1-4-1
4
今日は初日ということもあって、自己紹介の後一時間で終わった。
ソラウはすぐに帰る準備を済ませてしまい、教室から颯爽と出ていった。
ヒュルクも行かなくてはならない場所があるので帰る支度をしていたのだが、数人の男子生徒が近寄ってきた。
「なあ、ヒュルク。この後時間あるか?一緒に能力見せあおうぜ」
「……はあ?お前ら、魔眼は大人がいないと使っちゃいけない決まりだろ?成人するまで、個人的な使用は緊急事態を除いて禁止されてるんだぞ?」
「俺の兄貴がもう成人してるから大丈夫だよ。皆がどの程度魔眼使えるのか気になるし、親睦も深めたいからな。あと、お前の能力は皆気になってると思うぜ?どうだ?」
「あー、なるほど……。でも悪いな。この後知り合いに会いに行かないといけないんだ。また今度誘ってくれ。能力はその内見せるだろうけど」
ヒュルクはそう断って教室から出ていった。
学校自体はかなり広く、東棟と西棟、そして中央棟が敷地内の真ん中にある。
その上能力実験棟が東棟とほぼ同じ大きさであり、体育館が三つ、先程入学式を行った講堂が一つある。
校庭も様々なクラブが活動するために、または能力測定のために体育館が五つ分ほどある。
それが一つの敷地に納まっているのだから、かなりの大きさを持った学園である。
ヒュルクたちがいたのは東棟。
大部分が座学のためと、生徒たちの荷物を置くための教室になっている。あとは、一階がほぼ全部食堂になっているのだ。
西棟は教員の研究室や、大きな図書館、魔眼には関係ない実験室、つまり理科室や調理室などがある場所だ。
ここの一階部分は教員たちが会議をするための職員室と、この学校の事務室がある。
中央棟は主に他の学校の人間や、大学、企業の人間が訪れる場所。
ここは研究施設としても機能しており、それは魔眼に限ったことではないので、様々な人が訪れるのだ。
ここで三年生が実力を見せて大学であったり、企業などに評価され、推薦や内定をもぎ取ることもある。
あとは、校長室と理事長室があり、中央棟の一番上の階は全て理事長の私物となっている。
能力実験棟は魔眼に関する研究をするために様々な機械と部屋が集まっている。
この学校で一番お金がかかっている場所であり、この学校の心臓でもある。
ヒュルクが向かったのは中央棟の最上階。建物としては十二階建てなので、エレベーターに乗って最上階へ向かった。
だだっ広い最上階の中から理事長室という室札を見つけ、そこのドアを三回ノックしたが返事がなかった。
中にいるはずなので返事を待たずに入ると、予想通り椅子に座った理事長とソファに座ったソラウがいた。
「おう。ヒュルク、待ってたぞ」
「遅れました、理事長。いえ、お父さんって言った方が良いですか?」
「やめろって。お前の父親らしいことなんて碌にしてないんだからな。とりあえず座れよ」
理事長にそう言われてヒュルクは机を挟んでソラウの向かいにあるソファに腰をかけた。さすがにソラウの隣に腰をかけるのはためらわれた。
理事長は先程まで行儀よく座っていたのだが、目の前にある大きな机に両足を乗せて組んでいた。
「とりあえず二人とも、俺の学校へ入学おめでとう。万が一に備えて裏口入学も考えていたが、ヒュルクも一応合格ライン超えてて安心したぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。そりゃあ、必死に勉強しましたから……。去年なんて任務の移動中に教科書片手に持ってたほどですよ?」
「それでこの点数なのか?」
理事長は椅子の背もたれを軋む音が聞こえてくるほど湾曲させながら二枚の紙を見ていた。
二人の入試結果だ。
「お前、六百人中五百六十三番って……。下から数えた方が早いぞ?」
「しょうがないでしょう?勉強始めたのが最近なんですから……。そもそも軍事学校に通わせたのも理事長です」
「そりゃあそうだが、もうちょい何とかしろよ。ソラウなんて学年二十二番だぞ?さすが俺の娘だ」
「ありがとうございます。これからも精進します」
ソラウはもう一度頭を下げてお礼を言った。その発言にヒュルクは頭を抱えてため息をついた。
清々しいほどの贔屓だ。
「あの、ソラウだって俺と同じで養子じゃないですか。なのに娘扱いするんですか?」
「こんな可愛い子が養子とはいえ娘だったら大声で自慢したくなるのが男の性ってもんだ。お前はなぁ……。もうちょい可愛げがあればいいんだけど」
「無理な注文です。俺には……」
ヒュルクが視線を落としたことでソラウがヒュルクから視線を外し、理事長は頭を掻きながらため息をついていた。
「悪かったって。でもこの学校にいる限りは勉強頑張ってもらうからな?たとえ軍の方から呼び出しがあってもだ」
「それは、努力します……。っていうか、理事長の力で何とかなりませんか?俺たちって便宜上は交換特殊留学生ですよね?それなら成績の付け方にも少し反映されたって……」
「それは本当に便宜上のものだから無理。それにソラウは成績きちんと出してるだろ?」
「はい。私は問題ありません」
ソラウは淡々と答える。
その様子を見て、自分の状況を踏まえて、ヒュルクはソラウを贔屓目で見る理事長に異を唱えてみた。
「そもそも、俺が軍事学校に通ってる間にソラウは家庭教師から勉強を教わっていたんでしょう?俺と成績で差が出るのは当然なんじゃ……」
「ヒュルク。あなたが任務で外部へ行く時は私も一緒にそこへ行っていたわけだけど?言い訳じゃないかしら?」
「それでも勉強する時間は半分以上差があったって。軍事学だって試験はあったんだからな。まあ、さすがに軍事学校通いながら家庭教師のダブルヘッダーは俺でも受けられなかっただろうけど」
軍事学校は戦術や兵器について、軍の歴史などを勉強しながらあとはほとんど実戦練習であった。
肉体労働ばかりで、体力的にもきつかった。宿舎に帰ったら寝る者がほとんどであった。
ヒュルクは特別に別の小さな家を用意されていて、そこで寝泊まりをしていたのだが。
「そう思って家庭教師はやめてやっただろ?あとお前には右眼に月の兎があるから大丈夫だろうけどな。留年もしないで、卒業もできるだろ。でも一応成績はそれなりに維持しろ。出張のせいで休む日が多いだろうからな」
「……気を付けます」
理事長にヒュルクは逆らえない。
今の生活があるのも、こうして生きていること自体、目の前にいる二人のおかげなのだ。
ヒュルクにとっての最優先事項はこの二人。二人がどうかは知らないが、ヒュルクがそう思っていればいいのだろう。
明日も18時に一話投稿します。