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ぶっちゃけ、主人公が眼鏡なのは私の好みです。

眼鏡男子も眼鏡女子も、どっちも好き。


たまにアニメキャラとかが眼鏡屋さんとコラボしたりすると萌え殺す気かよとさえ思います。

 男子の自己紹介が終わり、女子の自己紹介が始まったが、それでもヒュルクはぼおっとし続けた。

 正確には耳を傾けてはいるが、興味のない内容であればそのまま覚えることもなく聞き流す。興味が湧いた内容を言った生徒だけ、顔を覚える。それだけだった。


 他に考えていたことは学校生活には関係ないこと。

 強いて言えば隣に座っている女子生徒のことであった。兼ねてからの知人であったため、名前も何もかも知っていた。

 そんな少女のことと、自分のこれからのことしか考えていなかった。


 とうとう隣の女子生徒まで順番が来て、少女は立ち上がって自己紹介をしようとした。

 黒く長い髪をなびかせ、凛とした佇まいで、背筋をしっかりと伸ばして立つ姿に男子だけではなく、女子までも彼女に注目した。


 同い年の少女には見えず、十代の少女が持つ雰囲気ではなく、もっと上の、大人の女性が持つような風体が彼女にはあったのだ。

 紛れもなく、同い年であるのだが。


「ソラウネット・R・アルソルートです。出身はジェイマス。私は盲眼です。将来の夢は普通に誰かと一緒に家庭を築いて、ひっそりと暮らしたいです」


 そう言ってソラウは席に座ったが、さっきのヒュルク以上にざわめきが起こっていた。

 盲眼というが、眼が見えないわけではない。魔眼を持っていない人間であるということだ。

 現在総人口の魔眼使いは九割以上。逆に言えば、盲眼であるのは一割未満である。


 十人に一人ぐらいはいる計算ではあるのだが、ここは魔眼研究における、進学校である。ペーパーテストよりも魔眼の制御、能力が試験で重視される。だからこそ盲眼の人間がいるというのは、意外なのだ。

 この学校にも数名、盲眼の人間はいる。だがそれは、全校生徒で数名なのだ。

 学力面でも優秀であれば入学は認められるが、あくまで両立するという志の人間が集まるような学校である。


 担任ですら、困惑した表情をしていた。

 自分が受け持つクラスで、盲眼の人間がいる可能性は低い。そしてこういう学校だからこそ、盲眼の人間は虐めの対象になりやすい。対応が面倒なのはもちろん盲眼の人間がいるクラスなのだ。


