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やっと主人公の名前出せました。
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入学式が終わって新入生たちが講堂から出ていき、自分たちの教室へと戻っていった。さすがに式が終わってしまえば寝ていた新入生たちも起き、足取り重く帰っていった。
それは例の少年も同じであり、中途半端に寝てしまったために返って眠気に襲われていた。
教室に戻ると、担任が黒板に白いチョークで大きく自己紹介と書き込み、さらに名前、出身地、魔眼の名称と加えた。
「これが最低限話すことな。まず手本として俺がやるか。一年B組の担任をすることになったクラウス・L・エニメルだ。出身はこのジュマイス地方な。今年で四十二になる。魔眼は発火だ。レベルは二。教師になろうと思ったのは大学に行った時に何となく教育実習を経験したらはまっちゃったんだな、これが。こんなもんでどうだ?ってことで一番から順にやっていってくれ」
生徒は椅子から立ち上がり、その場でクラス全体に姿が見えるように体の向きを変えて話していた。
先程誰とも話していなかった少年少女は話を聞いているのかどうかわからなかった。
少女の方は男子の話など一切聞かないとでもいうように目を閉じていて、少年の方は話し半分に聞いているようだった。
ただ魔眼についてだけは真剣に聞いているようだった。
「能力は暗闇。シングルです。レベルは一」
シングル、というのは片目にしか魔眼が宿っていないということ。もう一つの眼はただの眼であることに変わりはない。
両目とも魔眼になるとは限らないのだ。それは遺伝、才能で決まる。残念ながら努力ではどうにもならないものである。
両目とも魔眼を宿している人間をダブルと呼ぶ。
魔眼には能力の持続時間と次に使うまでのインターバルが存在する。両目とも同じ魔眼ならば、片目がインターバルを迎えている間にもう片方の眼を用いて戦闘を続行できるという利点がある。
重ねがけということもできるので、威力も倍増させることもできる。
それとは異なり、努力でどうにかなるのはレベル。
これは魔眼のことを研究し尽くして、どういった利用法がいいのかを理解すれば上がる。これは魔眼の効率や有用性、威力などで決まってくる。
成人前であれば二もあれば優秀とさえ言える。最大値は四であり、世界的に見てもレベルが四の人間は世界に百人程度である。
ぼおっとしていた少年がこの男子生徒の自己紹介を聞いていたのは暗闇が珍しい魔眼だったからだ。
相手の眼を見ると、その人間の視力を一時的に奪うというものだ。これは魔眼封じとしては優秀な部類になる。
視力がなければ魔眼は発動せず、一時的であっても光すら見えなければどんな魔眼であっても意味がない。先手を取られてしまっては誰も相対できない。
眼そのものを潰す、というのは魔眼使い同士の戦いで初歩的な手段である。
こういった魔眼の名称は三歳の時に検査してその系統ごとに名前を付けられるのだが、例えば発火であっても、力の強弱、炎の発現の仕方によっては太陽、陽光などと呼ばれることがある。
産まれてきた時はどうあってもレベル一で産まれてくるので、あまりにもレベル一とは思えない魔眼には特別な名称が付けられるのだ。
レベルの測定方法は眼の瞳孔に現れる線の色。
青なら一、緑なら二、赤なら三、金なら四といった具合だ。
レベル一程度ではたとえ優秀な魔眼であっても、相手の視力を奪えるのはせいぜい三秒。実用的ではない。少年はレベルを聞いてからまたぼおっとし始めた。
それからしばらく特筆もせず少年の近くまで自己紹介が進んだ頃、一人の魔眼の紹介が始まった。
「自分はオッドアイです。どちらもレベルは一ですが、能力は発火と透過。よろしくお願いします」
この男子生徒が言ったオッドアイとは、両目で魔眼が異なること、及びそういった魔眼使いのことである。
これは両目に同じ魔眼が宿るよりもさらに珍しいことだった。レベル四のように世界的に珍しいということではないが、それでも数はかなり少ない。
オッドアイはたしかに複数の能力を持っているために戦いになったら応用性の効く運用ができる。
ただ欠点もあり、一つの能力を極めた魔眼使いには敵わないのだ。ダブルの魔眼使いには同じレベルであっては能力としてはどうしても勝てない。
だから応用を効かせて勝つしかないのだが、どちらの眼も同時併用していては、インターバルをすぐ迎えてしまう。そういう意味でも勝ちにくいのだ。
能力、透過は対象の体を透明化する力。レベルによっては体の一部しか消すことができない。または数秒程度しか姿を消すことができない。
さらに姿を消すのみであり、気配や音までは消すことができない。これはレベル四になっても変わらなかった。
ぼおっとしていた少年もさすがにオッドアイがいたことには少なからず驚いていたが、どちらもレベル一ということと、能力がわかってすぐに興味をなくしてしまった。
またぼおっとすることに戻ろうとしていたが、自分の自己紹介の番が近くなっていたために内容を今になってまとめ始めた。
少年の番になって、少年は立ち上がり自己紹介を始めた。
「名前はヒュルク・アスターク・ネイン。出身はジェイマス。魔眼は月の兎。肉体強化系。レベル二、シングル。以上です」
ヒュルクは言い終わると、さっさと席に座ってまたぼおっとし始めたのだが、クラスの中でざわめきが起きていた。
ヒュルクが言った魔眼の名称に聞き覚えがないからだ。
本来、肉体強化系と言えば一般的な名称は戦士である。そうではない名称ということは特殊魔眼。一般的な魔眼と似てはいるのだが、効果が段違いであるからだ。
特殊魔眼の生徒は今までの自己紹介では誰もいなかった。
一応このオケアマス学園は魔眼の育成で有名な学園なのだが、それでも在学生の中でオッドアイと同じくらい特殊魔眼を持った生徒は少ない。これも結局天から与えられた才能によって左右されてしまうからである。
それでも、次の生徒が自己紹介を始めたらざわめきもなくなった。
珍しい、ということ以上にも興味はあったのだろうが、それでも他人の自己紹介を邪魔しようという人間はいなかった。
明日も18時に一話投稿します。