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タメ口先輩とへりくつ野郎の青春記録  作者: 遥風 かずら
第一章:先輩?との出会い
10/22

10.タメ口先輩は何故かこっちをジッと睨んでいる。


 ようやく放課後になったので、初日の部活をさぼってまで一緒に帰ろうとする優雨に、帰りのルートを伝えることにする。


「優雨、帰り道に文句は言うなよ?」

「どうせ湖沿いオンリーで、文句の言いようがないし」

「何を言うか! 朝はともかく、帰りはいつも同じとは限らないぞ。たまには刺激を求めて、わざわざ迷路な住宅街を通ることもある。バス通学してる優雨には難易度が高すぎるけどな!」

「何だと~!」


 正直言って妹があのルートを選べば、間違いなく帰って来られないと、自信を持って言える。だが今日は湖沿いの魅力を優雨に伝える為に、そこには行かない。


「あっ、ダブり先輩が教室から出ていく」

「そりゃそうだろ」

「素直に帰るのかな?」

「あん?」

「どこかの誰かに喧嘩を売って、シメたりするのかなって」

「お前、相当嫌いなんだな。いくらなんでも教室から出てって、帰ろうとする先輩のことをそこまで思わないぞ」


 少なくとも授業を真面目に受けていたのを見る限りでは、先生から注意も文句も言われてはいなかった。単にタメ口なだけで、実はとてもイイコちゃんだったりするのかも知らない。


「ボクは二回も床に倒されたんだぞ! それも何もしてないのに、ひどすぎるよ!」

「それはアレだ。優雨が視界に入らなかったか、歩くのに邪魔すぎたかのどっちかだな」

「どっちもムカつくってば!」

「落ち着け」

「何さ、しゅうだって顔を踏まれたり蹴られたりされてんじゃん! それなのにムカつかないとか、おかしいんじゃないの?」


 そういえばそうだった。しかし、顔をあれだけ拭かれてキレイサッパリとされたら、怒りはどこかに消えていた。踏まれたのも、おみ足を見たいがためのことだったし、自分の目測ミスによるものだったわけで。


「もしかしてタメ口先輩のことが気になってるんじゃないよね?」

「そりゃあ、気になるだろ」

「ええっ!? だ、駄目だよ! へりくつだけじゃなくて、タメ口が追加されるじゃんか」

「いや、すでにタメ口だろ……何言ってんだ優雨……」

「そうじゃなくて、何だっけ?」

「知らん」


 いつもは一人で帰る湖沿いの道を、今日に限っては優雨と二人並んで帰っている。しかしコイツはどうしてこんなにも、会話が途切れないくらい喋る奴なのか。


「ねえ、しゅう」

「何だよ? 少しは優雅に歩いたらどうだ?」

「あそこ、アレって……」


 何かに怯えているかのように、優雨はこっそり指差しで向こう側の歩道を気にしている。


「ん? あ……」

「いつから睨まれていたんだろ……もしかしてつけられていたとか?」

「何で俺らより先に出た先輩が後をつけて来るんだ? 単に同じ帰り道なだけだろ。今朝もいたし」

「今朝って、しゅうがスカートめくりをしたんだっけ?」

「してない。するわけないだろう。おみ足を拝んだだけだ!」

「似たようなものじゃんか! だからじゃない?」

「だから何だ?」

「しゅうを警戒しないといけないから前に進めないし、帰れないんだよ」


 何で俺が悪い感じになっているのか。あの視線の先は明らかに優雨にだと思われるが、それにしたって、睨み過ぎだ。


『そこの野郎! 何で後をついて来やがった?』


 そうなる。先に出たのはタメ口先輩であって、俺らじゃない。先輩の言い分は理解出来てしまう。


「ほらー! やっぱりしゅうが後をついて来たからだよ」

「野郎って言ってるから俺とは限らないぞ」

「それならボクじゃないよ。ボクは女子だもんね」


 こういう時に可愛い子ぶっても可愛くない。ただの逃げだ。


「ごちゃごちゃ何を言ってやがる! てめえだ、てめえ!」

「うおう!? いくら車の通行が乏しいとはいえ、道路を渡って来られるくらいお怒りでございますか?」

「しゅう、さっさと謝りなよ」

「俺じゃないっての!」


 湖沿いの道路はバスの通行が時々と、暇そうな車が通るだけでさほど通行量は多くない。さらに言えば、この道を歩く人はほとんどいないだけに、タメ口先輩の声の通りが凄まじくいい。