 ヒュルクは彼女のことを知っていたので、全く表情を変えなかった。そして話す相手もいなかったので、何かを話すということもなかった。

 さすがにざわつきが止まらなかったので、担任が一度柏手をした。

 その一音で教室に静けさが戻り、ソラウの後ろの席の女子生徒が慌てて、しどろもどろになりながら自己紹介を始めた。


 当の本人であるソラウは自分が盲眼であることを恥じておらず、先程と変わらずに姿勢を正したまま座っていた。

 それから十分ほどして、クラスの自己紹介が終わり、最後に担任が締めることになった。


「ほい。自己紹介お疲れ様。それじゃあ一年このクラスを受け持つ者として一言だけ。眼だけは悪くするなよ?そんなことで将来を棒に振っても意味ないからな」


 終業のチャイムが鳴ることはなかったが、それで担任が教室から出て行ってしまったために休み時間になってしまった。

 その結果、クラスでは自己紹介で気になった奴の席に行き、詳しく聞き出していた。


 担任が最後に言っていた眼を悪くするなという言葉。視力が能力に関係しているからだ。

 視力が落ちてしまうと、自動的に魔眼のレベルが落ちるのだ。これにはどのような経験があっても、知識があっても例外なく落ちてしまうのだ。

 そのため、眼鏡をかけている生徒は進学校やエリートほど少ない。


 見得を張ってコンタクトレンズをしている人もいるが、まずは視力が落ちない努力をしているために総数は少ないのだ。

 実際このクラスでも、眼鏡をかけているのはヒュルクともう一人の女子生徒しかいない。


 それでもレベル二であり、能力が珍しいヒュルクの元には数人のクラスメイトが集まっていた。隣の席の盲眼には話しかけることもせず、目的はヒュルクだけであるように。

 そんな彼女は、入学式が始まる前のように本を読んでいた。周りのこと、隣の席のことなど気にならないようだった。


「えっと、ヒュルク。お前の能力って具体的にどんなものなんだ?」


 顔も覚えていない男子生徒に話しかけられた。能力も覚えていなかったので、特筆することがなかったのだろう。珍しくもない茶髪の、取り柄もなさそうな男子。


「肉体強化系だ。他の奴と大差ない」


「でも名前が違うんだから、差が確実にあるんだろ?」


「月の兎だから、脚だけ強化とか?」


 赤髪に近いこれまた茶髪のウェーブがかかっていた、これまた能力も覚えていない女子生徒に話しかけられた。安直であったがため息をつくこともなく、一応誠実に答えた。


「そんなことはない。体全体につけられる」


「じゃあ何が特殊なの?」


「眼に月にいるような兎が映る」


「……え?それだけ?」


 周りにいたクラスメイトたちが一度静かになった。一人の女子生徒が眼鏡越しに見てきたが、そこにはただの紅い眼があるだけだった。


「能力使わないと出ないって」


「それもそっか。今って使うことできる?」


「三か月に一回やる能力診断があるだろ?それで見ろって。何にもないのに力使いたくない。ただでさえ眼が悪いんだから」


 今度こそため息をついた。眼鏡をかけているのだから、それぐらいは察してほしかった。無闇やたらに能力を使ったら、それこそ眼が悪くなってしまう。


「レベル二なのに眼鏡ってことは、前はレベル三だったとか?」


「いや?ずっと二だよ。眼鏡つけはじめたのは最近だからな」


「さすがにこの年でレベル三はないかー。それだったらもっと有名になってるはずだよね。クレイネスさんみたいに」


 クレイネス、というのは有名な魔眼使いだった。

 ヒュルクたちと同じ歳でレベル三、高校卒業とほぼ同時期にレベル四になったいわゆる天才。しかも能力が光子(フォトン)という珍しい光の粒子を扱うものであり、さらにダブルであるという、国家魔眼士に認定されている人物だ。


 これでまだ二十四という歳なのだから、知名度があるのもうなずける。

 国家魔眼士とは国ごとにいる魔眼使いの代表のことである。代表に選ばれるのは五人まで。

 大きな国であればレベル四のダブルやオッドアイであってもなる事が難しい称号である。


 その国で凶悪な犯罪が起きたり、他国との問題が発生したら優先的に招集され、国防軍とともに事件の解決に取り組む。

 これも一つの職業であり、子どもの頃は大半が目指すようなものだ。さすがに高校生くらいになれば自分の実力がわかって諦めるが。


「本当に兎が眼に映るだけなの?他に特徴ってないの?」


「それはお楽しみでいいんじゃないか?別に隠すほど特別ってわけでもないけど、全部知ったらつまらないって」


 ヒュルクは一度隣の席を見てみたが、ソラウは先程と変わらず読書をしていただけだった。

 誰も話しかけようとせず、不愛想に見えたが、長年付き合っているヒュルクは知っている。


「全部は知られたくないだけでしょう?あなたは、本当は誰とも話したくないくせに。私とは本当に真逆ね」


 そう思っていることが読み取れた。もちろんソラウは声に出してなどいない。だがどうせそう思っているのだろうと予測することはできた。

 また、外れてもいないことも。


「それ、伊達眼鏡じゃないよね?」


「……つけてみるか?」


 ヒュルクは黒縁の眼鏡を外して、そう尋ねてきた女子生徒に渡した。それを女子生徒はつけてみると、すぐに眼鏡を外して眼を押さえた。


「~ッ!強すぎ!」

「まあな。眼鏡外すとほとんど周りが見えないぐらいだ。最近乱視にもなったし」


 そう説明しつつ、ヒュルクは眼鏡を回収して再びつけていた。

 予定通り。

 ここまで大方、入学前に想定していた通りに事を進めていた。これでヒュルクが眼鏡をかけていることに大半の生徒は納得できたはずだ。


 少し予定と違うと言えば、誰もソラウに話しかけないこと。盲眼であるため、興味本位にしろ何にしろ話しかけられると考えていたのだが、誰も話しかけることはなかった。

 彼女自身がずっと読書をしていて話しかけづらいことと、彼女が纏っている雰囲気が同級生のものと違うことと、彼女自身が誰かに話しかけようとしないからだろう。


「ジェイマス出身って言ってたけど、どこの学校から来たんだ?っていうか、知り合いいるのか?」


「ああ、悪い。出身って言っても産まれがジェイマスってだけで、学校はカルニアスにあるとこに通ってたんだ。親の都合でこっちに戻ってきたんだが、わかりづらかったな」


「そんなの言わねーとわかんねえって」


 これも想定していた質問に機械的に答えただけだった。どんな質問が来るかはほぼ予想できる。あとはそれに無難な答えを用意しておけばいい。

 そもそもヒュルクもソラウも、親の都合などは全くない。二人の意志でここにいるだけである。

 それでも、ヒュルクはいまさら学校生活を送るとは思っていなかったが。


「能力があるのってどっちの眼?シングルなんでしょ?」


「右眼。利き手も右だから、まあそうかと思ってる」


 利き手と利き眼が同じになりやすいのは人間の構造上の問題だった。

 ただオッドアイやダブルの人間が両眼とも利き眼であるわけでは当然なく、シングルであれば利き眼が魔眼になりやすいということだった。

 そう言った後周りの人間が右眼と左眼を見比べてきたが、今は能力を使っていないので変化があるわけではなかった。


「……俺が言えることってこんなもんなんだけど。他の奴にも話聞いてみたら?」


 事実と、隣の席で不愛想に読書を続けているソラウへ助け船を出したのだが、ヒュルクの近くにいた生徒たちはソラウへ話しかけることなく、他の席へと向かっていった。

 自分から聞いておいて、人の話を聞いたのに自分のことを話さないとはどうなのだろうか。

 ヒュルクは決めていたことを話しただけではあったが、あまり話すのは得意ではない。集団行動が苦手であり、学校生活にも馴染んでいない。


明日も18時に一話投稿します。

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