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本日二話目です。
5 帰るべき場所
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オケアマス学園中央棟理事長控室2。
そこにあるのは小さな本棚とシャワールームと冷蔵庫と給水器、ベッドくらいしか物がなかった。
そもそも理事長は理事長控室1を使っているので、この部屋に入り込むことはほぼない。本棚があるといっても、別の部屋に書庫があるためすっからかんに近い。
そこのベッドで白いタオルケットを被って寝ている少女が一人。ソラウだ。
あのクーデターが起きた日からここで寝泊まりしている。
食料については学校にかなりの備蓄があったため、全く困らなかった。起きている間はルトゥナとラヴェル先生と話すか、読書をしているかのどれかだった。
今クーデターが起きてから三日が経ち、昨日の職員会議で今日から学校が再開されるということが決まった。
だというのに、時計の針がすでに七時を指しているのに彼女は起きない。
ルトゥナに学校をしばらく休んでもいいと言われて、朝早く起きる気になれないのだ。
大切な弟が帰って来ないこともある。
そんなまるで眠り姫を縛る城のようなこの部屋の扉が開いていった。この部屋は理事長の親しい人しかもらえない特別なカードが必要なのだが、その人物には関係なかった。
「やっぱりこっちにいた。さすがにあの家に一人は寂しいだろうからな……」
入ってきた少年は彼女を起こさないように足音を消して近付き、ベッドで寝静まっている顔が見えるような位置に跪いた。
その顔が穏やかであることを見て、不器用ながら少年は笑えていた。
「ただいま、ソラウネット。当分は、これで大丈夫だから……」
そう言って名前のない少年は、無造作にベッドに置かれている少女の右手を、自分の左手で握ってそのまま眠りについてしまった。
八時のアラームが鳴る。
一応八時には起きようと思っていたソラウはその音で目を覚まし、いつもの癖で利き手の右手で目覚まし時計を止めようとした。
すると不思議なことに右手には暖かさと重さがあった。寝ぼけ眼なままその右手を見てみると、誰かに強く握りしめられていた。
その手の持ち主を見てみると、床で眠り続けている少年だった。その表情を見ただけで、今目の前にいる少年がどちらなのか、ソラウには一瞬でわかってしまった。
ひとまずアラームを左手で止めて、自分のタオルケットを少年にかけてあげた。
今は真っ赤なパジャマを着ていて、それを誰かに見られるというのは御免こうむりたいソラウだったが、この少年ならいいだろう。
すでに見られているのだから、一度も二度も、変わらない。
それよりは、寝ていてもこの少年にかけるべき言葉があった。
「お帰りなさい。……大好きよ、あなたのこと」
明日は十八時に一話だけ投稿します。




