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1-4-2

主人公の核心部分です。

「あーあ。誰かの愛が欲しいなぁ……」


 そう冗談っぽくヒュルクは呟いていた。

 その瞬間にぐるんと音が聞こえてきそうな速度でソラウも理事長もヒュルクの方を向いていた。

 その表情も険しく、ヒュルクにはそんな顔をされた理由がわからなかった。


「え?いや、冗談ですよ?ただ理事長がソラウのことばっかり可愛がるからちょっと嫉妬したというか……」


「馬鹿言え。お前がそんな冗談を言うわけないだろ?愛が欲しい?お前が本当に誰かに愛して欲しいなんて願っているわけないだろうが」


「え?いや、俺だって誰かには愛して欲しいですよ。家族は今二人しかいないんだから……」


「あなたの嘘や演技で他の人は誤魔化せるかもしれないわ。でも、私たちは絶対に誤魔化されない。……あなたの願いは、私とは違うもの」


 一つの冗談でここまで真剣に捉われるとは思っていなかった。

 たしかに二人には何も隠し事はできないだろう。

 それはヒュルクが理事長はともかく、ソラウについても立場が逆になっても断言できることだったからだ。


「ああ、なるほど。理解した。なぁ、ヒュルク。俺たちの前でまでヒュルク・アスターク・ネインを演じなくていいんだぞ?それはあくまで学校や軍で不自然に思われないように、お前がナナシのままだと余計に不安を与えてしまうから演じてもらっているだけだ。俺たちの前でヒュルクのフリをしなくていい」


 ヒュルクは、いや、名無しは絶句した。

 名前は覚えておらず、番号で呼ばれていた頃。

 そこから二人に助けられ、番号に嫌悪感を抱き、仮にナナシと名付けられ、二人以外とも関わるようになってから急遽作られた人物、ヒュルク・アスターク・ネイン。


 人当たりが良く、ただの一般人として普通の感覚というものが刷り込まれた、虚構の存在。

 実際にヒュルク・アスターク・ネインは皮であり、ナナシがそれを被っているにすぎない。

 ヒュルクという皮は二人が用意したものだった。それを被っているだけ。

 ナナシ本人がそういう性格に変わったわけではないのだ。


 今でもナナシはナナシのまま、二人に救い出される前からほとんど変わっていない。

 少しだけ変わったこともあるのだが、それでも根本は変わっていないのだ。

 ヒュルクという皮を被って生きていても、一生ナナシはヒュルクにはなれない。


 ヒュルクのフリをしていても、ヒュルクとナナシが違うことはナナシ自身がわかりきっているし、ナナシである自分が確固として自分の中から感じられる。

 所詮、ナナシはどんな皮を被って他の人を騙していても、その被っている皮そのものになることはできない。それは今目の前の二人が証明した。


「あ……いや、たしかに、ヒュルクとしては、こう言うかなって思ったけど……。『ボク』は、あんなことを言うはずがない。……ヒュルクとしても、愛なんてくれなくていいです。そんなもの、『ボク』には受け止めきれない……」


 ポツリポツリと絞り出すように、ナナシは言葉を紡いだ。今だけはヒュルクの皮を被るなんてことはできなかった。

 する必要もなかった。


「ヒュルクに過剰にものを与えると、お前に影響があると思ってな。それでも必要なものは全部用意してやる。それは七年前から何も変わらない。何か必要になったら言ってくれ」


 理事長に言われて、ナナシは初めて「左眼」で能力を使った時のこと、そしてそれからの五年間、その生活の終わりを思い出していた。



明日も18時に一話投稿します。

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