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タメ口先輩とへりくつ野郎の青春記録  作者: 遥風 かずら
第一章:先輩?との出会い
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4.水と川とタメ口先輩 


 学年が変わりたてな教室は、まだまだ浮かれモードな春の始まり。

 担任が女教師ということもあり、俺以外の野郎どもは群がるように、お可愛い先生の下へ席替えの直談判をしているようだ。


 タメ口先輩を知る先生すなわち、先生に相談すればタメ口先輩の近くには、野郎を置くべきではないと判断してくれると思ったのだろう。

 しかし――


「先生」

「どうした? 君も質問か?」

「時間ある?」

「君も先生にタメ口か? まぁいい。何だ、先生に求婚でもするのか?」

「お断りします!」

「じゃあナンパか? このクラスの野郎どもは飢えすぎているんじゃないのか」

「いえいえ、いくらなんでもあり得ませんね。見た目がアラサ……」

「――名前と顔を確実に覚えてやるぞ。椿秋晴……と」


 見た目がアラサー先生は俺を見ながら、何かのメモを取っている。婿候補にでもされたのか?


 それにしても妹もこの先生も、甘えたい年頃か? 何故にそういう所に行きつくのか。会話するだけで恋に進むなら苦労はしない。


「何だよ?」などと、妹が睨んできているが気にしないでおこう。タメ口先輩のことを先生に聞くのは利口ではないと学んだ。


 一番お利口なのは本人に問い詰めることなのだが、常に蹴られる危険性があるのは厳しい。


「ねえ、しゅう」

「どうするべきか……」

「椿、返事をしろ!」

「は、はいっ、ごめんなさい。何だ、緑木じゃないか。何か用か?」

「他人行儀とシカトは夕飯ポイントマイナスだからね?」

「卑怯な奴め。で、何だ?」

「西森田先生が手招きしてるけど先生のこともシカトしてるの?」

「誰だそれは」

「担任に決まってるだろ。早く行けば?」


 なるほど、西森田というのか。本人に聞かなくても聞けて良かった。タメ口先輩のことでも教えてくれる気になったのか?


「椿、栢森を探して来てくれ」

「はい? 何で俺ですか? 友達でもなければ彼氏……はあり得ないとして、喧嘩仲間でもないですよ?」

「栢森がどこに行ったかは見当もつかないが、恐らくサボったわけじゃない。この教室に帰って来られないだけだと先生は思っている。椿は心当たりがあるんじゃないのか?」

「無いです。それが真実であります」

「虚偽は認めないぞ。悪いが今朝の時点で、椿が栢森と接触している所をすでに目撃している。お前なら彼女がどこへ行ってしまったのか見当がつくはずだ。違うか?」

「何故今朝の出来事を……いつどこで?」

「もちろんバスの中だ。湖沿いを歩いていただろ? あの通りを歩く人間はほとんどいないからすぐに分かったぞ」


 何たる油断。先生もバスに乗って楽をするタイプということか。通り過ぎてのことだから蹴られたところまではさすがに見られていないだろう。


「行くのは行きますが、授業は出なくてもいいと?」

「初日に授業をやる気は無い。安心しろ! そして栢森を捕まえて来てくれ」

「無理です」

「とにかく行って来い!」


 何故俺がタメ口先輩の面倒を見なければならないのか。責任を感じる要素は一ミリも……あったかもしれない。行くのはいいとして、問題は女子トイレだ。入ることは不可能だし、トイレの前で張り込むわけにもいかない。そうなると協力者が必要となる。


「緑木、女子トイレに行って来てくれ!」

「用も無いのに行くわけないじゃん。しゅうは何かのマニアなの?」

「言っとくがトイレなんぞに興奮はしないぞ。そうじゃなくて、タメ口先輩を探しに行くんだよ」

「ボクは嫌だね。しゅうと話をしていただけで倒されたもん。近づきたくないよ」

「俺を助けてくれ!」

「だったら楓子さんとか、麻野さんに頼めば?」

「楓子はすでに断っているし、麻野さまに汚れ仕事は無理だ」

「じゃあ知らない。とっとと蹴られて来ればいいだろ! ……年上に興味があるならボクにも興味を持てよ。何だよバカ」


 ぶつくさと何かを言っていた妹の相手をしていても解決しない。考えてみれば、女子トイレに住んでいるわけではないのだから、学校中を捜し歩けばいいだけのことだった。


 俺としたことが恐怖に駆られて冷静さを欠いてしまったようだ。ここは落ち着いて水でも飲むか。


 湖と川の街。水は豊富なことの意味でもあり、この高校も廊下の窓から清流を眺めることが出来る。そうは言っても、春はまだ冷えていて、好き好んで川に近付く挑戦者はいない。


「ん? あれはタメ口先輩か?」


 サボりの容疑者は見事にサボっていた。川面の光が反射して、そこに立っているだけの先輩に見惚れそうになったのは墓場まで持っていくことにする。


「そこで泳ぐつもりですか? ちなみにここは女子トイレじゃないですよ?」

「――見りゃ分かるだろうが! 今頃のこのこ現れやがって、あたしを川にでも突き落としに来たのか?」

「なるほど! それは思い付きませんでした……いや、そんなひどいことしませんよ? 俺は」

「タラシ野郎がよく言いやがる。自分の席の周りに女を集めやがって、一体どれだけの女を泣かせる予定を立てていやがんだ」


 なんという観察眼。一番前の席に座ったのに、周りのことは全てお見通しか? 俺の席は真ん中とはいえ、一番前からは見にくいはずなのに。


「何の用で来やがった?」

「先輩を探しにですよ。あ、もちろん俺の意思とは無関係です」

「……この野郎」


 さて、これからどうするべきか。川の水でも浴びせて「きゃっ」なんて女子っぽさを引き出してみるか。

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