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1-3-3

「えっと、ヒュルク君。質問いいでしょうか?」


「何?」


 まだヒュルクの周りには生徒が残っていた。

 蒼髪ストレートをハーフサイドアップにして赤いリボンで纏めている茶色い眼の少女だった。背は女子としては平均程度で、ソラウよりは小さかった。

 であるのに、スタイルは確実にソラウよりいい。ソラウだってスタイルは悪くない。平均程度か、それよりは少し細い程度。それ以上に目の前の少女の発育がいいのだ。


「ヒュルク君の将来の夢って何ですか?」


「「……」」


 この質問にヒュルクは面喰ってしまい、ソラウも本をめくる手が止まってしまった。

 二人にはヒュルクの夢というか、叶えたい願いはわかっている。だからこそ、すぐには答えられずに、ましてや、正直に言うことなどできなかった。


「そういう君の将来の夢は?えっと……」


「ああ、すみません。さすがにすぐにはクラス全員の名前なんて覚えられませんよね?わたしはメルニカ・シャイン・クレアードです。魔眼はレベル一の転移(テレポート)です。シングルですが」


「メルニカさん。うん、君の夢は?」


「自己紹介の時に言ってませんでしたからね……。ありきたりだとは思っていますが、魔眼研究職に就きたいと思っています。現状そうなだけで、大学に行ったら変わるかもしれません。そのために上の大学は目指してます」


 この学校に来た人間であれば、本当にありきたりな考えを持っていた。能力は特殊なものではあったが、レベル一でシングルであったために記憶に残していなかったのだろう。


「メルニカさんはどうして俺の夢なんて知りたいと思ったわけ?」


「今レベル二のすごい人が、将来についてどんなことを考えているのかと思って。選択肢は広いんじゃないかと」


「ああ……。俺には選択肢は少ないよ。もう視力が落ち始めてる。いつ右眼が失明するかわからないんだ。能力がない人間は研究者にもなりにくい。……俺は一般人として、のんびりと暮らせればいいよ」


「あれ?それってソラウネットさんと似ていますね?」


 ソラウの手が止まり、本を置いてこちらを睨んできた。

 この質問には解答を用意しておかなかった。だから適当に答えた結果がこれだ。

 適当というのは、本当に自分が思っていることであることが多い。受け売り、ということもあるが。


「……メルニカさん。ヒュルク『君』の考えは私たちにとってごく当たり前の……いえ、そこに行き着くしかない答えです。将来が決まっているんですよ。『あなたたち』と違って」


 明らかに敵意があった。

 魔眼を有している。

 それを将来にも役立てると考えている人たちとは一線を越えているヒュルクとソラウ。そんな二人からしたら、メルニカの言葉には反応しやすい。

 表情は先程から一切変わっていない。だというのに背中が凍えそうなほど、彼女の雰囲気は冷たかった。


「私には一生、能力が発現することがありません。ヒュルク『君』は早ければ数年後には視力を失って能力を失うでしょう。私たちには将来魔眼に関わって生きていくということはできません。……幸い私は女ですので、誰かと一緒になって家庭を築くという女の夢を叶えることができます。ええ、『普通』の、昔から夢見ていた夢をね」


「えっと……」


「私は将来、誰かと結婚するまで生きていくために高学歴という肩書きが欲しくてこの学校に来ました。きっとヒュルク『君』も同じでしょう。魔眼を持たない者は就職も一苦労ですからね」


 高圧的な話し方だった。口調こそ丁寧だったが、話し方も、内容も相手を嫌っているようであった。

正確にはこのような考えが蔓延している現状なのかもしれない。

 魔眼を持つ人間が九割以上。就職先でも必ず魔眼のことは聞かれる。それほど大事なステータスなのだ。

 魔眼を必要としない企業の方が少ない。その時点で選択肢が狭められているのだ。


「俺は学歴をあまり気にしてないよ。のんびり暮らせればいい。能力がある内はそっちで仕事就いて、なくなったら一からラーメン屋でも始めればいいからな」


 ただの冗談。こうでもしないと、この空気は変わらない。


「メルニカさん。君の考えはごく一般の、当たり前のものだ。でも、その当たり前が通じない人もいる。それだけは意識しておいてくれると助かるかな」


「あ、はい……。ソラウネットさん、すみませんでした」


「……そういう人は少ないと言っても、必ずいるの。気を付けなさい」


 メルニカは一度頭を下げてから、自分の席に戻っていった。

 それを見て、周りに自分たちの話を聞いていそうな人間がいないことを確認してからヒュルクはソラウに話しかけた。


「ソラウ『ネットさん』。少し高圧的だったんじゃないかな?」


「そうかしら?私が思ったことをただ述べただけですが?」


「……そのままだと、友達ができないと思う」


「余計なお世話です。そういうヒュルク『君』にはそういったお友達がいるのでしょうか?」


 そう言い返されて何も反論はできなかった。ヒュルクには生涯友達がいない。知り合いに分類される人間はいる。だが、友達という括りではないのだ。

 それはソラウも同じはずなのだが。

 かといって、ソラウとどういう間柄なのかというと、やはり友人ではない。もっと尊くて、何にも代えられない。


「……悪い、口答えなんてして」


 その言葉は本当に口から漏れ出てしまった小さなつぶやきだったのだが、喧噪の中でも隣の席の少女には届いてしまった。


「謝らないで。……泣きたくなるから。お互いに」


 その言葉で余計にヒュルクの胸は締め付けられた。ここで泣き出したらクラスの人間にどうかしたのかと怪しまれる。

 そしてこんなことでは泣けない。泣いたら自分が情けなくなる。

 そこから二人は終業まで一切話さなかった。ヒュルクは休み時間の度に誰かしらに話しかけられたが、友達と呼べる人間はできなかった。



明日も18時に一話投稿します。

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