカにするのはあたしが許さないからな!」


 ダブり先輩はダブってはいるようだが、先生をリスペクトしている優等生だったりするのだろうか。もしくは、先輩を可愛がっている先生だからか? どっちにしても、口を災いの元にしてはならないようだ。


「いえ、先生は可愛いですよ。僕のお茶目なジョークによるものでして、決して本音などではございません」


 可愛いとか、そんな言葉は嘘である。先生を悪く言うのは自分の為にはならないことが分かった以上は、先生のことで先輩の気を引くのはやめておこう。

 しかし俺の言葉を聞いた先輩は、予想外の表情を見せて来た。実のところ、先輩の全身をまともに拝んだのは今回が初めてだったりする。


「ふふっ、そうだろ? さくらは可愛いんだ。二度と失礼なことを口にするんじゃねえぞ? 言ったらマジで許さねえ!」

「もしかして蹴るおつもりが?」

「二度と言うなっつってんだろ! マジで蹴るぞこの野郎」


 何とも意外な反応を見せてくれた先輩は、普段のキレっぷりとはまるで違う笑顔を出した。茶色に染めまくりの長い髪を小刻みに揺らして笑う姿は、一歩間違えば惚れてしまうかもしれない。


 しかしそんなレアな先輩の笑顔よりも、もう一度ハイキックを拝みたい。そうなると先生のことでいじるよりも、最初の目的である川の水をかけて、キャッキャウフフな水しぶきを浴びせる方がチャンスを得られそうだ。


「――い、言いません。お詫びと言ってはなんですが、先輩のお近くで土下座を致しますので、近づいてもよろしいでしょうか?」 

「だったら堂々と近づいて来いよ? 何なんだよその抜き足差し足歩行は! あたしから何か盗むつもりじゃねえだろうな? それとも何か企んでやがんのか?」


 すでに姿を見られている状態でこの歩行は、リスクがありまくりだ。単に頭を下げたままで距離を縮めているに過ぎないのだが、先輩からはそういう歩行として認識されているらしい。


「いいでしょう! 背筋を伸ばして、正々堂々と先輩の真正面まで進み、起立の姿勢から一気に土下座に移行しますが、よろしいですね?」

「……勝手にしろ。やるなら早く来やがれ! あたしは静かに川面を見ていたいだけだったのに、邪魔しに来やがって、早くしやがれ!」


 確約を得られたので、まずは先輩の真正面に近づくことにする。そこで土下座に移行すると見せかけて、先輩の後ろを流れている川の水を浴びせれば、きっとハイキックを繰り出すくらいキレること間違いなしだ。


「何ボサっと突っ立ってニヤニヤしていやがる? 早くしろよエロ野郎!」


 おぉ、想像しただけで笑いが止まらなくなっていたようだ。腕組みをしながら睨みを利かせている先輩は、中々の迫力だ。運動が得意な妹が良く見せる自慢げな腕組みとは、まるでモノが違いすぎる。


「い、いやぁ、先輩って可愛い顔をしてらっしゃるんですね。足に負けず劣らずですよ?」

「――あ? なめてんじゃねーぞこら?」


 西森田先生はともかくとしても、女子の顔を真正面から眺めるのは、妹と天然菩薩さま以外では初めてになる。ずっと睨まれているが、何とも愛らしいお顔をされておいでだ。

 しかし俺が見たいのは顔ではない。タメ口先輩のチャーミングなポイントはおみ足だと断言できる!


「おい! 土下座はどうした? 何で立ったまま動こうとしねえんだよ?」

「今すぐやりましょう!」


 これこそが千載一遇のチャンス。この時を待っていた。自分から言っておいてやらずにぼけっと立っていれば、必ず指摘をして来ると思っていた。そういう時の人は、僅かだが隙が生まれる。

 今がその時だ――


「先輩、すみませんで――おっとぉ! ついつい足が滑って転びそうです!」

「あ?」


 狙い通りにタメ口先輩の隙を突き、体を捻って後ろに回り込もうとした……はずだった。


「こ、この変態野郎が! これか? これを狙っていやがったのか?」

「い、いえいえいえいえ! おパンツが見たかったわけではなく、おみ足が……がががが――ぐがっ!?」

「そのまま土に還してやろうか? あ?」


 土下座するはずの態勢崩しが勢いあり余って、バランスを崩した俺は地面に転がってしまった。頭上を見上げると、そこにあったのは可愛らしいおパンツだった。そんなモノを見るつもりは全然無かった。

 見たかったのはハイキックであって、真上から俺を見下ろして顔を踏みまくる足などではない。

 

「人間は土に触れても肥料にもならないんですよ?」

「へりくつばっかり言いやがって、へりくつ野郎が!」

「出来ればその足を顔から離して頂きまして、真上からの足をお上げ頂けると喜びます!」

「くそが! タラシ野郎かと思えば、とんだ変態野郎じゃねえかよ。何でこんな野郎を寄こすんだよ」


 誤解すぎる。変態行為を求めていたわけでもなく、足で顔を踏まれて快楽を得ようとしたわけでは無かったのに、どうしてこうなった? 川の水をかけまくって、キャッキャウフフな光景を作り出そうとしただけなのに。


「あれー? 椿くんだ! どうして地面で寝ているの?」


 げげっ? 何故に天然菩薩さまがここを通るのか? 西森田先生が言っていたのは授業放棄だったが、もしや今は自由時間だったりするのか。だとすれば、この光景は誰でも見る事が出来るということに!?


「せ、先輩、あの、今度こそ真面目に土下座をするので、そのお足を顔からどけて頂けると……」

「足をどけたらてめえは覗くだろうが!」

「み、見ないと誓いましょう! 何でも言うことを聞かせていただきますから、どうかお許しを」

「変態野郎に言うことを聞かせる意味なんかねえんだよ! いい気になってんじゃねえぞ」


 おぅ……駄目か。この場合の危機から脱する時に「何でも言うことを聞く」の部分に、大抵は気を引くものなのに、タメ口先輩はすでにこの手の言葉は経験済みとみた。どうする、どうしよう。


「すごーい! 椿くんが土と触れ合っているよ? わたしも嵐花ちゃんと遊びたいです!」

「うぜえ……」


 これは救世主か? それとも……破滅へのカウントダウンか? 天然菩薩さまに任せてみよう。

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