「一つお尋ねしますが、俺ですか?」

「エロ野郎じゃねえ! お前だ、お前! 学校を出た辺りから、ずっと睨みを利かせていやがって! 何か文句でもあんのか? あるんなら睨んでないで直接言いに来やがれ!」

「えっ……ボク? に、睨んでなんかいないし、後なんかつけてない!」

「とぼけんじゃねえ! 教室を出る時からあたしを睨んでいたじゃねえかよ」


 何という選球眼……ではなく、動体視力の良さなのか。いや、単に誰かからの視線に敏感なだけかもしれない。それくらいタメ口先輩は、いつも誰かから視線を浴びせられているに違いない。


「まぁまぁ、栢森先輩。コイツは野郎じゃないんですよ。コイツはこう見えて女子でして、野郎ではないので、どうかお許しを!」

「あぁ!? 女?」


 どうやら真面目に野郎と思っていたご様子。てっきり男女に関係なく、突っかかって来ているかと思っていたのに、野郎だと認識していたからこその態度のようだ。


「し、失礼しちゃうなぁ! ボク……わたし、女子なのに! 文句を言う相手が間違ってるんじゃないの?」

「女だとしても関係ねえんだよ! お前があたしをずっと睨んでいたことに変わりはねえだろうが!」


 さすがの先輩も理由もなく睨まれていれば、我慢のしようがなかったようだ。


「エロ野郎は、コイツの何だ?」

「はい? 俺ですか?」


 無関係そうだと思って優雅に湖面を眺めていたのに、急に俺の方に照準を合わせて来たのはどうしてだ。


「コイツじゃ話し合いなんて出来そうにねえから、エロ野郎が説明しろ!」

「優雨、何で俺に……って、そこで怯えまくって放心状態とか、勘弁してくれ……栢森かやもり先輩に言っておきますと、コイツは俺の妹でして、決して先輩に睨みを利かせたわけではないかと思うのです。俺と一緒に歩いていただけなので、どうかご勘弁を」

「妹? それなら、エロ野郎の責任だよな?」

「いえいえいえ、無責任です」

「そういう使い方してんじゃねえよ! 妹ってことは兄ってことだ。年上のお前が妹のしでかしたことの責任を取るべきだろうが!」

「あ、俺は年下なんですよ。すみませんねぇ」


 誕生日のちょっとした差に過ぎないが、事実である。


「くそが」

「いやぁ、すみません」

「じゃあ、あたしの言うことは聞けるよな? 年上の先輩に睨み付けをした罰を受けてもらうぜ」

「しかし睨んだのは俺ではございませんよ?」


 結局こうなるのか。しかし優雨では相手にならないだろうし、出来ない。俺と一緒に帰ろうとしたコイツに運が無かったとしか言えない。


「で、俺は何を?」

「送れ!」

「あ、光ですか? いやぁ、俺は光の速度ほどの速さは無くてですね、せいぜい駆け足くらいです」

「んだとこの野郎! 人の話は最後まで聞けって、親から教わらなかったのかよ!」

「送れと言われて最後までと申されましても」

「いちいち面倒くせえ野郎だな」

「褒めてもらって光栄です!」


 優雨をチラッと見ると、どうやら先輩にすっかり怯え切っている。さっきまでの饒舌さはどこへ行ったのか。ここは年下の兄が何とかするしかないようだ。


「送りましょう! 荷物ですか?」

「あたしだ、あたし!」

「先輩を瞬間移動は無理ですね」

「だー! 蹴るぞこの野郎!」

「で、家にですか?」

最初はなからそう言いやがれ! 面倒野郎が!」

「そうだと思ってましたけど、一応確認をしまして」


 湖沿いの道は歩けばたどり着く、何の難しさも感じない道である。まさかタメ口先輩は迷子スキルがお高いのだろうか。優雨も自宅というか俺の家まで送らなければいけないし、何とも厄介なことになった。

少々修正しました。

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